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金剣ミクソロジー⑥理想の男性

Fate/Zero二次創作です
注意点
※アルトリアとギルガメッシュが第二次聖杯戦争の後も現界してるif設定
※ギルガメッシュの求婚にアルトリアさんが応えて、二人が夫婦という金剣ドリームです
※ギルガメッシュはアラブの石油王、アルトリアさんはイギリス随一の実業家&馬主(not JRA)に成り上がっています

     理想の男性

 1924年。
 世界は空前の好景気に沸いていた。ギルガメッシュの事業も例外ではなく、彼は本格的に不動産業に乗り出しはじめた。当然、アルトリアの社交界への出番も増える。貴族たちの生活はますます苦しくなり、こっそりと土地を売りに出す者が増えていたからである。アルトリアはパーティに顔を出しては、そういった情報をいち早く聞きつけ、ギルガメッシュに知らせるようにしていた。
「ねえ、お聞きになりまして?」
「聞きました。セント・オールバンズ公のお話」
「家を絶やすおつもりなのかしらねえ」
 アルトリアは知らない振りをして、穏やかに耳を澄ます。御婦人方の噂話ほど正確なものはないからだ。
「もともと、あまり所領をお持ちじゃなかったから」
「ロンドンのタウンハウスをお手放しになるって……」
「どう思われます、アルトリアさん」
 来た! アルトリアは扇片手におっとり頷いた。
「御時世というものではないでしょうか」
「全くだわあ」
「嫌な時代になりましたものね」
 背負う物の大きい貴族たちには苦しい時代がやってこようとしていた。しかしギルガメッシュとアルトリアは今日あるを見越して、不都合な爵位など賜らぬよう注意深く行動してきたのだ。むしろ好立地にあるセント・オールバンズ公の土地を手に入れるチャンスが来た、というのがアルトリアの本音だった。
 これは帰ったら、ギルガメッシュに投資を持ちかけねば。
 扇を揺らめかせて物思うアルトリアの隣で、婦人の一人がぱんとバッグを叩いた。
「辛気くさい話はおしまい。せっかく皆様でいるのですもの。楽しいお話をしましょう」
「そうね」
「最近、素敵な殿方はいらっしゃる?」
「素敵と言えば、ほら」
 全員の視線が集中し、アルトリアは気配に飛び上がりそうになった。
「は、ははは、はいっ? 何ですか」
「ねえねえ、アルトリアさん。アルトリアさんの理想の男性って、どんなタイプ」
 興味津々という顔で覗きこむ御婦人にアルトリアはきょとんとした。
「理想の男性?」
「そうよ。貴方がこれと思う男性ってどんな人なのかしら」
「これと思う男性……」
 アルトリアの頭にとっさに浮かんだのは円卓に集う騎士たちだった。彼女は滔々と語りはじめた。
「男たる者、まず勇気がなければいけない。もちろん平時より身を律し、常に凜としていなくてはならない。弱い者には優しく、強い者にはおもねらず、誰に対しても公正に接するべきだ。剣や馬なぞ腕が立たぬともよい。そんなものは訓練次第でなんとでもなる。大切なのは心だ。常に理性を保ち、情動に揺らがず、目的を見失わぬ男でなければ大成はせぬ」
 言いきってしまって、アルトリアははっとした。
 ああ、つい昔の口調に……失敗した。
 慌てて周囲の御婦人方を窺うと、彼女らは扇の先を口元にあてて困ったように微笑んでいた。
「本当に旦那様がお好きでらっしゃるのねえ」
「ほんと。理想の男性と結婚してるって羨ましいわ」
「いや全く理想などでは」
 アルトリアが両手を振って否定するも、彼女らは聞いてもいない。
「ほら、見目麗しい旦那さまをお持ちだから容姿のことなんて、これっぽっちも」
「やっぱり素敵な殿方と結婚したいわあ」
「そうではなくてっ」
 必死にアルトリアは言いつのるが、誰もまともに取りあおうとはしなかった。アルトリアは半ば途方にくれ、しかしこういった反応に慣れてもいた。
 社交界を渡って50年。流石に奥手のアルトリアにも、ギルガメッシュが多くの女性にとって、まさに理想の男性であることに気づかざるをえなかった。秀麗にすぎる美貌、すらりと均整がとれ、ほっそりとした長身。よく通る朗らかな声。洗練された身のこなしと尽きることのない豊富な話題。頭が良く金持ちで、アルトリアの自由な行動から窺いしれる鷹揚さと懐の広さ。これ以上、何を望むことがあろうかというほど完璧に見えるらしいのだ。
 そうなのだろうか。
 アルトリアは帰りの馬車の中でも考えつづけてしまう。
 私にはそうは思えないのだが……
 アルトリアにとって、ギルガメッシュは複雑な印象を持つ男だ。この上もなく高飛車で頭ごなしのくせに、こちらの話を無視したりせず意外と優しい。だいたい第一印象が悪かったのだ。そのくせ知るほど彼はさまざまな側面を見せる。彼の装うだらけた空気と反対に勤勉だし、人前では常にそつがない。金持ちの無駄遣いを馬鹿にする反面、給仕の少年などには気前よくチップをはずんでやる。どれほど自分が不利でも決して退かず、自分が世界の王なのだという気概を忘れることがない。
 そこまで考えて、アルトリアははっとした。
 男たる者、まず勇気がなければいけない。もちろん平時より身を律し、常に凜としていなくてはならない。弱い者には優しく、強い者にはおもねらず……先ほどの自分の言葉が、ぴたりと彼にあてはまってしまうことに気づいた。
 彼に勇気がないと思う者はいない。馬も剣もアルトリアから見て申し分なく、さらにすでに大成しているときた。
「……」
 アルトリアは馬車の中でひとり頬に両手をあてて黙りこくった。
 まさか私は、私は、理想の男だから、彼を好きになったのか!?
 そうではない。
 初めて会ったときから、そんなことが分かったわけではないのだから。
 ああ、でも、だから私は彼が円卓にいてくれたらなどと考えてしまったのか。
 アルトリアは夕暮れの馬車の中で顔にクッションを押しあてた。とにかく恥ずかしくて一人でいても耐えられないくらいだった。
 ホテルに帰り着くなり、アルトリアはリビングのギルガメッシュに詰め寄った。彼は机で書きものをしている。その背中からいきなり呼ばわった。
「ギルガメッシュ、貴方は私の理想の男なのか!?」
 一瞬、ギルガメッシュは非常に複雑な表情を浮かべた。嬉しそうな明るい顔と驚きの入り混じった、しかしとまどうような思いきりの悪い表情だ。ギルガメッシュは計算高いくせに意外と顔に感情が出る。
 睨みつけるアルトリアを見上げて、彼は肩をすくめた。
「それはオレが決めることではあるまい。オレの方こそ聞きたいものだな。オレはそなたの理想の男になれておるのか」
 ぼんと顔が熱くなって、アルトリアはぱっと背中を向けた。長いアンシンメトリーのワンピースの裾が翻る。ぎざぎざの裾の下でアルトリアの足がほのかに染まっている。
 ギルガメッシュは見てとって、にやりと笑った。
「何を言われたか知らぬが、そなたはオレの理想の女ぞ。胸を張れ」
「……はい」
 消え入りそうな返事をしたことさえアルトリアは分からない。
 だめだ。なんだかドキドキしすぎて考えられない。
「んー!!」
 床にしゃがみこむアルトリアをギルガメッシュが笑って見ていた。

↑アルトリアさんとギルガメッシュの話、いろいろ入っています。
↓二人が出る第三次聖杯戦争ものはこちら。

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