Fate/Revenge 17. 聖杯の成る時-①
二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。
17.聖杯の成る時
騎士王の光が消え去ると、ブランデンブルグ門の上で雲が渦巻いた。ホテル・アドロンのバルコニーにいたウォルデグレイヴの目からはことに奇妙な光景だった。極小の竜巻のように雲や風が渦を巻き、天上へ伸び上がっていく。
失われたはずの大聖杯の真上だ。
「何だ、あれは……」
遠坂明時、そして英雄王ギルガメッシュも天を仰ぎ、異変に気づいていた。
「聖杯だ」
明時がふらふらと門の下に降り、両腕を天へ差しのべた。その顔は陶酔に満ち、足元は夢遊病者のようにおぼつかず、ふらついていた。
「あれが私の聖杯だ!!」
天に今や、黒い大孔が空いていた。そこには異界が口を開き、ぐらぐらと煮え立つような蜃気楼が見えた。それは、こちらへあふれ出ようとしている。何か黒いものがふつふつと滾り、この世に生まれでようとしている。
フンボルト大学の屋根から見守っていた璃正も身を乗りだした。
何かおかしなことが起こっている。璃正が思ったのは、それだった。あれが本当に聖杯なのか。聖杯が明時の望みに反応して姿を変えているのだろうか。
璃正は聖杯がどんなものなのか、知りもしなかった自分に気づいた。
聖杯は果たして、本当に成ったのだろうか。
「あれが根源に至る道、私が、私だけが行ける道っ」
明時があごを上げて壇上の英雄王を見上げた。酔いしれた顔は明時とは思えぬ形相だった。目を見開き、爛々と光る眼差しだけが目立っていた。彼は乱暴に手を振り回し、英雄王を呼びつけた。
「我がサーヴァントよ、聖杯を持て! 私のもとへ根源に至る鍵を持て!」
「誰の許しを得て、そのような口を利く。雑種」
混沌の王の片手に黄金の鍵があり、それは姿を変えていく。黒い艶のない短い剣、赤く鍵の描かれた原初の神器。それはぐるぐると各部位が回転し、稼働していた。混沌の王が剣をかかげる。
「この世の宝は須く我のもの。あの下らぬ杯も宝である以上は我のものだ。あの孔は杯によって啓いたのであろう。ならば、どうするかは我が決める」
璃正ははっとした。
あの暗殺者はずっと騎士王に心を寄せていた。セイバーの望みは聖杯を破壊すること。それも璃正にとっては驚愕だった。彼女こそは歴史上で最も聖杯と関わりが深く、最も聖杯を追い求めた人物といってもよかったからだ。
彼女は三度、参戦したと言った。
第一次聖杯戦争のことは知らないが、第二次聖杯戦争は御三家と魔術協会の間で凄惨な殺し合いになったと聞く。彼女は聖杯戦争に疲れていたのかもしれない。
「まさか、アサシンは明時さんよりセイバーを……?」
明時がすばやく手をかかげ呼ばわった。
「遠坂明時が令呪をもって命ずる。我がサーヴァントたるアサシンよ、聖杯を我が下へ!」
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