別れることが決まっているカップル──フリーレンを楽しむ魔法①
普段、二次創作はあまり携わらないのですが、ちょっとだけ話したくて記事を作りました。
原作のネタバレが多数ありますので、原作未読の方は御注意下さい。
コミックス12巻までの内容で書いた記事です。
別れることが決まっているカップル
『葬送のフリーレン』には、はっきりと付き合っているカップルが存在しません(117話まで)。
そんな中でさまざまな描写からヒンメルがフリーレンを好きだったと推測することは難しくありません。そして、たぶん、フリーレンもヒンメルを好きだと思われる描写もたくさん出てきます。
しかし二人は全く寿命の違う異種族カップル。たくさんの困難が二人を取りまいてしまいます。
私は別れることが決まっているカップルが大好きです!
別れると言っても、それは仲違いするとか、裏切ったとか、そういうことではなく、お互い思っているのに、何らかの事情でともにいられなくなるカップルが好きなんです。特に読者には別れるだろうことが示唆されていて、カップルのどちらか、もしくは両方がそれを予期し、微妙な関係になっているときが一番ドキドキします!
そういう意味では、フリーレンとヒンメルは全ての条件を満たしている、とてつもない大好物だったりするわけです。
出会いから、再びの出会いへ
そもそもヒンメルとフリーレンの出会いを考えると、初めて会ったときから、ヒンメルにとってフリーレンは特別だったと考えられます。
おそらく初めて見ただろうエルフ、年若い少女の姿──しかし子供だったヒンメルから見たら、立派なお姉さんです──魔王軍との戦い全盛期に生まれたヒンメルにとって、魔法使いとはヴィアベルのような武闘派であったかもしれません。しかしフリーレンは花畑を見せました。美しい花畑。彼にとって、恐ろしくない、平和な魔法使い。それがフリーレンであった。
とすれば、そのときから好きだった可能性は高いような気がします。
はっきりとした恋心の自覚はなくても。
彼が魔王と闘うことを決意し、ハイター、アイゼンをスカウトした後、どんな気持ちでフリーレンの住む森に分け入ったんだろうと思うだけでドキドキします。
初恋の魔法使いに「僕達と一緒に魔王を倒そう」と手を差しのべた(のかもしれない)ヒンメルの気持ち──自分は今、大人になって、やっと彼女に追いついた。そして彼女は髪一筋も変わっていない。初めて出会ったときの美しい幻のように、自分の前でつまらなさそうにハーブを集めている!
だからこその「今の話」──
そしてフリーレンが旅立つことを承諾し、共に過ごせた十年間。
それって宝石のような日々だったりしない!?
でもすぐ死んじゃうじゃん
フリーレンは大変な長命種です。そのため多くのすれ違いが発生しますが、それはヒンメルたちとの旅でも変わらなかったことが示唆されます。フリーレンは「人間はすぐに死んでしまう」と何度も指摘します。それを聞くたび、ヒンメルが浮かべる悲しげな表情も印象的です。
グラオザームの言を信じてよければ、ヒンメルはフリーレンを愛していたけれど、結ばれることは諦めていました。
自分ではずっと一緒にいてあげられない。
だからせめて銅像を残した(フリーレンに覚えていてほしい!)。
ひざまずいて鏡蓮華の指輪を嵌めた。
少しでもたくさん思い出を作りたくて、必要以上に旅を急ぐことはしなかった。
魔王を倒して、ヒンメルが帰還したとき、それは冒険の終わりだけでなく、フリーレンといられる日々の終わりでもあったと考えると。
胸がいっぱいになります。
人間の寿命は短いって
対して、フリーレンはどうだったんだろうと思いますが、感情の乏しいフリーレンのモノローグに恋愛めいた述壊は見当たりません。
強いて言えば、幻影鬼との戦いで、フリーレンが見る幻はフランメからヒンメルに変わっていたことが提示されます。ここで確定できるのは、ヒンメルたちと過ごした日々が、フランメとそうであったように「楽しい」ものであったことだけです。
でも、これはフリーレンの一番がヒンメルに変わっていたことを示してもいます。恋愛ではないかもしれないけど、心の中で一番大きな存在はヒンメル。
そして感情らしい感情を持たず、表情もほとんど変わらないフリーレンが、ヒンメル埋葬の際に見せた号泣。自分の村が滅ぼされたときも泣かなかったのに。
これはやっぱり好きなんじゃないかなって。
死んでしまってから愛されていたことに気づくとか、なんてドラマティックなんだ!
ハイターとアイゼンは仏心の守り神
で、思うわけです。
フリーレンが魔王討伐の旅路の中、破壊された建物を花畑の魔法で飾ったとき、ヒンメルは彼女に花冠を作ってかぶせます。圧倒的なシーンなんですけど、バックでハイターとアイゼンが気持ち悪く(失礼。褒め言葉なんです)走り回っているのでコミカルにも読めます。
でも、あれ。誰でもそうなるよなって。
アイゼンとハイターはヒンメルの片思い、そしてフリーレンの心の底にも気づいていました。すでに第7話 魂の眠る地でアイゼンが指摘しています。二人が可哀相だと思った、それについてハイターと相談したと断言しています。
目の前に両片思いのカップルがいて、二人の気持ちに確信はあっても、何か手出しするのは難しいと思っていたら、どうします。
せいぜい自分たちは走り回って、二人をそっとしてあげるのが親切というものではありませんか。
分かっていたのに、何もできなかったと思ったからこそ、アイゼンとハイターはヒンメルを失ったフリーレンに心の支えを用意しようとします。それはフェルンの存在だったり、魂でもいいから、もう一度ヒンメルと話してこいと勧めることだったり。そしてヒンメルが聞きたかったであろう言葉を天国に届けようとする。
フリーレンとヒンメルにとって、ハイターとアイゼンは守護神のように優しい存在だと思います。特にフリーレンに対しては。ヒンメルと同じく、いつか自分たちはフリーレンを置いていってしまう。だからヒンメル亡き後は、ヒンメルであればしただろうことを実行し、出来うる限りのことをしてくれるのですから。
両片思いの構図
ヒンメルとフリーレンを両片思いとして、物語の構図を眺めると、彼らの対称項として物語の中心にいるのはシュタルクとフェルンです。
どちらもお互いに自分が相手を好きなことに気づけていない感じです。そして、どう振る舞っていいのか、分からなくてトラブルばかり起こしてしまいます。雰囲気は違うけど、ヒンメルとフリーレンの微妙な関係を彷彿とさせます。
シュタルクはアイゼンの一番弟子であり、フェルンはハイターの養い子にして、ゼーリエ−フランメ−フリーレンと続く頂点の魔法使いの系譜を継ぐ、フリーレンの一番弟子です。
魔王討伐パーティの系譜を継ぐ二人が結ばれたら、ヒンメルとフリーレンの思いが別の形で昇華できることになります。
もう、付き合っちゃえよ! って物語構図としても思うのです(笑)
これからも気が向いたら、フリーレンの話をアップするかもしれません。本業とは違うけど、共通のご趣味がある方に楽しんでいただけたらと思います。
関連記事が↑こちらにも。作品構造の読み解きと合わせたエッセイです。
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