第七章:瓦解

ある朝、魔女が目を覚ますと宝石職人は一人もおらず、宝箱は空だった。

寝ぼけてまどろんだ眼は、虹彩も瞼も痛いほどに見開いた。目覚まし時計が止まっていたのに気が付いた時のような表情をして倉庫や工房を確認し、しばし唖然としたかと思うとはっと気が付いたように男のもとへ走った。

最悪の事態を想定しながら走ると、男は砕け散って宝石になっていた。

女は足が傷つくのも気にせずに細かな宝石の破片の上に崩れ落ちた。

しばらく人型の形に散らばった宝石を眺め、そこに男の姿を見つけ出そうとするかのようにかき回し、手が宝石で傷ついて血を流した。

最悪の事態を深く想定したのにもかかわらず、それを受け入れられないのであれば、そのような想定は何の意味があったのだろうか。女はこの状態は嘘である、という限りなく低い可能性を探ろうと必死だった。


血だらけになってついに男がどこにもいないのを悟ると、女は宝石を握りしめ石は手の中でキシキシと音を立てて手につき刺さった。肩は強い力をだしているためにガタガタ震え、眼は見開いている。

目がまっさらに開いているのにもかかわらず、こぼれ出るように水滴がぽつぽつと流れ、床に落ちていった。魔女はさらに宝石を強く手を握りしめると絶叫するように泣いた。

ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ

それは一見、悲しみのようであったが、実際はとても激しい怒りだった。女王のように精悍に凛々しく、召使に「逃げた宝石職人を殺せ」と命じた。

顔つきは男のように鋭かったが眼からは涙が流れ続けている。魔女はとても愚かで弱かった。

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