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部外者として生きる。

どうも、ケイト川上です。
もちろん、本名じゃありません。
源氏名ってやつを一度くらい付けてみたくて。

夜の世界って聞くと、何を想像します?
キャバクラ?風俗?ホスト?
最近は、女性用風俗なんかも流行ってるらしいですからね。 

僕、ケイト川上は、スカウトです。
女性に夜の仕事を紹介する、あれです。
映画や漫画があったから、なんとなく想像つくんじゃないかな?
あんな暴力的なシーンはないけど。

はたから見れば、僕はきっと夜の住人ってことになる。でも、あまり実感がない。夜ってほど夜にいないし、終電前には帰ることが多い。
酒は年に5回も飲めばいい方で、最近は、タバコもやめました。何も酒とタバコが代名詞って場所じゃないけど、イメージはあるでしょ?

僕の場合、盛り場を嫌う性格も相まってだけどね、夜と称されるフィールドにあまりいない。けど、僕らスカウトっていうのは、そのプレイヤーではないと思うんですよ。
それはキャバ嬢であり、ホストであり、風俗嬢・男たちであり、それを支える黒服たちはもちろん、もしかしたらお客さんたちですら、夜の当事者感は僕よりも強いんじゃないかな。

プレイヤーなんだと思うにはちょっと無理がある気がして。それは、住宅セールスの友人が酔いに任せて始める、不動産業界の盟主然とした口調に違和感を覚えるあの感じにすごく似てる。お前、設計も建築もしてないくせに、って。

じゃあ何か?と聞かれた場合、裏方、というのも正確じゃない気がする。それは黒服だよね、従業員たち。だって現場にいないんだもん、僕は。街にいるから、きっと違う。

性分かな、自分のポジションについて考え始めて、ピッタリな言葉を見つけました。我ながら良い発想だなと思ったけど、一般的に、その言葉はネガティブな響きを持ってる。
でもなぜか、僕は心地よかった。難問が解けたみたいに、その言葉が浮かんだとき、自分の生き方にようやく名前が付いて僕は嬉しくなった。

部外者。

僕はスカウトを、自分自身を、そう名付けた。

部外者は、違和感を持つ。それも当然、だってその輪の中に彼はいないんだから。もしくは、輪の中にいながら当事者になり切れないんだから。
僕は、そうやって生きてきた。
けどそれは、仲間外れとはちょっと違う。僕は仲間でありながら部外者だった。

でも今は、部外者である自分を全うしたいと思ってる。誰かの力になれるって、わかったから。
きっかけは、ある女の子から来た一通のラインだった。


「今日4万足りなくて、
 援交しようと思うんだけど、どう思う?」

辞めとけ。内心、すぐに僕はそう思った。
だって彼女は、あからさまに風俗を嫌っていたから。何があったのか知らないけど、勇気の使い所を間違えてる。
「やめ」とキーを打ち始めて、なぜか手が止まった。何か違和感があった。僕にメリットがないとか、たしかにそうだけど、そういうことじゃない、別の何かが。

彼女は大学生で、何度かキャバクラの体験に連れて行ったことがある。毎回、店の反応も悪くなかった。でも、年頃の派手な見た目に似合わず人見知りで内気な彼女は、それも手伝ってか、毎回入店しなかった。

意思はあっても足が重い。それ自体珍しいことじゃない。僕は、彼女の背中を押そうとした。だけど、何も響かなかったんだろうね。体験が終わるたびにラインで不安を爆発させた彼女の足は、いつまで経っても重いままだった。

一度行き、数ヶ月空いてはまた行きたいと連絡が来る、その繰り返し。ラインが来たのは、それが何度か続いた後だった。

時間は、19時過ぎだったと思う。
キャバクラが軒並み営業を始め出す頃だ。ただ、彼女の容姿と未経験というスキルでは、今からキャバクラで4万円稼ぐことはできない。でも、2日に分ければ達成できる。

「今、門限があるんだよね」

門限は23時らしい。残り4時間。
面接時間も含めたら、今から働かせてもらうのは難しい。風俗にしてもそれは同じで、どのみち今日はもうムリだ。
そのかわり、風俗なら朝から働ける。歩合制でギャンブル性があるとはいえ、彼女が本当に勇気をふり絞るというなら、明日の門限には間に合うかもしれない。

「4万、今すぐじゃなきゃダメなんだよね」

しばらく僕は考えた。
理由は聞かなかった。致し方ない何かがそうさせるのか、彼女自身が愚かなのか、僕は知らない。知る必要もない。
理由がどうであれ、4万円足りないという事実に変わりはないわけで、それによって彼女が誰かに迫られているという状況に変わりはないわけで、僕は、打開策を封じられていた。

4万円貸す、もしくはあげるという選択肢は最初から頭になかった。僕はボランティアじゃないし、彼女の身内でも、彼氏でもない。それにその選択は、本当の優しさなんかじゃないと僕は思う。

「いいんじゃない?
 手っ取り早いだろうし、行ってみたら?」

僕は、なるべく軽い言葉を選ぶことにした。
気にすんな、それは普通のことで、それなりにみんなもやってて、あんまり大したことじゃない。そんなニュアンスを込めて、僕は返事を打った。

彼女がどう受け取ったかはわからない。
わかったところで、だしね。
それに彼女が本当に気にしていたのは、僕がどう思うか、それが正しいのかどうか、きっとそんなことじゃない。

わざわざ聞いてくるあたり、あまりよろしくないことだって本人が一番わかってる。その感覚がないなら、僕なんかに聞かないで勝手にやってるよ。何度も、何度もね。

でもそれは家族には聞けないわけで、彼氏にも、友達にも聞けないわけだ。その人たちの前でする彼女の顔には援交のえの字もないんだから、当然だよ。

だから僕に聞く。
街で声をかけられただけの関係だから、スカウトっていうよくわかんない仕事の、下に見ても平気そうな男だから、都合よく、いつもと違う自分をさらけ出すことができる。

日ごろ、その姿は隠されてる。たぶん、意識すらしてないんじゃないかな。出てこないって感じが近いかもしれない。

それは、得体の知れない黒い何か。
不安とか、緊張とか、大きくなりすぎた見栄とか欲望とか、その辺りを餌に、彼女の中に宿って、成長して、いつしか彼女を蝕んで、「いつもの」彼女がしないであろう行動をさせてしまう何か。
彼女特有でもなく、女特有でもないそれは、いけないことの代表みたいになって、日常には居場所がない。

つまりあのラインは、僕への問いかけじゃない。耐えきれなくて吐いた、きっとそんな感じで、それも一方的に吐きたかったんだと思う。
僕の手を止めた違和感の正体はこれだった。
最初から、答えなんて求められてない。

僕は、すぐに思い浮かんだ当たり前を飲み込んだ。彼女が欲しいのは、ただ黒い何かをぶつける的。
僕は、彼女にとって部外者だ。そんな僕まで当たり前のことを言ってしまったら、彼女はどうすればいい?どうでもいいじゃんって?じゃあ僕は、何のためにいる?

その後、彼女から返信はなかった。
あの日を境に、今まで一度も連絡がない。実際に行動を起こしたのかどうか、僕は知らないまま。彼女のことだ、たぶんやらなかったんだろうよ。そんな予想、何の役にも立たないけどね。

どうやらブロックはされてない。だからといって特に追ったりしない。来る者拒まず、去る者追わず。僕だって、部外者なりのポリシーはある。
久しぶりに彼女のアイコンを見てみたら、彼氏らしき男と仲良く笑っていたよ。今のところ、僕が関わる必要はなさそうだ。

もちろん、僕が間違った可能性も十分ある。
本当は、激怒してでも止めてほしかったのかもしれないし、真相は永遠にわからないけど、僕は、自分の言葉に後悔がない。

ただ一つ、彼女があのラインを送ってくる以前、もっと強く、もっと濃く接しておけばよかったと思った。
あのとき、彼女の背中を押そうと僕が投げた言葉の数々は、きっと耳心地だけは良かったはず。でも、それだけだ。当時、僕はまだ僕自身がわからなかったし、自分のことで精一杯だった。何より僕は、他人に承認されたがっていた。

薄っぺらな言葉に釣られる女はいる。
だけど彼女は、そんな単純な女じゃなかった。
繊細であればあるほど、優しくあればあるほど、そこに生まれてしまった黒い何かは強い。彼女は僕に、お前は部外者なんだと教えてくれた。



昼夜問わず、女の子たちはキラキラ輝こうと頑張ってる。でも、その道のりは紆余曲折だ。良いときもあれば、ダメなときだってある。
焦って近道しようとした結果、憧れと異なる自分、むしろ真逆の、下品で無力な部分だけが成長してしまうことだってある。
それを隠すも逃げるも、もちろん自由。
だけどその自分は、いつのまにか心の操縦席を奪って悪さを始める。その様は、きっと醜い。
どうせなら、みんなにレディーでい続けてほしいと僕は思ってる。

どうしたって、部外者には孤独がつきものだ。
ネガティブなイメージがあるのはそのせいだと思う。しかし、何事にも善悪がある。悪を恐れ、善を殺してしまっては意味がない。
僕は、部外者だ。
今なら、あのときの彼女とどう向き合うだろう。僕の言葉は、体験終わりの不安を和らげるだろうか。僕の姿勢は、彼女に元気を与えるだろうか。案外、簡単にキャバ嬢になってたりしてね。もしもそんな未来があったなら、彼女は体を売らず、ドレスを着るだけで済んだかもしれない。

僕と関わらずに済むのなら、それが一番いいだろう。だが、何か過剰になってしまった自分をひとりでコントロールできるというなら、なぜ多くの人が夜の街に繰り出すのか。
おとなしく眠りにつかないのは、僕たちが大人で、強いからじゃない。
「子供は寝る時間よ」とママにあやされたあの頃の方が、社会を知らない分、むしろ今より強かったかもしれない。
だから肩で風を切ろうが、顎をあげて他人を睨もうが、態度がデカくなればなるほど、その実、それは不安の裏返しだったりする。
いいんだ、僕たちは弱い。認めたくないかもしれないけど、弱さは恥じゃない。
それでもひとりで頑張れないというなら、部外者を頼ってみたらいい。違和感に気づき導くこと、それは僕の役割だ。満足できたら、潔く去ってくれて構わない。

僕は、部外者として生きていく。


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