2/27「源氏名はエンデのモモちゃん」

体験入店を終えて給料を受け取るとき「次いつ来れますか?」と聞かれた。あ~、体験と言いつつやっぱこういう流れになるんやな、と思いながら「明日から空いてます」と答えていた。とにかく金が必要だったのだ。

店にいる女の子たちの中では、私は若かった。でも客の前では一応2歳サバを読んだ。そして「短大を卒業して現在はフリーターをしながら小説家を目指している」という嘘の設定を塗り固めて楽しいおしゃべりを展開した。実際に本は好きだし、これなら客から少し突っ込んだ話をされても応じることができる。

源氏名は昔読んだ児童文学から借りた。ほどよい庶民感がある名前。かわいくてちょっと憧れていた。数少ない友人の中にこの名前の子はいないので変な気まずさもない。ハンドルネームを考えるノリで、万が一いつかこういう仕事をすることになったらこの名前にしようと昔決めていた。でもまさか本当にこんなことになるとは思わなかった。

結構きわどい場所まで触られることもあった。処女だったけど、これはわたしじゃなくてモモという別の子が犯されてるんだと思い込んだ。これはわたしじゃない、これはわたしじゃないから。モモちゃん、ごめんね。かわいそうなモモちゃん。

最後は半分バックレる形でやめた。日払いで受け取っていた以外で積もっていたぶんの給料は受け取っていない。でも手切れ金だと思っている。しばらくして久しぶりに店の近くを歩いたら店の看板はなくなってた。モモとして過ごした時間は、もしかすると全部夢だったのかもしれない。

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