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苦手なこと

 行動を起こすこと、決断することが苦手だ。

 行動を始めるには、行動を細分化することと、頭の中のジャンクションを、えいっと行動する側に切り替える必要がある。大げさに言うと勇気と気合いが必要なんです。それは、布団から出ることに始まって、ごはんを食べたりトイレに行ったり、風呂に入る時、寝る時にも必要。日常は困難に満ち満ちている。

 何かを選ぶということは、違う選択肢を閉じるということ。どっちもいいな、なんて思ってると一生決まらないので、やりたいことほどなかなか進まなかったりする。布団から起きないうちにも、まず何をやって次に何をすればいいかと、脳の中はめまぐるしく動いている。「旅に病んで 夢は枯野をかけめぐる」と芭蕉はうたったけれど、私の夢はトイレや台所への道をうろうろしている。家猫に生まれたら良かった。

 好きなことを一旦始めると、今度はブレーキが利かなくなって、仕事も睡眠も後回しにして、気が済むまで突き進んでしまう。体力は人並み以下だが、突き進んでいる時だけ会っている人には、それは伝わらない。決断が苦手だから、楽しそうなことに誘われたら全部考えずOKした時期もあったけれど、肝心なところで失速して迷惑をかけたし、イベントごとが終わるたびに数日寝込むので、コロナ禍に入ってからはほぼスイッチを切っている。

 一時期は、SNSでいいねをつけるつけないを選ぶ基準、フォローする基準、自分の投稿をするタイミングがわからなくなって、ほとんど更新しなくなったりした。ばかみたいだけど、今も悩む。

 「最近どう?」などと漠然とした話題を振られるのも、苦手だ。もうちょっとヒントが欲しい。普段は黙って、頭の中で自分自身と会話を交わして(疲れると独り言も多くなる)、言葉が溜まり過ぎてあふれそうな頃に、突然とうとうと語り出したり、こうやって文章にしたりする。突然大量の物を渡された周りはひく。もう少し細切れに出せればいいが、それには気合いが必要なわけです。周りの皆さんはごめんなさい。

 雑談をできる相手はごく限られていて、それ以外の人には、つい用件以外話さなくなってしまう。SNSでも用件だけつぶやいていると、正論だけ話す人みたいになって、自分でも窮屈になってくる。実物はのびきったゴムくらいのゆるゆるで、ただ、どの無駄話を話題にすればよいのかわからず、失敗を人に見せるのが恥ずかしくて、結局黙っているだけなんです。

 大きな災害が起こるたびに、何かをしたいのに何も動かない自分がいて、とても情けない思いがしてきたけれど、今なら分かるのです。私が何かするには、あまりに選択肢や決断の量が多かったんだな、と。次からは、選ぼうとせず、向こうから飛び込んできたものだけ、着手してみようと思う。

 逆に得意というか、慣れているのは、もやもやを抱えて生活することだ。有能で決断力のある人は、もやもやをさっさと解決しようとするが、中にはすぐには解決しようがない問題もある。そういう時に、たぶん私は強いのだろうと思う。もはや私は霧です、と言ってもいい。毎回もやもや、もやもやと書いているのも、そうやって生きているから、かもしれない。

 写真は、前にどこかの店先で撮ったもの。

 

 


 

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