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『カタツムリレポート#4 株式会社オカムラ ワークデザイン研究所』 〈前編〉

こんにちは! 大学生カタツムリレポーターの飯島詩(いいじまうた)です。4回目の今回は、「これからの働き方や働く場」について研究を続ける株式会社オカムラさんのワークデザイン研究所にお伺いしました。

インタビューにお答えいただくのは、ワークデザイン研究所所長の森田舞(もりたまい)さん。働き方や働く場をテーマに研究を続ける森田さんに、未来につながる研究のワクワクについてお聞きしました。

「一人ひとりが循環者になる未来ってどんな未来だろう?」
カタツムリレポートは、よりよい未来をつくろうとする人達や研究者の方に、その研究や取り組みのワクワクをご紹介いただくインタビュー記事です。子どもたちが「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるよう、参加企業や研究者の取り組みにググッとフォーカスしてお届けします。
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このnoteは、JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学×鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営しています。

話し手
株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 ワークデザイン研究所 森田舞 様
聴き手
株式会社高山商会 飯島詩 (取材:荒井理美 / 撮影:蓮見洋平 / テキスト:原悠瑞)


オカムラ・ワークデザイン研究所におじゃましました

株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 ワークデザイン研究所 所長の森田舞(もりたまい)さん

飯島 森田さん、本日はどうぞよろしくお願いします!
オカムラさんでは働き方や働く場の研究や小学校向けに環境に関する出前授業などをされているとのことで、お話を伺えるのをとても楽しみにしてきました。

森田さん ありがとうございます、こちらこそどうぞよろしくお願いします。

ワークデザイン研究所ってどんなところ?

飯島 はじめに、ワークデザイン研究所のお仕事について伺わせてください。

森田さん オカムラはオフィスをはじめ教育・医療・研究・商業施設、物流センターなどさまざまなシーンにおいて、製品とサービスを提供して環境づくりを行っています。具体的に言うとオフィス家具の製造販売やオフィス環境向上のためのコンサルティング、店舗の設計や物流システム開発など、働く人の環境に関わるさまざまな事業を行っている会社です。
その中で、ワークデザイン研究所はオフィス環境事業本部の働き方コンサルティング事業部というところに属し、日々「働き方や働く場にまつわる研究」をしています。

オカムラはCOI-NEXTの「未来に向けて研究開発をして、それを社会に実装して、製品化していく」というビジョンに共感し、前身のCOIプロジェクトの時から参加させていただいています。COI-NEXTのプロジェクトには実は研究所ではなくて、働き方コンサルティング事業部の別の部門のメンバーが参加しているのですが、今日は研究についてのお話ということで私が担当させていただきます。

COIプロジェクトの成果から生まれた3Dプリンタで生産されたイス「Up-Ring」シリーズ

詳しくはこちらの【YouTubeチャンネル】をどうぞ!
COI-NEXTリスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点 
株式会社オカムラ 庵原悠 (働き方コンサルティング事業部)

飯島 「人の働き方」とは大きな研究テーマですね。 

森田さん オカムラは製造業ですので、皆さんの印象は家具メーカーだと思いますが、実際には家具を売るだけではなくそこで働く人たちが活きる環境を創っていく、そのための運用をご提案していくといった総合的な仕事をしています。そのため研究所の研究テーマも、働く場ではどういうことが起きているのか、どういった効果があるのかといった働き方や働く場にかかわることの多くが、研究対象になっています。

具体的には、最近だとハイブリッドワークといった働き方をした時にどうなるのか、コミュニケーションの形は変化していくのか、生産性があがる働き方はどういうものなのか、座りごこちの良い椅子はどういったものなのかなど、それぞれの研究員がテーマを持って研究しています。

オカムラは、1945年に航空機の技術者たちが立ち上げ、戦後間もない創業当時は鍋や釜(かま)などの生活用品を作っていましたが、スチール製家具の製造を開始し、そこからオフィス向けのイスやデスクを作るようになりました。イスに関する研究やオフィスのレイアウト、カラーコーディネーション、オフィスプランニングの研究・提案など、人間工学や設計、デザインに関する研究が行われていたものを、1980年に「オフィス研究所」として発足させ、名称を「ワークデザイン研究所」と変えながらも現在まで続いています。

オカムラの社名の由来は、横浜の岡村町というところで創業した企業なので、岡村町からとって岡村製作所(当時)。岡村さんが歴代社長で継いでいるように思われがちですが違うんです。

飯島 (岡村さんが歴代社長かと思ってました・・・)

森田さん オカムラのミッションは、「豊かな発想と確かな品質で、人が活きる環境づくりを通して、社会に貢献する。」です。その一環として、人を中心に据えて、どのような環境を創っていけばよいのかを考えるのが研究所の役割です。
人が中心にあるのはオカムラの基本となる考え方で、そのまわりに環境、制度、ツールの3つがある。それらを含めて調査研究して世の中にデータを公開しています。

人にフォーカス!

作る側と使う側のリアルをつなぐ人になりたい

飯島 ワークデザイン研究所での研究内容を伺う前に、森田さんのご経歴についてお聞きしてもいいですか。

森田さん 大学は建築専攻です。大学院ではもう少し専門的に学校建築の研究をしていました。デザインの授業を受けたり設計課題に取り組んだりする中で、建築や空間を作った時にそこがどうやって使われているのか、さまざまな家具を置くことでその環境が人にどういった影響を与えるのか、といったことを研究している先生と出会いました。その先生の研究室に入り、たまたま学校建築をテーマに研究を始めたんですが、すごくおもしろくてどんどんはまってしまって。

森田さん もともと建築を学んではいたんですけど、大きな建物を建てたいという欲求はあまり強くなくて、人がどうやって空間を使うのか、使ってこそ建築は完成じゃないのかといった意識や興味の方があったんです。それで、建築の内部のことを扱っている会社に入りたいと思い、大学院の修士課程を修了後にオカムラに就職しました。
その時は研究所でなく製品企画の部門に配属され、収納の担当として製品の企画を立てて、デザイナーや工場とやり取りを行い製品化をしていました。さらに価格設定、カタログ制作といった製品開発の一連の業務も担当することができたので良い経験でした。

それでも、やっぱり研究を通じて人をサポートする仕事がしたいという思いが強くなったので退職をして、博士課程に入学して、そこから4年半、もう一度学校建築について研究しました。

飯島 研究を通じて人を応援し続けているんですね。

森田さん もともと、人に興味があるんでしょうね。
私はそもそもは、アメリカの心理学者のギブソンが提唱したアフォーダンスというものに興味を持ちました。建築関係のお仕事をしている人は、自分たちがデザインした環境によって、人の行為になにかしら影響を与えたいといった想いが根本にあると思うんです。例えば、この空間にいると自然と人と話したくなるとか、なぜかこの段差に意識せずに座ってしまうとか。
一方で現実的には、デザインする側がいくら想像したりデータをみたりして作ったとしても、ユーザーにとっては使いにくいということも起きてしまっています。デザインとユーザーをつなぎたいと思ったのが、私が研究を始めた一番のきっかけだった気がします。

博士号を取得した後に、再度就職を考えていた時、偶然にもオカムラが公共施設を対象とした研究に力を入れていた時期だったこともあり、ご縁があって復職しました。
ワークデザイン研究所の一員になり、学校建築の知見を活かして教育施設の研究を6~7年、その後は対象をオフィスなどにも広げて働き方や働く場に関連する研究を進めています。

研究にフォーカス!

働き心地は、ちょっとしたことでよくなる

飯島 では、研究についてより具体的に伺いたいと思います。
先ほど、人を中心にしてそのまわりに環境、制度、ツールなどがあると仰っていましたが、それらが人の働き方に影響を与えているんですね。

森田さん そうなんです。オフィスでも学校でも、働き心地ってちょっとしたことでよくなるんですよ。例えばこれ、バッテリーなんですけど。

飯島 バッテリー!? なんだろう?と思ってました!

大人気の ポータブルバッテリー「OC(オーシー)」
社内の充電シェルフ。ここからOCを持ち出して社内の好きな場所で一日を過ごすのだそう。
社内は自分の席が決まっていませんが、だれがどこで仕事をしているかを表示していて、一目でわかります。

森田さん 仕事をしようとすると今はパソコンが必須アイテムです。オフィスでも学校でもカフェでも、まずコンセントを探して席をさまよいますよね。このポータブルバッテリーがあればどこでも仕事ができるようになります。オカムラでは、みんながこれを持ち歩いて好きな場所で仕事をしています。

さらに未来のことを考えると、バッテリーを持ち歩けるようになるとOAフロアにしなくてよくなる。OAフロアは床下にコードを流してそこから電源コンセントを引き出すので、コンセントの位置や家具のデザインなどに制約が出てきます。それによって、実は私たちの働き方も大きな影響を受けてしまいます。
もしOAフロアでなくなればどこに家具を置いてもいいし、タイルカーペットを剥がしてコンセントの位置を調整する必要もない。そうすると改装も楽になって、作業の負荷も減ります。モニターも動かすことができるようになって、コミュニケーションがとりやすくなったり、オフィス環境ががらりと変わるきっかけになるはずです。とはいえ、それらもデザインする側の想定の話で、一足飛びにはいかないので、まずは我々がトライしてみて使い勝手などを確認しているところです。

飯島 ツールひとつとってみても、働き方にこんなにも影響があるんですね。

森田さん ワーカーのみなさんは、働く場所を自分たちで改善していく、使いやすいように家具を動かして工夫してみる、ということにまでは意識が向きにくいのかもしれません。実際にはオフィスでも環境や家具への不満があったり日々色々なことを感じていると思うんですけど、環境を改善していくのは総務などの担当部署のお仕事だと考えている人が多いのだと思います。オフィス環境は会社から与えられるものという感覚なのだと思います。

でも在宅勤務が増えてきて、例えば椅子を快適なものに買い替えてみたり、仕事部屋の模様替えをしてみたりすると、「働く場所を整えることって、もしや自分でできることもあるかも・・・」といま気付きはじめた段階なんじゃないかと思います。

――後編へ続く。

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