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なぜ人を殺して英雄となれるのですか?

 今にも崩れ落ちそうなレンガ造りの廃墟で、焚火を囲む二人の男がいた。昼間の敵襲で二十人いた隊は、今はこの二人だけである。


「隊長、私は子供のころからずっと人は殺してきてはいけないと教わりました。別に私はそこに疑問を持つ人間ではなかったです。なぜ、人を殺してはいけないのか何て深く考えたこともなかった。でもこうやって戦場に出て人を殺さなくてはいけなくなって考えます。なぜ人を殺してはいけないのですかね? 戦争中は人を多く殺したものが称えられるのに」


 新兵がそう言うと、隊長は何を言っているのだ? という顔をした。

「貴様は人を殺したことがあるのか?」

「そりゃ、ありますよ。今日だって二人は殺しました」

「なるほど。貴様は思い違いをしているな。人殺しは英雄にはなれない。それに俺は人を殺したことはない」
 隊長の言葉に新兵は驚いた。今日でさえ隊長は十人も撃ち殺しているのだ。

「隊長は今日、私が知っているだけでも十人は殺しています」

「ふむ。そうだな」

「ならなぜ人を殺していないと言うのですか?」

「私は人を殺していない。私が殺したのは敵だ。武器を持ち、襲ってくるものを倒している。武器もなく殺意もない人を私は殺さない。武器を持ち、襲ってくるなら子供でも私は殺す。私が排除しているのは敵であり、我が国に降りかかる火の粉である」
 

新兵は隊長の言葉をじっくりと自分にしみ込ませた。ここで納得してはいけない気がしたので何か言葉を言おうと思った。

「しかし、それは一方的な見方で、偏った正義を振りかざして、自分を納得させているだけではないでしょうか?」
 

隊長は新兵の目をのぞき込んで少しの間、黙っていた。そして口を開いた。

「君は大嫌いな人といつも一緒にいて親切に出来るか?」

「いや、それは出来ないです」

「そうだろうな。それが普通だ。嫌いになるには理由がある。一緒にいるとストレスを感じたり、不利益を被ったりする。好きな人はその逆だ。だから好きな人と一緒にいて、嫌いな人は遠ざける。人はみんなそうやって生きている。それが極まると、このような戦場が生まれるわけだ」
 

隊長は別に大したことを言っていない感じで話していた。まるでごく当たり前の理屈を子供に教えているようだった。

「生き物として生まれたからには、何かを殺して生きることが宿命である。それが嫌なら、来世では石にでも生まれ変わるように願っておくのだな。明日も多くの敵を倒さないといけない。もう寝ろ」
 

隊長はそう言って、横になった。

こういった人が英雄になるのだろうなと新兵は思った。

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