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大手食品流通商社が本当に役立たずな話

久しぶりのまじめな投稿。

さて、日本には大きな食品流通商社がいくつかある。全国的に支社をもち、世界にもネットワークがある。しかし、食品の生産者や小規模な業者から見れば、いろいろ思うところはある。今回はそんな話である。

さて、食品の流通においては、様々なコストが生じる。
ざっくりと、生産者にかかわるコストは
「生産コスト」・・・例えば、農業なら人件費や農薬肥料、パッケージも
「営業コスト」・・・取引相手先を見つけることや交渉、営業マンの経費や出店する展示会やイベントの出展料など
「情報コスト(マーケティングコスト、広報コスト)」・・・どんなものが売れるかの情報収集、同業他社の動向調査、プロモーションなどを含んでいい。
「物流コスト」・・・相手先に届ける物流費。佐川急便よ、もうちょっと荷の扱いを丁寧にしろ、と言いたいが、ここが一番安い、、、
などがある
「ストック(在庫)コスト」・・・商品によっては在庫することで日に日に鮮度が落ち、その管理に手間がかかるものがある。その管理費用も大きなコストである。
「取引コスト」・・・各種の取引先への支払い作業や口座管理、与信管理などである。



さて、販売する側のコストは
「販売コスト」・・・販売するための人員スタッフの費用、家賃、冷蔵ケースの電気代など
「調達コスト」・・・良い商品、取引先を見つけるための費用。簡単に言うとバイヤーの人件費や活動費用や、物を集荷センターで集めて店舗やお客様へ送る費用(物流費が含まれる)
「情報コスト(マーケティングコスト、広報コスト)」・・・どんなものが売れるかの情報収集、同業他社の動向調査、プロモーションなどを含んでいい。チラシも立派な情報コストである。
「ストック(在庫)コスト」・・・上記に同じ。小さなスーパーは大きな冷蔵庫を持つわけにもいかないので、発注数量と在庫のバランスを常に気にかけている。
「取引コスト」・・・各種の取引先への支払い作業や口座管理、与信管理などである。



今回問題にしたいのは、大手の食品流通商社が上記の「コスト削減」に関わっているかどうかである。


1.かつてはコストを下げる存在であった

さて、かつては卸会社は特に「流通コスト」「調達コスト」「取引コスト」を下げることに特に効果を発揮した。スーパーは多くの商品を扱う。しかし、それぞれに取引先がいると、その会社ごとに請求書を発行して振り込みをして、かつ金額が正しいかをチェックして、、、もし取引先が倒産したら、、、というような手間暇で経理担当や総務担当の手間を煩わせることになる。こういった請求の手間暇や取引先の信用チェック、入金管理をしてくれるだけでも多くの生産者も小売業も助かる。こういう機能が商社(もちろん農協や農産物の市場も)に備わっているので、助かることは大いにあった。
時代は移り、スーパーが全国展開していくと、どうしても集荷センターが巨大化してくる。その運営を大手商社が担うことも当たり前のようになった。冷蔵商品や冷凍商品はストックするのも大変なので、各地に○○商社冷蔵センターができ、1つの、あるいは複数のスーパーがそこを共同利用したりするようになった。「ストックコスト」も逓減することになる。


2.商社の「コストカット」はどうするか

しかし、商社同士も戦いはある。提携したりもするが。
となると、商社間でモノを言うのは
「情報量」(≒取引先の数 国内だけでなく国外も)
「商品供給体制」(≒倉庫の数・体制や立地)
「商品提案能力」(≒調達コストの逓減として、バイヤーに常に新しい商品を提案する。いわば、商社のスタッフの能力その1)
「全体的流通コスト削減能力」(≒ストックコストなど、小売業のサプライチェーン全体を改善する。いわば、商社のスタッフの能力その2)
といったところで、大手小売業に対して自社を提案していく。私がかつて百貨店の食品にいたころ、ギフトの配送センターの大規模改修において、とある大手商社がその仕事を一手に引き受けて調達コスト、ストックコスト、運営コストを(百貨店から見れば)下げることに成功した。担当の商社マンはかなり出世したらしい。


3.小売業にさらに詰められた結果、、、

時は流れさらに競争は小売業間でも激しくなる。コンビニが現れ、スーパーはメガストアの出店でさらにコスト押し下げの圧力が高まる。
そうなると、商社にも当然値段の件で厳しくなる。しかし、そこで商社は自分たちの利幅を変えようとはしない。そもそも、もともと大きくないということもあるが、かといってそれを守り続けることもむずかしい。となった結果、『みずからのリスク・コストを下げつつ、小売業側のコストをなんとか要求に見合うものにする。一方で生産者に対してはコストを下げる機能を果たさなくなる』ようになった。
つまり、生産者に徐々にストックコストを押し付け(物流の発達がそれを可能にしてしまった感もある)、情報コストも生産者側に押し付けることが多くなった。先に能力の話をしたが、その2の能力では限界になった結果、その1の能力を伸ばせばいいとも思うのだが、人的コストなどを重視したため、営業スタッフがいなくなってしまった。提案力が限界がある以上、あとは「生産者に自ら小売業を営業させ」、その商談が成立したら、「自社の取引口座や物流センターを使わせる」ということが多くなった。しかし、センターを使うと言っても、それは一部の商社だけで、多くの商社は取引口座を扱うだけになったりする。もちろん、それで「取引コスト」が下がればよい。ところが、いまでも多くの取引はFAXに頼ったりしていて、「FAXが届いていない」などの前近代的な理由によるトラブルが後を絶たない。IT化が進んでいないので返品処理や値引き処理の手間が生産者も卸会社も小売業も大変な手間になっている。


4.大手卸会社がしなければいけない事


前述のように、卸会社が存在することで「様々なコスト」が下がることが期待されているわけであるが、むしろ手間になっていることもある。悪玉のように扱われる農協などの「中間組織」だが、物流システムではそのコストを大きく下げることができているし、また定期的に行われる品質検査は、残留農薬や放射能検査、衛生管理に様々に役に立っている。しかし、卸会社は、小売業からの圧迫があるとはいえ、いくつものコストを生産者に押し付ける形になって生きている(しかも多くの人はその意識がないから余計にたちが悪い)。
大手卸は確かに海外などの市場も含めての情報量と、流通センターのような在庫ストック機能や小分け機能は高めてきた。しかし、これからの時代はマーケット分析能力と提案能力、そして目利き能力がもっと高くなければならないし、その動きをより迅速にさせるための意思決定がしやすい期間にならなければならない。スーパーのバイヤーがいうことを御用聞きするだけではない、独自の商品哲学も必要だ(建前上はみんなあるが、実態は生産者側から見ればどれもできていない。小売業の言うがままである。そして実は小売業も、そこまで明確な哲学を持っていないし、持っていても貫けていない)。そして、卸業者が連携して、何度も構想が浮かんでは立ち消える共通受発注システムなどに本腰を入れるべきだ。FAXは廃止し、月末の締め作業からすべての事務員を開放する気構えがないと、大手の卸会社を名乗る資格はない。

もちろん、頑張ってくれる卸会社の社員や会社もある。しかし、IT化も進んでなければ、目利き能力も日に日に失われている業界である。このくらいはっぱをかける言葉でも足りないくらい、ぬるま湯な業界だと思っている。


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