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【きくこと】 第0回 染谷拓郎×廣木響平 図書館について語るときに我々の語ること


染谷拓郎
1987年、茨城県生まれ。株式会社ひらく代表取締役社長、株式会社ASHIKARI取締役、日販プラットフォーム創造事業本部プロデュース事業チームプロデューサー(2021年11月30日収録当時は日販YOURS BOOK STOREプランニングディレクター/プロデューサー)
主な実績として「箱根本箱」「森の生活」「Park of Tables」「books&tea 三服」。選書企画「BPM Reading」、イベントシリーズ「Library Book Circus」など図書館向けの企画も多く担当。


廣木響平
株式会社図書館総合研究所社長〜♬♬♬✌️✌️✌️❤️❤️❤️🐿🐿🐿😏

「これからの図書館」とは何かを探る旅

染谷拓郎(以降、染谷) こんにちは。本日は「『図書館について語るときに我々の語ること』について我々の語ること」にご参加いただき、ありがとうございます。これから5時間、ここTRCのショールームを舞台に、3人の方たちとの対話を通して、これからの図書館を考えるためのヒントをつかんでいけたらと思っています。

モデレーターは、株式会社図書館総合研究所の廣木響平さんと、私、日販YOURS BOOK STOREの染谷拓郎が務めます。

日本出版販売株式会社、通称「日販」は、本の流通の会社です。私の所属するYOURS BOOK STOREは、書籍の売り上げが落ち込む中、2015年に立ち上がった新規事業部です。これまで箱根に本をテーマにしたホテル「箱根本箱」や六本木に入場料のある書店「文喫」などの立ち上げにかかわってきました。

一方の廣木さんは、ずっと図書館にかかわってこられたんですよね。

廣木 はい。2005年に設立した図書館総研は、図書館流通センター(TRC)の関連会社で、一言で言うと自治体が図書館を作る際に、ゼロからお手伝いをする会社です。建物と内容が合致する図書館を作り上げることを目指し、TRCの運営・インフラノウハウを最大限生かして、これまで130の自治体の図書館づくりに基本構想から携わってきました。

その中で感じているのは、今、図書館のあり方が急速に変化してきているということです。

2013年からカルチュアコンビニエンスクラブ(CCC)が指定管理者となった佐賀県の武雄市図書館は、業界にとって一つの衝撃だったと思います。話題になった当時、私も訪れたことがあります。武雄市に到着し、打ち合わせをしようと入ったファミリーレストランには、地元のあんちゃんたちがたむろしていた。いいなあ、と街への親近感が増したところで、図書館に向かいました。

武雄市図書館の館内は広く、吹き抜けになっているので、2階から見下ろすと来館者の様子が一望できます。ファミレスでの光景とは打って変わって、みんなよそゆきの格好をして図書館に来ているのがわかりました。夜、CCCの方たちと飲みにいった飲み屋で、店主の方から「よく来てくれた」と歓待を受けながら、ああこの人たちは確かに街を活性化させたのだなと強く感じました。図書館にはこういうパワーがあるのだという気づきが得られたことは、ぼくにとって大きかった。

その後、全国でさまざまな形の図書館が生まれるようになりました。

例えば神奈川県大和市の大和市文化創造拠点シリウスは、図書館だけでなくホールや子ども広場、生涯学習センターなど、複数の要素を併せ持つ施設です。「健康図書館」の謳い文句で年間300万人の来館者を獲得しています。

北海道の札幌市図書・情報館は、それとは逆に、限定的なコンセプトが特徴です。1500平米ほどのこぢんまりした敷地に、ワーク・ライフ・アートの3つのテーマに絞った蔵書を設置しています。貸出機能を持たないにもかかわらず、100万人もの人が利用しています。

図書館がまちの活性化の起爆剤になることに多くの人が気づき始めたのでしょう、図書館総研には新たなあり方の図書館を作ってほしいとの依頼が殺到しています。ある意味、「とんがった図書館を作るぞ競争」とも言える状況です。

図書館の本流を担ってきたTRCと図書館総研としては、その競争に乗るべきか悩むところですが、ぼくは乗ろうと思っています。それは、図書館の魅力をもっと知ってもらいたいからです。

図書館は、お金のあるなしにかかわらず誰でも利用でき、人生を変えるほどの力を持つ場所です。にもかかわらず、実際にはごくわずかな人たちにしか使われていないことが多い。これまで利用してこなかった人にも使ってもらえるような図書館とはどんなものか。今あるこの競争に参加することで、それを見極めていきたいのです。

染谷さんとは、半年ほど前から今回のイベントについて協議を続けてきました。話すたびにぶち当たるのが「これからの図書館とは何か」という問いでした。ぼくは図書館業界ズブズブの人間ですし、染谷さんは書店業界の人です。そこで、思い切ってあえて図書館や書店に関係のない人たちに聞いてみたら、我々には思いつかなかった図書館像が何か見えてくるのではないか——そう考えた。染谷さんが船長兼ツアーコンダクターとなって未知なる図書館像を探す旅に出たというわけです。

船出としてのトークイベント

染谷 おっしゃる通りです。「これからの図書館」というと、とかくカフェやコミュニティスペースがあるといった機能面、あるいは著名な建築家による建物といったハード面から語られがちです。でもその方向で進むと、所詮はコロナ前に求められていた「全部盛り」図書館にしか行き着かない。もっと違う方向を手探りで探していきたいとの思いから、今回のプロジェクトは発足しました。

いきなり「新たな図書館像を考えましょう」と答えを出そうとするのではなく、人が集まる地域に開かれた場を作っている方を仲間に加え、話を聞きながらやっていきたい。今日は、来年2022年に本格始動するプロジェクト「図書館について語るときに我々の語ること」
の前哨戦のようなものと捉えていただければと思います。

タイトルは、レイモンド・カーヴァーの短編小説「愛について語るときに我々の語ること」(What We Talk About When We Talk About Love)へのオマージュです。この「我々」を広げていきたいんですよね。

プロジェクトには大きく3つの段階があります。1つめは「きく」。いろんな分野の仲間を携えて、できれば月1回程度のペースで話を聞いていくことから始めたい。そこで聞いた話をもとに、2つめの「かんがえる」で思考を深めていく。
一般の方も参加していただくプロジェクトチームを作り、今日の話を図書館に生かすとしたらどうなるかを話し合います。3つめの「つくる」では、「きく」と「かんがえる」で得た材料をさまざまな形(ウェブメディア、冊子、プロダクトなど)に転用します。そうして蓄積したこれからの図書館のためのアイデアが、最終的には「これからの図書館」に反映されていく。

正直言ってかなり壮大な計画ですよね。永遠に続きそうな旅です。今回は、そのプロジェクトのお披露目として、「『図書館について語るときに我々の語ること』について我々の語ること」というまどろっこしいタイトルで、進めていきます。

では、タイムテーブルを簡単にご紹介します。
この後はまずお一人目として、UDS株式会社の三浦宗晃さんをお招きし、「人を巻き込む企画のつくりかた」をテーマにお話しいただきます。三浦さんとはお仕事をご一緒しているのですが、お話がすごくおもしろいんです。人が集まる場所をつくるプロジェクトを多く手掛けられているので、そのあたりを中心に伺いたいと思います。

2人目は、編集者の水島七恵さんです。水島さんは雑誌や本の出版だけでなく、まちの人たちともつながる企画にもかかわっていらっしゃるので、「人の話を聴くということ」に加え、従来の出版の枠を超えたアプローチについても伺えたらと思っています。

最後にお迎えする音楽家の曽我大穂さんは、一言で音楽家と括れない、非常に多面的な活動をされています。曽我さんが基本設計と演出を手がける舞台芸術グループ「仕立て屋のサーカス」は、実は図書館や公共性につながっているのではないかとも感じているので、そのあたりを探っていきたいです。曽我さんには「読書のための音楽会」と称したパフォーマンスもしていただくので、こちらも楽しみです。

廣木 ぼくはお三方とも初めてお会いするので緊張していますが、5時間楽しみたいと思います。

最後に曽我さんの音楽が聞けると言うことですが、ぼく自身、ブライアン・イーノが行ってきた環境音楽を図書館にも転用できないかと考えてきたので、非常に楽しみです。図書館とはこれまで関係がなかった音楽の世界の方とお話ができるというのも、今回のプロジェクトならではですね。

染谷 図書館って、受け皿としてとても大きいと思うんですよね。図書館というお皿に入れれば、何でもありに見えなくなるというか。ぼくも本屋と何かを掛け合わせるプロジェクトをいろいろ手掛けてきましたが、図書館にはもっと何かある気がするんです。図書館だからこそ生きる何か。それをこのプロジェクトでは探していきたい。

廣木 何かと何かを掛け合わせることは、ますます重要になってきていると感じます。

図書館の本は基本的に、0から9の日本十進分類法(NDC)に分類されています。つまり、この世のすべての分野が図書館の中では分類されているわけです。だからこそ、図書館×何かは、どこかで必ずつながるはずだし、図書館はあらゆるジャンルのハブになり得る。そうした図書館の可能性についても、今後考えていければいいですね。

2021年11月30日収録