見出し画像

【つくること】 第5回超映画総合研究所”志田ゼミ” DAY2(2024.7.26)レポート

超映画総合研究所、第五期DAY.2。前回プレゼンされた6作品、いずれか数本を観てきた皆さんの感想交換会です。中には仕事で参加できないけれど作品は出来るだけ観たという方もいたり、前回参加出来なかったけれど映画の勉強のために今回だけ参加といった方もいて、まさにその名の通りゼミとして皆さんがこの集まりを活用して映画を楽しんでいることが伝わってきます。さて、その6作品、今回はこのような感想、意見、補足発言などが飛び交いました。

今回はmochigawaさんのイラスト解説もお楽しみください! 

『スティング』1973
前もって大どんでん返しがあると聞いてしまうと身構えで観てしまい、いざラストシーンを観てみると、スッキリはするがそれ以上の驚きと感動がない…といった意見も出てきて、そうした作りが話題の名作として語り継がれている作品だけに、情報提供の度合いも考えながら推薦しなくては、多分にいろいろ影響を及ぼすのだなと、まずは考えさせられました。
一方で30年代のシカゴを舞台にした作品がとてもオシャレで良かった、とか、アクターたちがとにかくカッコいい、とか、ラグタイム調の音楽が素晴らしいと言った意見も。音楽に関しては、本作公開当時の70年代は『ペーパームーン』なども然り、こうしたノスタルジィを感じさせる楽曲のリバイバル・ブームといった流れもあったと指摘がありました。
志田さんからは、結末に驚きを隠せない、または脚本と構成の妙で楽しめる作品として、『ファイトクラブ』『ユージュアル・サスぺクツ』、M.ナイト・シャマランの一連の作品、そして日本映画からは『カメラを止めるな!』や『イニシエーション・ラブ』といった、二重構造によって意外な楽しみ方が得られる傑作群が紹介されました。

『天使のくれた時間』2000
原題が「The Family Man」ということで、家族がテーマの話として受け止めると、地位やお金だけが人生ではない、もっと大切なものが自分には必要で、それこそが生活を豊かにするのではないか、と言ったメッセージが受け取れ、とても良い作品に巡り合えたという感想がありました。
さらにこの物語には、逆のパターンも有り得るのではという提言も。それはかつて、本作のベースにもなっている『素晴らしき哉、人生』にて既に描かれていたという補足もあり、今一度その作品についてもリマインドされました。
さらに、若いときは悩みに悩んで結果間違った道を選択してしまう、しかしそうしたとしても、それも含め、若者にとってはすべてが正解なのだ、という感想も。
これはまさに本作を観たからこその大切な気づきではなかったかと感じられました。
また面白かったのは、とは言え結局男の方だけが盛り上がってしまって、結局パートナーであった女性をまた振り回してしまう、こういう男はバカとしか言いようがないといった怒りの感想も。これには参加している男性諸氏も思わず閉口。
そして、この時代よく出てくる携帯電話がノキア社によるもので、それを見ると時代性も感じて懐かしかったという話にも同感者多々ありで盛り上がりました。
志田さんからは前述した『素晴らしき哉、人生』を今一度解説し、さらにその原型と言われる『クリスマスキャロル』『スクルージ』『三十四丁目の奇蹟』なども紹介。概してこうした別の世界線に紛れ込み、自分のアナザーストーリーを体験してこそ自分を一番見直せる、といったファンタジー作品たちですが、実はハリウッドにはこうした作品は多々存在しており、つまりはこれこそ“アメリカ特有のメンタルケア映画”というジャンルなのではないかといった話がありました。

『ジュマンジ』1995
そもそもあのボードゲームはどこから来たのか?なんなのか?という根本的疑問を持ちながら観たという感想から始まり、CG黎明期だからクオリティーにつっこみたいところもあるが、当時あそこまで描いたのはやはり凄いといった、映像面での意見も多々散見。
志田さんからは、1990年の『ジュラシック・パーク』はさすがのスピルバーグ作品なので予算も潤沢、だからCGクオリティーも最高峰の出来としてお披露目となったわけで、そうした製作事情による作品差もあるのではと補足がありました。
あとは主演のロビン・ウィリアムズの存在感について。『いまを生きる』といった作品なども評価されていますが、『ビッグ』のような大人だけど子どもの心のままを演じているロビンこそ、本作の最も適したキャスティングではといった感想も。
何か起こる前に、もたもたしないで早くサイコロを振って次へ進めば良いのに、といった意見に場内笑いが起きたりしましたが、ラスト、そのサイコロがスローモーションで転がり続けて行って一体どこまで行くのかといった演出についても感想が述べられたりしました(スローで見せるとクライマックスであるという見せ方)。楽しい作品であったので子どもの頃に観たらもっと楽しめたのではという意見も印象的。
志田さんからはゲームをテーマにした映画として『トロン』シリーズや『レディプレイヤー1』、そして『サマー・ウォーズ』などが紹介されました。
そして当然『ジュマンジ』のリブートシリーズ2作、「ウェルカム・トゥ・ジャングル」と「ネクスト・レベル」も続けて観るようにとのお達しがありました。

『東京流れ者』1966
決してカルトではない日本映画の傑作、とさらなる訴えを叫ぶプレゼンターをよそに、鑑賞されたのは僅か3名のみ。しかしそれでも評価は大絶賛ばかりで、やはり響くところには響く、届くところには届くのがこの超映研の面白さ。
白と黒、赤と青のコントラスト、その色彩設定がとてもヌーヴェルバーグ的で良かったという意見。それらはモノクロからカラーへ、そして後半は白銀の雪景色へと繋がり、その色使いだけでもオシャレに見えると。まさにプレゼン時にも協調されていた、“歌舞伎の世界観”が確かに感じられる映画といった感想も。
そしてやはり全編に流れる主題歌「東京流れ者」のインパクト。演歌なのか歌謡曲なのか、時代を感じさせるメロディーが強烈だったとのこと。あとは随所で描かれる力づくな展開が、妙な可笑しみを増幅させるが、しかしこれこそが清順映画なのだと受け入れてしまう不思議さすらあったと。
そうした感想は、ここまで来るとなんでもありといった投げやり的な受け入れではなく、美意識優先の異世界的演出が、より映画に対して自由度を与えているということと捉えているのではないでしょうか。
志田さんからは、引き続き鈴木清順監督の『けんかえれじい』『殺しの烙印』といった作品を紹介しつつ、次の『ルパン三世』にも繋がる大和屋竺の『荒野のダッチワイフ』もレコメンド。そして清順監督の大正ロマン三部作である『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』、さらにそうした雰囲気を違う切り口で楽しめるのではと、林海象監督の処女作『夢見るように眠りたい』も紹介、解説されました。

『ルパン三世 ルパン三世vs複製人間(クローン) 』1978
これまでのルパンではないルパンを見た、という意見から始まり、マモーという男の怖さとそのインパクト、不二子がどの作品よりもリアルで魅力的でイイ女に見えたなど、キャラクターに対する感想が、まずは多数あがりました。
興味深い意見としては、エジプト、スペイン、コロンビアなど世界を股にかけて展開する追走劇は、あらゆる国の様子も楽しめるツーリズム映画ではないかといった指摘。確かにこれを実写で製作するとしたら莫大な予算がかかるし、実際どこまで具現化できるかと言ったら007シリーズならともかく、日本映画としてみたら到底無理な話と受け取れます。だからこそアニメで表現するということは拡大表現を最大限に利用することが強みと言えるわけですし、そこへの指摘はとても重要なことだと気づかされました。
また、劇中『シャイニング』のパロディが見て取れたが、実は本作の方が先だった、という報告には驚きの声があがりました。
プレゼンターからも補足があり、先の『東京流れ者』で「流れ者に女はいらねえ」という台詞があったと思うがその台詞は次元も使っていた、という情報や、劇中登場するダリやキリコのアート作品のテーマこそがこの映画の土台にあるのでは、といった見解も付け加えられました。
志田さんからはファースト・ルパンとパート2のルパンの比較、それらを具象化した作品『グリーンvsレッド』の紹介や、昨今リリースされている各キャラクターたちのスピンオフ作品なども、ファースト・ルパンの雰囲気が存分に描かれていて必見であるとお薦めがありました。

『リトル・ダンサー』2000
冒頭、これはまさにジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき』ではないかという指摘がなされ、炭鉱の町の家族の物語と言えば確かにそうだと、最初から熱い意見が展開。
または本作の主人公に目を向けると、さすがに現在と比べると本作の男女の捉え方(描き方)にはやや差があるようだという意見も。ここから、ジェンダーレスについての表現は年々気遣いの度合いが変わってきているのでは、という問題提起も。しかし、実はそもそも本作はそうしたテーマ性を舞台やバレエといったモチーフを用いて、極めて繊細に演出していたのではないかという声も。
後半に登場する演目、マシュー・ボーンによる「白鳥の湖」は、特にゲイの世界観を最大限に落とし込んだ異色作であり、主人公のビリーがそこで舞うダンス、バレエを見れば、前述したジェンダーレスとしての表現、テーマ、提示を充分に活かしていることが理解できるのではないか、いや、ちょっとモヤっているがどうだろう…と。現在ではそれを多様性としてしっかりと解説できる可能性は高いと思いますが、24年も前の2000年という公開当時で、一体どこまで認識されていたかは不明であると感じさせられました。
映画が描く時代性は、特にこうしたセクシュアリズム、コンプライアンス、そしてヘイト=差別といった表現が時を越えて比較され、例えば名作『風とともに去りぬ』では、今となってかつての黒人奴隷制度による差別表現が問題となったり、『ロミオとジュリエット』でも、当時の未成年ヌード強要について訴訟が勃発したりと、様々な問題提起が上がっています。
本作はそうした問題点に重なる作品ではないと思いますが、やはり時を経てこそ、その深部が見えてくるということも有り得るのではとも、こうした感想交換によって感じられました。
志田さんからは、かつてイギリスから独立したアイルランドの郊外風景がイギリスのそれと重なり、そこから二国間の歴史も読み取れるのではといった旨の説明がありました。具体的な例として『シング・ストリート』『ベルファスト』『コミットメンツ』といったアイルランドの町が舞台となった作品たちを紹介されました。

というわけで今期は1時間半予定の志田ゼミもやや時間がオーバーするほどの興奮の感想共有会でした。今回もまた過ぎてみれば一瞬でした。以下は各作品に対しての探求ポイントです。

「スティング」 ⇒巧妙な脚本を楽しもう!
「天使のくれた時間」 ⇒人生を振り返ってみる…
「ジュマンジ」 ⇒ゲーム感覚で異世界映画を
「東京流れ者」 ⇒清順ワールドを体験せよ
「ルパン三世 ルパンvs複製人間(クローン)」⇒1stルパンの魅力を堪能しよう
「リトル・ダンサー」 ⇒キッズや歌から元気を!

相変わらずジャンルもバラバラ、アプローチもまったく違う映画たちをテーブルの上に一緒に並べたとき、いかに映画という存在そのものが多種多様であるかを今回もまた実感いたしました。
特に今回は初のアニメ作品が登場したことや、意外にも鈴木清順の世界観とルパン三世の世界観の親和性をいったりきたりしながら説き合うことができたりと、またまた計算ずくではない映画たちの稀有なる存在感を、いろいろな意見や感想ともに共有できた機会が幾度もありました。
映画というものはなかなか手強いですが、こうして揉み解していくと実に豊潤な香りを漂わせる、深くて楽しいものなのであります。

セカンド・シーズンとしてスタートした第四期は今回の第五期を経て、次回いよいよラストとなります(1シーズン全三期プログラムで進めております)。次回開催DAY.1は9月13日(金)。
プレゼンター、ギャラリー、とにかく映画の話を共有したいと感じている方は、是非この会場に集まり、映画を通して繋がりの輪をさらに広げていきましょう。ありがとうございました。