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【きくこと】 第1回〜第3回 図書館総合展クロージングトーク


読書のための音楽会という実験

染谷 いやー、曽我大穂さんの「読書のための音楽会」、すごかったですね。

廣木 よかったです。

染谷 ぼくはずっと1冊の本を読んでいたのですが、すごく集中できました。途中、曽我さんが朗読をされた場面では、脳の半分では耳から入ってくる言葉も聞き取ろうとしていて、2つを同時に理解しようとする不思議な感覚がありました。会場で体験された方は、終盤、曽我さんがコーヒー豆をざらざらと落としていくのに気づかれたでしょうか。ほのかにコーヒーの香りが漂ってきて、五感に訴えかけるパフォーマンスでした。

会場の皆さんも、読書に集中されていらっしゃいましたが、ご感想はいかがですか。

女性 自分が向き合っている手元の本の世界を脳が拾おうとしている一方で、耳は曽我さんが目の前で演奏されている音の一つひとつを拾おうとしていて……。感覚が研ぎ澄まされ、集中力がギュッと高まるのを感じて、時間が一瞬で過ぎてしまいました。もっと味わっていたかったです。

女性2 私は普段、読書中に音楽をかけることがないのですが、今日は本を読んでいるとさまざまな音や香りが押し寄せてきて、その情報の波に揺られながら、ふと「自分は今何に集中しているんだろう」と我に帰る瞬間もあって。強いて言えば、自分自身に集中できたという感覚でした。

三浦 ぼくは漫画を読んでいました。ページをめくるテンポと音楽のリズムに、独特のグルーヴを感じられたのがおもしろかったですね。

廣木 ぼくは機材の確認などをしていて本を手に取れなかったのですが、会場の皆さんが本当に読書に打ち込んでいらっしゃって、なかなかシュールな光景でした。

染谷 他人がこの密度で集まり、本に没頭している様子を見る機会ってないですよね。途中、ちょっと泣きそうになるほど感動してしまいました。もうこのまま静かに終わりたいくらいです。

廣木 音楽もすごくよかったですしね。「図書館総合展」だと思って来られた方にとっては、相当不思議な、わけのわからない時間だったと思いますが、こういうことをとにかく続けていきたいと、会場の様子を眺めながら強く思いました。

染谷 オンラインでご視聴の方からもコメントが届いています。
「1歳になる息子と絵本を音読しながら聴いていました。自然の音や街の音、大人や子どもの声が混ざり合っていてすごく心地よく、本の世界が広がりました。息子もいつもより笑いながら本の世界を楽しんでいました」。うれしいですね。「温泉入りながら露天風呂でイヤホンで聴き始めました」という方も。
曽我さん、よろしければ演奏のことをお話しいただけますか。

曽我 実はトーク後も緊張が解けず、会場の皆さんの様子を見る余裕がなかったのですが、そんな風景が広がっていたんですね。こんなに近い距離でライブをしているのに、お客さんが全員本を読んでいるという状況は初めてですが、いいですね。音楽を聞きたくないからというのではなく、本を読みながらライブを聴く。おもしろいと思います。

廣木さんがおっしゃったように、とにかく実験を繰り返していくというのはすごく大事で。即興演奏の経験からぼくが学んだのは、浮かんだアイデアやプロジェクトはその瞬間にやるのがもっとも強度と説得力があるということです。浮かんだことを「明日やろう」とか「また今度」と思っていると、説得力がどんどん失われてしまう。とにかく、すぐに実験すること。そして、やってみて違うなと思ったら、躊躇なく、即撤退すること。恥ずかしがったり、あんなに準備したのにと思う必要はありません。そうやって実験と撤退を繰り返すうちに、「ドッヂボールの次のルール」が見つかる気がするんですよね。だからお2人の試みはすばらしいと思います。

しかし、みんなちゃんと本を読んでいたんですね。見たかったな。ぜひこれからも実験を続けていただきたいです。

染谷 ありがとうございました。これ、続けたいですね。回数を重ねていくと何か新しいものが見えてくる気がします。アメリカのNational Public Radioが小さなスタジオで行っている「Tiny Desk Concert」という企画がありますが、あれみたいな感じでやれたら。

廣木 ぜひ続けていきましょう。本棚の前で生演奏を聴くというのもいいですしね。

5時間のイベントを終えて

染谷 さて、いよいよ今回のイベントも終わりが近づいてきました。
今日のお3方のお話を通して感じたのは、言葉や体験自体は違っても、これまで受け取ってきたものがもっとこうだったらいいのにという思いを皆さん持っていらっしゃるということでした。

廣木 5時間に及ぶトークイベントということで、どうなることかとハラハラしていたのですが、お3方のお話が自然と相互に結びついていったのが驚きでした。もっと図書館と関係のない話がバンバン飛び出してもよかったくらいで。ともあれ、0回目(結局、後日第1回〜第3回としました)としては大成功だったのではないでしょうか。今後もこういう方向でやっていきましょう!

染谷 続いていくと、おもしろいことが起きそうですよね。確かに、全然関係ない話もしていったほうがいいですね。皆さん真面目なので、ぼくらに寄せた話をしてくださったのかもしれません。

廣木 こちらの語彙がどうしてもそちらに偏っているから、引きずられてしまうのかも。

染谷 三浦さんがおっしゃっていたように、やはり光の当て方を変えて抽象化し、考え直すという作業をするしかないのだと思います。そのためにも、これからもいろんな分野の方のお話を聞いていきたいですし、インタビューが型にはまらないよう気をつけてやっていかなくてはと感じました。
今後はどこでいつ、どんな頻度で開催していくのかも、考えなくちゃいけませんね。毎月第**曜日にどこそこでやります、と決めておくと、お客さんも徐々に増えていくかもしれません。

深井(スタッフ) 三浦さんが「図書館をリフレーミングする」というお話をなさっていました。毎回ゲストのお話から、「今日は図書館をこう捉え直しました」と最後にその日の結論を出すという型を決めておくのはどうでしょうか。たとえば今日のイベントを通して、お2人はどう図書館をリフレーミングされたのか。

染谷 いやー、難しいなあ。いいお話だったな、で終わらず、自分たちとしてはこう思うというところまでアウトプットしないと成長していけませんよね。
今日1日で、ヒントになるキーワードをたくさんいただきました。三浦さんのお話では、役割ごとに組織を分けるのではなく、バンドのようにプロジェクトごとにチームを作っていくというやり方がおもしろかったですし、水島さんのお話では、「INSIDE OUT」という冊子がアートの鑑賞法をまちに転用するためのメディアであること、それを読んだまちの人たちがまた独自に転用して運動に変えていっていたという事例が心に残りました。書店や図書館にも応用ができそうです。

暮らしの中で本来の学びが生まれる場所

染谷 三浦さんが手がけられた「SHIMOKITA COLLEGE」について、もう少し伺えますか。学びを目的とした人たちが住まいを共にするというのがどういう状況か、まだイメージできていなくて。

三浦 「SHIMOKITA COLLEGE」は、英語が話せるようになるといった、コンテンツの伝授を行う場所ではありません。たとえばイチローのようなスターがゲストに来て「ぼくはこうやって大リーグで成功しました」という話をしてくれても、じゃあ自分も行動しよう、とはなかなか思えませんよね。その人の価値観を変えたり、実際の行動を促すのは、むしろ寝食を共にする身近な人が日常生活の中でどう変わっていったか、どんな考えを持って行動しているのかを理解することのほうなのではないかと思うのです。

現代には、働き方やジェンダーなど、簡単には答えの出ない問題がたくさんあります。それらについて話し合うことは重要ですが、会ったばかりの人といきなり深い対話に到達するのは難しい。飲み屋で酒を酌み交わし、二次会、三次会まで行って、わけのわからない状態になって初めて出てくる言葉や思いというのが確かにあると思います。多様な人がひとところに集まっている環境だと、そういう状況が起きやすくなるのではないかというのが狙いです。「SHIMOKITA COLLEGE」で学びとるものは、人によって違いますし、ぼくらがそれをコントロールすることはありませんが、そうした学びが起きうる環境を提供したいと思っているんです。

染谷 学びとるものはそれぞれ違うけれど、まずは場を設定して、その場でポジティブな変化が起きるのを待つのですね。

三浦 はい。何かを学ぶときに、一番大事なのは中身、内容だという考え方もあります。でも、それをどんな人物がどういう文脈で語ったかも、内容が心に刺さるかどうかに影響してくると思うのです。本も同じですよね。書かれてある内容とは別に、誰が薦めてくれたか、どんな環境で手に取ったかでも、その本の印象は変わってくる。「SHIMOKITA COLLEGE」では、そうした観点からの学びの要素を提供している。その人なりのコンテクストを編むというか。

染谷 最近、民間企業のオフィスの中にも図書館的な場所を作れたらいいなと考えていたので、いまのお話はすごく興味深いです。行き交う人や同僚たちとのかかわりも、本を読むという行為に化学変化をもたらすかもしれない。

三浦 Amazonを使っていると、「この本を買った人はこんな本も買っています」というおすすめ情報が自動的に出てきますが、もう少しパーソナルに、顔の見える個人から勧められたほうがおもしろいですよね。

染谷 若者文化というのは本来、まちの外部環境に偶発的に引っ張られていくものですが、「SHIMOKITA COLLEGE」は、まさにそうした外部環境を住まいの中に作る。ポジティブな学びが生まれる場として設定された住宅ということなんですね。わざわざトークイベントやレクチャーを開催しなくても、暮らしの中で自然に学ぶことができる。

閉じているけど開いている、図書館の可能性

三浦 同じコンテンツでも、受け取るときの心身の状態によって感じ方がまったく違ってきますよね。ぼくがトークの中で提案した「図書館×お風呂」のアイデアも、先ほどの曽我さんの「読書のための音楽会」も、その可能性を探る試みなのだと思います。お風呂に入ってリラックスした状態では、いつもとは違った本が心に響くかもしれない。

そう考えると、図書館の空間や蔵書についても、ただ清潔で機能的ということからもう一歩踏み込んで、図書館の環境やそこでの体験が来館者の心身にどう作用するかという観点からデザインし直してみると、おもしろいのではないでしょうか。

染谷 チャットで質問が届きました。「個人的で閉じた体験になりがちな読書体験を、他者と共有していくためのアイデアはありますか?」
ぼくが携わっている「箱根本箱」では、みんなが寝静まった夜中も、3人ぐらいはラウンジで本を読んでいる人がいるんです。そのときの親密感がぼくはすごく好きで。それぞれ読んでいるのは違う本だけど、今この場所でスマホではなくて本を開いている、という状況はつながっている。今日の「音楽会」にも似たところがあります。みんなが音体験は共有しているけれど、読書体験は違っている。
水島さんも、個人的なものを掘っていくと普遍的なところにつながっていくとおっしゃっていました。ポイントは、場所と時間とそこで提供されるもの。図書館がそうした体験を押しつけがましくない形で提供できたらおもしろいでしょうね。

三浦 「積読」も立派な読書だと言われますよね。手には取らなくても、背表紙はずっと視界に入っているから、脳に作用しているのだ、と。図書館って、なかなか積読のできない場所じゃないですか。予約した本は「予約リスト」に入り、前の人が返却したら撮りにいかなくてはいけないというプレッシャーもある。
個々の利用者がもう少しゆるい、「いつか読みたい本リスト」のようなものを図書館のデータベース内に持てたらいいんじゃないかなと思うんです。リストはあくまでバーチャル空間にあるので、利用者同士がシェアしたり覗きにいけたりしたら、さらにおもしろい。ぼくは図書館の「今日返却された本」コーナーも好きで。あれが図書館に行かずに見られたらいいな、とか。

蔵書の「予約者数ランキング」といったデータではない、もっとパーソナルなものを見たいんですよね。司書がどんなにセレクトしても限界があると思うので、利用者自らが見せ合うと幅が広がっておもしろくなりそうだな、と。オンライン上なら、実際の本を読むこと以外の図書館との多様な接し方を作り出せそうです。

染谷 バーチャル空間にストックされたウィッシュリストが、どう交換・共有しあえるのか。おもしろそうですね。ありがとうございました。

さて、そろそろ時間になります。5時間ものイベントに伴走くださった皆様、ありがとうございました。始まるまではさぞやヘトヘトになると思っていたのですが、不思議と元気いっぱいです。あと7時間ぐらいいけそう(笑)。

今回は本プロジェクトの0回目であり、本編は2022年に立ち上がる予定です。未来の図書館をつくるためのアイデアを、さまざまな方との意見交換を通して見つけていきます。広義の学びの場にもしていけたらと思っています。

ご登壇くださった皆様に、改めて拍手を送りつつ、これで終了といたします。ありがとうございました。

廣木 皆様、ありがとうございました。さようなら!

2021年11月30日収録