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スタンダールの「赤と黒」を読んでも何もわからなかった話

  私は唐突に思った。やはりスタンダールの「赤と黒」でも読まねばなるまいと。
     


  これまで私はいっぱしの読書家を自負してきたくせに、名作と呼ばれる作品を難解だと言って遠ざけてきた。「赤と黒」は教科書にも載るような名著なのだから一読の価値はあるに違いない。そう思ったのはいつものように図書館で物色をしていて、片隅に古ぼけた世界名作全集を見つけたからであった。


  しかしその全集はあまりにも古ぼけていて私は1、2ページ読み進めたところで一抹の不安を覚えた。私の経験上あまりにも古い本、特に外国の本というのは翻訳がわかりづらいことが多く、現代の読者にとっては非常に不親切で読み進めづらいことが多いからだ。わたしは不安を抱えたまま、でも一度は読んでみた方がいいよなという気持ちで全集のページを繰っていった。


  数日かけて「赤と黒」を読み終わった私の感想は
    「これ何がおもろいん…?」
だった。この本を読む前の私の不安は的中し、そもそもこの全集は非常に読みづらいものだった。そのせいか私にはこの本の内容がただ中二病の主人公が、自分の中で悶々としているのを読まされているだけにしか感じられなかったのだ。



  「赤と黒」の内容を知らない人のために軽く解説すると、このタイトルの赤と黒とは当時のフランス僧衣と軍服の色のことを指している。当時のフランスでは平民が立身出世するにはこの二つの道しかなく、野心家の主人公ジュリアン•ソレルは栄達のためにこれらの道を志す。けれどその過程で有力者の子供の家庭教師などをするうちにジュリアンは町長夫人との不倫、貴族令嬢との恋などをし、そして一悶着ある…。とまあそんな内容である。詳しくはググってくれ。



  私が「赤と黒」を読んでつまらないと思ったのは、基本的に主人公が人とのやり取りを勝ちか負けか書き連ねるだけで、小説が最初から最後まで終わってしまったからだった。成り上がりたい欲の非常に強いジュリアンくんは、人とのやり取りを基本的に勝ちか負けかで判断する。「赤と黒」とはジュリアンくんの日々の社交場での勝敗記録なのである。


  もちろん当時のフランス人にとっては大スター、ナポレオンの存在やそれを取り巻く世相など「赤と黒」を読んでいて「わかる、わかる〜」となる内容も多かったのだろう。けれどわたしは21世紀に生きる日本人で、めちゃくちゃわかりづらい翻訳文で「勝った、負けた、勝った、また負けた…」というような内容を延々と読まされ続けたのである。これではなんのこっちゃわからん。少々中二病が入っている天才美少年ジュリアンくんのことを私は嫌いではなかったけれど、それでもこの読書体験は私に何のときめきももたらさなかった。きっと私などよりもっとずっと頭が良く、高尚で、文化的な素養のある人であれば「赤と黒」を面白く感じるのだろう。まだ見ぬ誰かに嫉妬と劣等感を覚えながら私の「赤と黒」との邂逅は終わったのだった。

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