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埋忠明寿以外の九年母図鐔の作柄について

埋忠家は刀装具でも技巧的で絵画的な作品を多く残している集団ですが、刀や鐔の他、鏃(やじり)なども製作している事は私も先日初めて知りました。
相変わらずこだわり具合が常軌を逸している芸術家集団です。

「特集陳列 埋忠明寿とその周辺 東京国立博物館」より

因みに埋忠家が主にしていた仕事は、埋忠銘鑑や光徳刀絵図(寿斎本)から、「刀剣の摺り上げと記録、金象嵌の施入、刀身彫刻や直し、鎺や拵製作、刀剣や鐔、小刀、槍、鏃などの製作」などが伺えます。
ですので一概に芸術家集団とまとめると誤解を生みそうでしたので一応補足しておきます。

そしてこの集団の原点とも言えるべき金工が桃山時代に活躍した埋忠明寿であり、桃山時代という芸術が華開いた時代背景であったり、その時代に生きた明寿の芸術性や文化人としての教養が存分に発揮されているのが、真鍮などの色金に柏や九年母など植物の葉や実をデザインした鐔であるような気が個人的にはしているのです。

「特集陳列 埋忠明寿とその周辺 東京国立博物館」より
「特集陳列 埋忠明寿とその周辺 東京国立博物館」より

しかしこの手の鐔には同時に偽物も多いという話を聞きます。
果たしてそれが偽物なのか、後代埋忠による模作なのか、という点はまた議論の余地がありそうな箇所ではありますが、今回昭和53年に東京国立博物館で開催された「埋忠明寿とその周辺」という図録を手に入れた際に、埋忠明寿以外の埋忠一門の作が載っており、これは先の問題を検討する上でも役に立つような気がしたので紹介して見る事にします。


そして敷いてはこれが「埋忠」二字銘の鐔の作者の解明に少しでも繋がれば嬉しく思います。

埋忠二字銘の九年母鐔。明寿と近似した作風もあれば、後代と思われる作もある。
こちらの鐔は明寿に近似した鐔。


・埋忠明真の九年母図鐔

実物を見た事は無いのは勿論、存在すら知らなった明真銘の2枚。
明真は明寿の子と考えられている人物で埋忠重義と同人と思われる説もあるそうであるが、資料となる作品も少なくこの説は決定しがたいそうである。

葉脈部に金象嵌と思われる物が入れられており、明寿の作でこの葉脈だけ色を変えた物は見た事がない。明寿は葉脈などの一部ではなく、葉全体の色を変えている所から、この鐔に明真独特のオリジナル感を感じる。
しかしなんというか余白の使い方が独特で上部に空間を持たせるような癖があるようにも思える。


因みに以下が明寿の作である。
葉の色全体を変えているのが分かる。

(画像出典:美術展ナビ


・埋忠元重の九年母図鐔

埋忠元重という人物についても私は初めて知った所であり、この作は資料的な価値も非常に高そうです。
元重も葉脈部を一部色を変えて象嵌している事や、地鉄が素銅地で新しい印象を受ける事から明真の子あたりの人物でしょうか。
しかし素材感からか、どうも若々しさを感じます。
素銅地のもので新しい雰囲気の物はこの人物の手によるものである可能性もありそうに感じた次第。

「特集陳列 埋忠明寿とその周辺 東京国立博物館」より


明真にしても元重にしても空間の使い方や、象嵌による葉の表現力でやはり明寿の作には届かないように感じます。
しかし技量としては非常に高い物であり、明寿の偽物とされている作の中にはこれらの作が交じっているような気もします。

とはいえ、これは仮説ですが、やはり明寿の特徴は捻り耳にも表れているような気もして、よりふにゃげているように見て取れます。
以前入手した以下の鐔は葉脈の太さに少し躍動感が足らないように感じるのとやはり耳部のふにゃげた感じが足らないような気がして、明寿よりも少し下の代の人による作であるようにも思います。

これが時代が更に下がると以下の様になります。

時代時代で自分自身のオリジナル感を追求しているような気概が作品から感じられるので埋忠家の作品は面白く迫ってくるものがあります。

そして調べれば調べるほどやはり以下の作は明寿に近似していると思うのです。
葉脈も細くスッと通っており、捻り耳もさることながら色揚げの色も真鍮とは思えない独特の深みがあり、これこそ桃山文化の侘び寂びの美が詰め込まれていると思うのです。

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