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刀装具の「目の生気」について考える

龍や獅子、動物などを題材にしたものに限られるが、良い刀装具は「目に生気がある」と表現される事が多い
反対に「目が死んでいる」と表現される刀装具もある。
今回はこの目の生気について、実際の虎の写真を見ながら考えてみる。

なお、虎は「竹に虎」図や、龍と虎が対峙したような図の「龍虎図」など、龍や獅子に次いで刀装具でも良く見る図柄に感じる。

まず本物の虎の写真を3枚見てみて、受け取る印象に違いがあるか見てみる。

①(画像出典:よこはま動物園ズーラシア
②(画像出典:よこはま動物園ズーラシア
③(画像出典:よこはま動物園ズーラシア

こう並べて見ると、人間同様目つきにも様々あり、感じる印象が変わってくる。特に1枚目の写真はいかにも敵意を感じる鋭い眼光をしているが、2枚目は少し警戒しているくらいの目、3枚目は人間でいうリラックスしている時のような比較的優しい印象の目をしているような印象を受ける。

・目部分だけを抽出して印象が変わるか?

次に先の3枚の目部分のみを抽出してみて、目以外の部分がどの程度印象に影響を及ぼしているか見てみる。

今度は個人的には1、2枚目が眼光鋭く、3枚目が優しい目つきに見えるがどうだろうか。
この違いを極端にイラストにしてみると、以下の様に黒目の位置が異なる事で、目つきによる印象が変わるような気もする。


・2枚目の写真に優しい目を合わせるとどうなるか

次に見てみたいのが、2枚目の伏せながらも少し警戒しているような姿の写真。
この写真に3枚目の優しい印象の目を合成すると、リラックスして伏せたような優しい印象になるはずである。

加工前
加工後

なった。
優しい印象になったのではないだろうか。
だいぶ雑であるが、目だけで随分と印象が変わる


・構図と目の組み合わせが大事と言えそう

こうして考えると、捕食しようと今まさに動こうとしている動作の絵に、優しい目は合わない。
反対にリラックスしている虎をデザインする際に、鋭い眼光はまた合いづらい。
人間の目はちょっとした矛盾を敏感に感じ取れる力があるように感じる。
良く表現される「目の生気」というのは、こうした構図と目のギャップから来ている事が多いような気が個人的にはしているがどうであろうか。
目の生気を上手く表現した作は、目の先に映る何かを想像しやすい傾向がある気がするが、目の死んだ作は目の先が何を見ているのか分からないし作自体の動きも固く、生気を感じない。

以前から拝見させて頂いていた刀装具で言えば以下の宗珉の虎目貫はこの微妙な目つきの差を上手く表現しているように思え、狩野派のデフォルメされた虎ながら眼光が鋭く見え、捕食しようと辺りを警戒する様子が伝わってくる。
恐らく筋肉の付き方なども上手く表現されているからそのように感じるのかもしれないが、この辺りはまだ勉強不足で分からない。

(画像出典:真玄堂instgram
(画像出典:真玄堂instgram

墨絵の様に赤銅を象嵌する点など、技巧的な部分も勿論凄いのだろうが、それ以前にやはり構図と目つきが合っている所に、表現力として圧倒される素晴らしさを感じる。

尚、最近見た中で他に圧倒された目の生気を持った作は以下である。
今にも捕食しようと竹から出てきた虎を描いているが、眉毛の角度だけではなく、模様までも目の中心に向かう事で、放射状のデザインになっているからか、睨まれて吸い込まれそうな印象を受け圧倒された。


因みに刀装具の凄い所は、実用を伴っている点だと思う。
あくまで刀を使いやすくするという実用ありきで今回の表現を施している所が凄い。
現代の作を見ていると、目の表現などが上手く感じられても実用的な面で例えば鐔の櫃孔の位置がおかしいものや、小刀を入れる小柄など厚みがやたらと厚かったりする物もある。
これは拵に付ける習慣がないという現代ならではの問題なのだろうか。

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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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