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巨大目貫「蝦夷」

先日銀座長州屋さんを訪れた際に「蝦夷」目貫を初めて拝見させて頂いた。

東京銀座にある銀座長州屋さん

今まで蝦夷は名称だけ聞いた事がある程度で実物を拝見した事が無かった。
初見の感想は、「大!!!」というものであった。
何と目貫にも関わらず横8㎝、幅2㎝近くあるのである。
古美濃で大きいと感じた目貫でも5.5cm程度であった。
後藤は3.5cm位なので、2倍以上ある計算になる。

なんだこの大きさは!と感じると共に、金が剥げたその見た目から何とも言えぬ風合と迫力を感じた。
その目貫が銀座長州屋さんのHPに載っていたので紹介する。

(画像出典:銀座長州屋 牡丹獅子韃靼人図目貫

室町時代の物で、山銅地を薄く打ち出し表面に薄い金の色絵を施している。
古い手法であり経年により表面が磨れて下地の色が露出している。
この摩耗した感じというかなんというか。
大名拵に付いているような綺麗な金具類(例えば後藤家のものなど)も勿論美しいのだが、こちらはその対極にある美であるような印象を受ける。

このような大目貫がどのような拵えについていたのか。
そしてこの大迫力かつ究極の詫び寂びを兼ね備えた蝦夷とは何なのか。

・蝦夷について

さて蝦夷について昨日知ったばかりで知識が全くといって良いほど無いので、入口も入口の話にはなってしまうのだが、調べて見た事を簡単にまとめてみる。主にこちらの記事を参考にしている。

刀装具で言えば、南北朝期から室町時代前期にかけての装剣金工に「蝦夷」と呼ばれる一群がいたらしい。「エミシ」と「エゾ」という2つの呼称に大別される。
蝦夷という呼び名は元々古代中国に始まるようだが、中央権力者の元を離れて狩猟などをしていた民族を蔑視してこのように呼称したらしく、日本でも権力者の元から離れて(権力者に従う事無く)東北に移動し狩猟しながら自給自足をして生活していた者達のようだ。
wikiによると日本でも形式上最も古い言及は「日本書紀」に登場するようで、弥生時代からいたようである。
生きるために食物を自然から得て蓄えることはあっても、富もうとする意識は特段持たなかったようで、我が国の蝦夷についての記録を見ても争いを好まず気性が穏やかであるとしているようだ。
つまるところ蝦夷の人達は争いを避け自然のままに生きた集団であったようだ。

そして南と北、双方から異なる文化が流入していた北海道に移住した頃、
別の文化(オホーツク文化)を基盤とする人々と交流。
オホーツク漁民の生活様式を取り入れ、また古くからの北海道の文化の影響も受けていた事から、鎌倉末頃に独特の文化を創り出しこれが後の「アイヌ」と呼ばれている民族に発展するようだ。

1878年(明治11年)、イギリス人旅行家・イザベラ・バードが北海道の日高地方でスケッチした
アイヌの男性。(画像出典:アイヌwiki

蝦夷にもオホーツク人にも製鉄文化が無かったようで、それゆえ鍛造された刃物は貴重で、簡素な装備の「マキリ」と呼ばれる実用具は良く知られている。

(画像出典:マキリ 文化遺産オンライン

一方で首長などは権力の象徴である腰刀を帯びて祭礼に用いていたようで、蝦夷拵はその一様式とのこと。
真鍮や胴を用いて変わった彫刻が施されている。

(画像出典:蝦夷拵 文化遺産オンライン
(画像出典:蝦夷拵 東京国立博物館

南北朝時代の他の刀に目を向けると大太刀などが登場し、武器としての性能がより求められた時代であるような気がする。
刀装についても革包太刀拵が残っており、実戦的な様式が垣間見える。
一方で貴族が儀礼時に使用した飾太刀拵も残ってはいるが。
室町時代には鎌倉期の太刀を小さくしたような片手打の刀が登場する。

蝦夷については今回参考にさせて頂いた元記事の方がより詳しいので、是非こちらをご覧ください。


・大目貫に話を戻して

話は戻るがこの大目貫の画題は、馬上から弓を放って獲物を仕留める韃靼人と呼ばれる人が獅子を引いている様子らしい。

(画像出典:銀座長州屋 牡丹獅子韃靼人図目貫

牡丹に獅子という画題は後藤家の作でも良く見るが、これはつまり権力者が好む画題をあえて使い、その象徴とも言える獅子を我々蝦夷の者が抑え込む様子を示す事で、「権力に屈しない」という事を表した図であるように思えてならない。

意味については想像するより他ないが何とも迫力ある目貫であった。
是非また拝見させて頂きたい目貫である。
(いかん、また見ると欲しい欲が高まる…)


蝦夷の目貫についてはネットで調べた程度でしかないが、他にもウサギなどを野花と合わせたものや、草花を単体で表したもの、人々の日々の営みなどを表現したものなど、全体的に平和な印象を受ける物も多かった。


それにしても重要刀装具指定でも100万円切るとは恐れ入りました。
一見ボロに見えるので人気が無いのでしょうね。
古い物はとても味わい深く良いのですが、比較的お手頃な価格帯が多いので助かります。
これからも蝦夷について色々調べてみようと思います。
取りあえず今日は触り部分という事で。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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