イベルメクチンは高用量でなくてはならないは誤解?(大村智特別栄誉教授の本から学ぶ)

イベルメクチン 〜新型コロナ治療の救世主になり得るのか〜
大村智(Omura_Satoshi) 編著
<ノーベル生理学・医学賞 大村智特別栄誉教授がすべての疑問に答える>
エバーメクチンとその誘導体イベルメクチンの発見により、2つの熱帯病の撲滅に貢献し、「線虫感染症に対する新しい治療法の発見」で2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞

詳しくは購入してご覧ください
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309631424/


第3章イベルメクチン論争の虚実

7 イベルメクチンの有効濃度に関する論議 p182

オーストラリアのレオン・カリー博士やワグスタッフ博士らの論文が抗ウイルス研究領域で権威があるとされている「アンチバイラル・リサーチ」誌にオンラインで発表された直後に、メルク社の「イベルメクチン(製品名はメクチザン)」無償配布プログラムを運営する委員会が声明を出しました。

その声明は、イベルメクチンが新型コロナに有効であると主張することは証拠不十分であるという否定的な指摘だけでなく、オンコセルカ症や疥癬などへの米国FDAの承認容量から考えて、試験管内実験で示された新型コロナウイルスを抑制する必要濃度が高過ぎるという内容でした。そのような体液中濃度を得るために高容量を服用した場合に「激烈な副作用が起きることが懸念される」と警告しました。

・試験管内実験成績への初歩的な誤解

ここで一つ、確認しておきたいことは、ワグスタッフ博士らによる新型コロナウイルス増殖抑制試験は、有効な薬剤を確実に識別するために、試験に供する腎臓由来のベロ細胞にウイルスが感染するのに最適な条件に設定され、極めて大量のウイルスを接種するという実験系を用いていたことです。探索研究(スクリーニング)に用いるのと同様であるこのような実験系では、真に有効な物質のみが陽性の結果を示し、活性が極めて弱い物質や偽陽性を呈する物質を排除することができます。

試験管内実験では、感度と特異性の2つの要因を考慮しながら条件設定をしますが、感度を高くすれば特異性が低くなり、特異性を高めるには感度を低くして偽陽性を避けることが必要です。それゆえ、特異性を重視した同試験では、ウイルス増殖阻害濃度(IC50値)が2マイクロモル程度と高く設定されており、イベルメクチンの抗ウイルス活性が確実に証明されているのです。

試験管内実験系の感度は実験目的と実験系の設計によって、著しい高感度から低感度まで、どのようにも設定可能であり、この試験の感度を10倍に設定すれば、IC50は0.2マイクロモル程度になりますし、50倍に設定すればIC50は0.04マイクロモル程度となり、通常のイベルメクチンの投与で得られる血中濃度レベルになります。被験細胞の種類や感染に用いるウイルス量、培地組成や培養条件により試験管内実験系の感度はどのようにでも設定することが可能であることは、実験生物学の基本的な知識です。

しかし、そのような試験管内実験系の特殊性の基礎をなぜか考慮できない人たちは濃度数値だけを見て、同論文に記述されているイベルメクチンの有効濃度が2マイクロモルという高濃度であり、通常の人体への投与量の10倍以上であるから、「イベルメクチンは新型コロナ治療に適さない」という見当違いな論議を繰り広げています。つまり、桁違いの量を飲まないとイベルメクチンは有効にならないという、危機感を煽る論評をしているのです。

これは全くの誤解であり、ワグスタッフ博士らの実験の目的を「イベルメクチンの活性測定」であったと勘違いしています。WHOの「治療薬と新型コロナウイルス感染症」ガイドラインにおいても、世界で屈指の感染症治療の専門家の団体であるはずのIDSAの「新型コロナウイルス感染症の治療と患者管理ガイドライン」の中においても、ワグスタッフ博士らの論文に記述されている内容を明らかに誤解した記述がされています。誤解というよりは、曲解といった方が良いかもしれません。

もし、イベルメクチンの抗ウイルス活性を定量的に測定する目的であるならば、極めて低濃度のイベルメクチンによる阻害を検出できる実験系を設定する必要があり、イベルメクチンの濃度を段階的に設定して、反応速度と阻害定数を算出するなどの検討が必要になるのです。世界のパンデミックを制御するためのガイドラインを作成する専門家が、このような初歩的な誤解を訂正することなく、誤ったガイドラインが存続していることに懸念を覚えます。

この有効濃度の問題は、米国立衛生研究所(NIF)も米感染症学会(IDSA)もイベルメクチンを新型コロナに使用することに反対する基本的な問題点として挙げており、WHOのアメリカ大陸支部であるパンアメリカン・ヘルス・オーガニゼーション(PAHO)も同声明を引用してイベルメクチンを新型コロナに使用することに反対を表明す理由に挙げました。

カリー博士らによる試験管内実験におけるイベルメクチンの新型コロナに対する有効濃度は高く、臨床においてそのような血中濃度を得るためには常用量の数十倍の投与が必要になるので、常用量のイベルメクチン投与による新型コロナへの治療効果は望めないという意見です。一般向けには極めて正当な見解に基づく警告と理解されてしまいますが、その主張は実験系が持つ前提を無視したものであり非科学的です。

実験の臨床現場では、第4章で詳述するように、そのような大量の投与をしなくても、イベルメクチンは新型コロナ治療に効果を示しています。

・動物実験で実証

試験管内実験と臨床試験との間を結ぶには動物実験があります。フランスのパスツール研究所におけるハムスターの嗅覚異常を指標とする感染治療実験で、体重あたりヒトの常用量に近いイベルメクチンが有効であり、治療後のウイルス量の変化では非投与の対照群との差が認められないながら、イベルメクチン投与により肺の炎症性サイトカインであるインターロイキン-6と10の著しい低下が認められています。[37]

すなわち、イベルメクチンは宿主の炎症反応の調節に働くことにより新型コロナに有効性を発揮している可能性が示唆されているのです。イベルメクチンはマクロライド構造を有しており、他のマクロライド化合物と同様に、極めて多様で多種の作用を示すことが知られています。宿主の炎症反応の調節機能も、それらの多種多様な作用の一つと考えられています。

イベルメクチンの新型コロナに対する作用の基礎的な研究成果と臨床効果につながる検討については、第4章で詳しく解説します。


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以下参考URL

The FDA-approved drug ivermectin inhibits the replication of SARS-CoV-2 in vitro LeonCalyaJulian D.DruceaMike G.CattonaDavid A.JansbKylie M.Wagstaff
https://doi.org/10.1016/j.antiviral.2020.104787

[37]Anti-COVID-19 efficacy of ivermectin in the golden hamster
https://doi.org/10.1101/2020.11.21.392639

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