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神々の金槌が私たちの船を導く。

4月16日日曜日、午前6時。その日私は2つの行き先を決めあぐねていた。

一つは横須賀市、横須賀スタジアム。横浜DeNAベイスターズがファーム(二軍)チームの本拠を置くこの球場でこの日ライオンズ戦が組まれており、電撃的にベイスターズに加入したMLBの大物、トレバー・バウアーがこの日初めて実戦で投げるという。ファームとはいえ混雑することが大いに予想されるので早く出たい。

もう一つは新潟市、万代島多目的広場。最近追いかけるようになったDDTプロレスの地方大会が開かれる。メインイベントは地元新潟出身のプロレスラー、スーパー・ササダンゴ・マシン(以下「ササダンゴ」、文中選手は敬称略)が青木真也・上野勇希と組みユニット「バーニング」の秋山準・岡田佑介・高鹿佑也からの挑戦を受ける「KO-D6人タッグ王座」の防衛戦。

1月末に新潟大会が発表された頃から「新潟に行ってみようか」という話は何度か友人と上がっていた。この友人とはもともとTBSラジオを聴いていた縁から交友が深まり、
「アフター6ジャンクション」に出演していたササダンゴにはまる→
地元新潟でローカル番組「スーパー・ササダンゴ・マシンのチェ・ジバラ」が始まったので聴き始める→
ササダンゴの「中の人」ことマッスル坂井の作・演出したプロレス興行「まっする」を観に行く→
DDT自体に興味を持ち始め本体の興行に通ったり配信を見始める
という沼に至っている。つまりはDDTのきっかけを与えてくれたのがササダンゴであり、ササダンゴの一挙一動に目を向けてしまうのは自然なことになってしまう。お互いそう思っている。

まっする最終公演。4公演中3回は見に行った。

昨年12月に「チェ・ジバラ」のイベントを新潟で行った際、二人分のチケットを確保し新潟への旅程や宿も抑えたのの直前になって友人に急用が入りやむなくキャンセル(宿もキャンセルしたので夜行バスを確保し0泊3日の強行軍でひとり新潟へ向かった)という過去もあって新潟への願望はあった。

2月末にササダンゴが急造ユニットで挑んだ6人タッグ王座を獲得し、地元新潟で防衛戦が組まれることが決まった時にも「行ってみようか」と話題に挙がったことがあった。

2月26日、後楽園ホールにて6人タッグ王座奪取。
ユニット発案者なのにササダンゴはベルト獲得後も終始戸惑っていた。

土日を使い新潟旅行を組もうとも考えていた。しかし、4月15日~16日の新潟周辺のホテルを検索してもなかなか見つからない。見つかったとしてもシングル素泊まりで2万以上という相場を遥かに超える値段。

このとき調べて初めて知ったことに、15日・16日の2日間、市内のアリーナ・朱鷺メッセにて「ジャニーズWEST」が公演を行うとのことで、すでに新潟市のホテルがことごとく抑えられていたのだ。このことを知ってからは、お互い新潟への意欲は少しずつ弱くなっていた。

その後も定期的に新潟一泊を探してはいたものの、部屋は時折復活するも1泊1万を割ることはなかなかなく、新幹線の指定券や高速バスもことごとく売り切れ、自分の中では遠征自体諦めかけてしまっていた。友人も「当日早朝に考えるかもしれない」と含みは残していた(実際それで当日に決めて仙台に遠征した人だ)が、自分はもう彼女が一人で遠征に行くのを送ってあげようとも考えるくらいの心持ちでいた。既に私はバウアー登板に気が向かってしまい、土曜日に一時実家に帰った際にもタオルやユニフォームなど観戦グッズ一式を詰めていたくらいだった。

ここでようやく時計が16日朝に戻る。特に理由もなく午前6時に目が覚めてしまった私はLINEで友人に行くかどうかの意志確認をしていた。指定席は相変わらずとれない。前日から天気は悪い。ただ「行かなかったのをお互い悔やむなら行くのがよい」と回答が来た。まだ迷っているようだった。

「いろいろ回りたいなら車は借りたいと思う」

いつの間にかこう送っていた。無意識に自分の考えが新潟方面へなびいていたんだと思う。7時15分、朝食を食べ実家から出る。この時はまだ家族には「横須賀に行く」と伝えていたものの最寄り駅までの歩きや行きの列車の中でも考えはまだまとまってなかったものの、

「9時前には東京駅に行く」

このLINEを受け取った時、ああ、覚悟はもう決まったんだなと感じた。

7時45分、気づけば私は西日暮里前の金券ショップでJR東日本の株主優待券を4枚購入していた。少しでも往復の交通費を浮かせようとしたのだが(後で見返すと片道300円程度の微々たるものだった)、裏返せばもう自分の中でも後には引けない思いがあったんだと思う。

1枚3800円、4枚で15200円。
決して安いものではない。

8時10分、東京駅。新潟行きの上越新幹線、指定席は1時間ほど満席が続く。30分頃に友人と合流し自由席を購入。一番早く到着する9時12分発の「とき311号」に乗ることに。DDTのチケットやレンタカーの確保を待合室で済ませホームに上がるも、9時過ぎに新幹線が入線する頃には既に自由席の号車には長蛇の列ができあがっていた。8割ほどは女性で、持っていたアイテムからしてジャニーズ目的の方々だろう。無事乗車はできたものの席は確保できず約90分を通路で立ったまま過ごすこととなった。時間つぶしにとまだ見ていなかったアニメの消化を行ったり、長い長いトンネルで電波が入らなくなって手持ち無沙汰に陥ったり(見るんだったらあらかじめダウンロードしておくのは大事という教訓を得た)するうち10時41分に新幹線は新潟駅に到着する。空はあまり心地いいとはいえない曇り空だった。

4時間前は本当に来るとはまるで思わなかった場所。
こんなに並ぶ駅の改札初めて。

乗っている客が多いということは降りた後も客が多いということだ。特に女子トイレの列が長く伸びてしまっており、友人が並ぶだけでも大きくタイムロスを食らうことになるだろう。やむなく自分だけ先に駅を出てレンタカーやチケットの確保を行う。再び合流できた頃には11時20分。DDTの開場は12時半、開演は13時。できることは限られている。

まず我々が車で向かったのが「坂井精機」という会社。外から見るとなんの変哲もない郊外の町工場であるが、ササダンゴこと坂井良宏氏の経営する金型工場であり、最近では自社製品としてプラモデルをリリースしたりしている新潟の工業の最先端を担っている場所だ。とはいえ日曜日だし経営者は既に会場にいる訳で人の気配があるはずもなく、このときは入り口から会社を眺めるだけだったものの、我々にとっては立派な「聖地巡礼」となった。昼食を食べたり行きたかったところは他にもいろいろあったものの既に12時近くになっていたこともあり、そのまま会場へ車を走らせる。

誰がなんと言おうと聖地である。

ところで、会場となる万代島は充分に広い駐車場は備わっており、この時間に来ても車を停めることはできたものの、朱鷺メッセもすぐ近隣にある。すなわちDDT目的で行く我々がジャニーズWEST目的の皆様方(しかもこの日は昼夜2公演でなおかつ昼の部の開演が13時とかぶってしまう)の車群に埋もれる形で駐車場へ時間をかけて移動することとなった。よくまあ開場の12時半には間に合ったなとは思う。

万代島多目的広場、通称「大かま」。
荷揚げの施設跡地を利用したスペース。

会場に着く頃には入口に並んでいた行列が少しずつ動き始めていた頃だった。行列の先でひとりチケットをもぎる松井レフェリーの姿がみられ、地方大会ならではの団体総出で取り組む雰囲気を早速味わうことができた(普段行く後楽園ホールではホールの係員が二人がかりでもぎっている)。会場である万代島多目的広場の内部はなかなか広いところで、信濃川に沿った運河を漁船が行き交う姿を広い窓から眺めることができる。リングの四方に並んでいた椅子の数はさほど多くはなかったが、それ以上に少しずつ増えていくような人と活気を感じていった。

グッズ売店にはいつものDDTの物販だけでなくササダンゴのグッズを販売する「ササダンゴ商会」の出店も並んでいた。運営をする「チェ・ジバラ」でもおなじみの小林友さんの姿も。最近話題となっている坂井精機謹製、スーパー・ササダンゴ・マシンのプラモデルが平積みになっており、既に保存用として一つ所持していた(昨年12月にジバラにて購入したプロトタイプ)私は組立用にもう一つ買うことも考えていたのだがここにサインをもらうと捨てるのが惜しくなるのではと思いまだ持っていなかったロンTを購入。

リング向正面となる北側、最後列の自席に腰を下ろし荷物の整理を行っているとこの日開演前にサイン会を行うササダンゴと上野勇希がフロアに登場した。会場横のサインスペース(ペンの置かれた長机)に二人が腰を下ろすとまもなく二つの長い列ができる。ルックスのよくもともと女性人気が高い上野はもちろんだが、それ以上ともいえる列の長さを作っているササダンゴに「地元の英雄」というのはあながち間違いではなかったことを感じる。

数人ほど並び自分の出番になる。「今朝急に決めて東京から来ました」「本当に!?」「それだけの価値を期待しているんですよ」といったベタな言葉を交わしつつ先ほど買ったTシャツへサインをいただく。席に戻る頃には既にオープニングの前説が始まっていたが、開始の直前に至るまで列が途切れることはなかった。

真後ろ。

予定の13時から5分ほど遅れて大会が始まった。既にノンストップで行動していた我々は試合自体は心落ち着けて観よう、という見解で一致していた。既にここまでたどり着いた時点でこの旅行の峠は超えたものだと思っていたからだ。試合内容については公式のレポートに任せるとしてここでは深くは触れないものの、熱いぶつかり合いありバラエティ豊かなエンタメ度の高い戦いあり、決して飽きることのない試合が続いていった。

自席の真後ろが選手入場口だった。
先陣を切るルーキー瑠希也。
ユニット「ハリマオ」の共闘を受ける須見和馬。
プロレス界屈指のセクシーなユニット「フェロモンズ」。
後列の飯野“notセクシー”雄貴は諸事情でセクシー封印中。
コスチュームを脱ぎセクシーを解放しようとする飯野を
必死で押さえ込む男色“ダンディ”ディーノ。
近年ブレイク中のダンシングヒーロー・平田一喜。
対する世界に名をとどろかすトリックスター・MAO。


ぶつかり合い・馬(小嶋斗偉)乱入・時間止めの末、
MAOが3カウント。

(試合の動画は公式配信「WRESTLE UNIVERSE」で見れるほか、YouTubeでも期間限定で見れるそうです。無料なので是非とも)

中でも休憩前に行われた電流爆破デスマッチにおいては、レジェンド・大仁田厚が参戦するともあって会場の熱気は最高潮に達していた。大仁田の象徴たる「邪道」のジャケットを着たファンも少なくはなかった(先月川崎で見ていた友人曰くそのときの入場ではファンが幟を掲げるなどもっと大がかりだったとか)。会場内のどこで何が起こるかわからない3対3のデスマッチ、会場内いたるところ(客席含む)で争いが繰り広げられ、既に出番を終えた選手たちが総出となって観客の身の安全を守る姿に「この場は危険なんだ、プロとして守ってるんだ」と感銘を受けていた。

デスマッチのカリスマ・大仁田厚。
入場時から水をまきまくっていた。
場外で戦う小嶋斗偉とジョーイ・ジャネラ。
よく見たら場を止めてるクリス・ブルックスが「チェ・ジバラ」のシャツ着てる。
乱闘は場外まで及ぶ。
「外に出ないでください!」と必死のアナウンス。
自責の目の前で起こる乱闘を観客から守る樋口和貞。
かっこいい。

場外乱闘も一段落しお待ちかねの電流爆破バット。その光景は映像でこそ見ておりそのインパクトは分かってはいたのだがその先入観は生で見るとあっさり吹き飛んだ。響き渡る音とリング全体に弾ける光。これは演出効果などではない、「危険」そのものだという感覚をこの身に刻みつける。これは確かにハマる人は多くいても仕方のないものだと思う。

ジャネラ、大仁田に向けて電流爆破バットを放つ。
小嶋、正田壮史に電流爆破。
映えるけど撮るのなかなか難しいね。
この瞬間のジャネラ。
敗れたジャネラ、大仁田にアメリカでの再戦を要求。
休憩中、いろいろと汚れまみれのリングを総出で清掃。
休憩明けの試合、HARASHIMA・遠藤組vs坂口・岡谷組。
マッチアップで約束されたガッチガチのぶつかり合い。

そしてメインイベント、KO-D6人タッグ選手権試合。我々はこの試合を観に新潟まで来たのだ。休憩中も「この3人で防衛する戦略が見えない」「どうやって勝つのかの道筋が分からない」と友人と言い合っていた試合。体格は恵まれているものの決してプロレスのスキルは高くないと自称しているササダンゴ。途中交代ができないまま代わる代わる技をかけられ、場外を走り回らされ続け体力を消耗していく中、上野・青木の頼もしい手助けに逢いながら最後の力を振り絞り必殺技「垂直落下式リーマンショック」を決め3カウントを奪うまでの20分間、その緑のマスクとコスチュームに片時も目を離さずにはいられなかった。決して派手なことは決めるわけではない、その泥臭く希望を忘れることのない戦い方に「まっする」のクライマックスを思い出さずにはいられなかった。

ササダンゴ・上野・青木。
秋山相手にぶつかり合い、
しかしバーニングの猛攻を受け、
リング外を引きずり回される。
それでも上野の跳躍、
青木の固めに力を得て
リーマンショックで試合を締める。
初防衛成功。

戦いを終えた後のマイクパフォーマンス、それでも自分の不甲斐なさからベルトを返上しようと言うササダンゴに対し「どすこい」と挑戦を表明する「ハリマオ」(樋口和貞・石田有輝)。及び腰になりつつも挑戦を受け大会を締めるまでの一連の流れは自分も友人も感情が追いつかないままであった。

試合後どすこいと挑むハリマオ。
大団円。

大会後しばらくして、開始前に充分にサインができなかったササダンゴがブースに現れる。この試合を終えて一言だけでも声をかけたいと並んでしまい、既に書いてもらったシャツにもう一言書いてもらった(人は多くなかったとはいえ本来あまり良いことではないけど)。「もう本当にすごいエモい感情でいっぱいでした。東京から来た甲斐がありました。ありがとうございました」。伝えたいことが充分伝わってなかったかもしれないけど、これで良かったと思う。

同じく急ごしらえにサイン会を行った上野、電流爆破を戦い抜いた高木大社長(社業もあるのであまり東京だとサイン会を行わない)にも同じような言葉をかけた。この感情を、感謝の気持ちをいろいろな人に伝えたくて仕方がなかったのだ。

16時過ぎにいろいろと惜しみながら会場を出る。駐車場へ赴く道はジャニーズWESTの昼の部終わりと夜の部待ちのファンで賑わっており、車を出すだけでも20分ほど時間をかけないと出ることができないほどであった。混雑を抜けて大通りに出たことでようやく安堵感からか空腹を覚え、昼食を食べよう(この時間だともう夕食時だろう)をと繁華街の古町へ向かい、「とんかつ太郎」にてタレカツ丼を賞味。ジューシーな肉、くどすぎないタレとご飯の相性がすばらしい。「チェ・ジバラ」だと米山カリー食堂のビーフカレーと組み合わせると至高、という話題があったのでいずれはそっちにも行ってみたい。

これご飯の下にもカツ埋まってんのよ。すごいよ。

残念ながら帰りの新幹線もあるので十分な時間はとれない。先に食事を終え近隣の「TADAYOI」(これまた「チェ・ジバラ」で幾度も出ているササダンゴ御用達の洋品店。お酒の飲めるバーカウンターもある)へ寄っていた友人と合流し急ぎ新潟駅へ戻る。給油を行いレンタカーを返却し新潟駅に到着。次の新幹線が出るまで残り10分ほど。みどりの窓口にて残席を確認すると指定席は既に売り切れ。もはや体力の余裕もなかった我々は自由席で座れるかのギャンブルに挑まず迷うことなくグリーン席を選んでしまっていた。

長いようで短い一日の終わり。

18時18分、「とき342号」新潟駅を出発。グリーン席の予想以上に快適なシートが疲れを癒やしてくれ、帰りの新幹線でやろうと思っていたこと(行きで途中だったアニメ見直したり今日のことを書き留めたり)がいつの間にか眠りに消えてしまっていた。この空間に2510円(優待券価格)は決して高いものではないと思う。

20時12分東京駅着。改札を通ったところで半日の時間を共にした友人と別れ、ひとり京浜東北線を南下して帰途につく。最寄り駅を降りても今日起こった出来事を思い出にしたくないという気持ちから家に帰る気が起こらず、そのままサイゼリヤに入って軽食にたまねぎのズッパを食べつつポメラのキーボードを叩き始める。普段は1ツイートくらいに納めていた感想が文章になってどんどんとあふれ出てくる。結局閉店の23時近くまで書き連ね店から家まで歩く。スマホから流れてきた「チェ・ジバラ」がいつもに比べて特別な感じに聞こえるようになった。

試合後に書いてもらったお言葉。
そっくりあなたにお返しします。

明日は月曜日。頑張らないとな。

(余談)
この2日後、次の防衛戦が5月14日千葉大会に決まった。前日に静岡にライブを見に行く予定である。友人から見に行くことを誘われた。さあどうしようか。

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