![福岡昼](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13151630/rectangle_large_type_2_d235b4299c3981e583dcb71e132a6eac.jpeg?width=1200)
1-5 かけがえのない時間
![風景 (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037698/picture_pc_8f67a90993f9678b33155d107b179837.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1664547450836-VMTSZpUVm4.jpg)
次の日も朝からいい天気だった。
福岡市ってところは夏場はぜんぜん雨が降らないんだよな。
ベッドから起きるとひどい筋肉痛で身体が痛かった。
昨日のおかしなオッサンとの戦いは、相当骨身にこたえたらしい。
ナミは大丈夫なのだろうか。
ジーンズとシャツに着替えて部屋から出た。
朝の台所からはいい匂いがしてくる。
母さんのはしゃいだ声と、シンジローの「ヒャッホーイ」というアホな叫び声も聞こえる。
どうやらみんなもう起きてるらしいな。
![風景 (28)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037720/picture_pc_033aae7cf8cf51439baa0ab8ce8c7112.jpg?width=1200)
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037732/picture_pc_ea00ceb8bd8d62983ea54db70304baa4.png)
「っはよーっ……」
エプロンをつけたナミがくるっと振り返った。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922462/picture_pc_6f3719c6d5f280be7a7dca10f6cf9320.jpg)
振り返る直前までサワヤカな笑顔で、俺は初めて見るその愛らしい表情に、ドキュン! とさせられた。
が、それも一瞬。
その眼差しは、あっという間に氷点下まで急降下して……
![メインキャラ (12)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922473/picture_pc_a7847ae052f9369afa9e99e7ea039697.jpg)
「……………………」
![メインキャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037748/picture_pc_4d59b9385eca1982d5a1943cba6eff28.jpg)
「あ。お、おはよ。ちゃんとよく眠れたか?」
「まあね」
なんなんだ、この変わりようは……。
![母](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922521/picture_pc_f8307689c2e6f6c57d54d5238ec753d3.png)
「あ。ナミちゃん、お皿取ってくれる?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664547512555-CF61VOGiRV.jpg)
「はあい。これですか? おばさま」
コロッと愛想よくなったナミが、猫なで声を出す。
「ありがとねー」
母さんは手早く目玉焼きとソーセージを皿に盛る。
な、なんだよこの猫かぶりは……
そして、俺にだけ向けられるキツい視線は!?
![](https://assets.st-note.com/img/1664547557641-ruKEooaN5b.jpg)
「弟。テーブルの上、片付けて」
両手に皿を持ったナミがシンジローに命じた。
![キャラ (13)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922564/picture_pc_c0e1fca99b32946dc3e38eb14db0aab8.png)
「いえっさ」
シンジローは軽妙に答えて、猛スピードでテーブルを片付ける。
オトウト、とあまりにもぞんざいな呼び方だが、俺に対する態度よりは柔らかい気がするぜ……。
とにもかくにも、俺たちはテーブルに着いた。
母さんとナミのお手製朝食を前に、お手て合わせて、
「「「「いただきまーす」」」」
親父が出ていって以来、ずっとひとつ空いていた椅子が、四人満席になるのは久しぶりで、俺はなんとなく嬉しくなった。
母さんは言うに及ばず、寂しがり屋のシンジローも嬉しそうだ。
そして、ナミも。
さっき一瞬だけ見た、素直で可愛らしい笑顔ほどではないにしても、その表情はほんのり柔らかだった。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13151832/picture_pc_671036cf08b752aa8013f55291c5f3b8.jpg?width=1200)
家族みんなの席で、『悪意』やら『アリバ』やらを聞き出すわけにもいかない。
飯の片付けが終わるのを待ち、俺はナミを外に連れ出した。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547639280-26sDMS6KDl.jpg)
「母さん。ナミとちょっと出かけてくるよ」
そう言って玄関で靴を履く俺の肩を、いつのまにか背後に来ていた母さんが、ヒジでつついた。
「……なに?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664547655400-JbSSDz3BSA.png)
「あんた、うまくやりなさいよー。まだトモダチなんでしょうけど、私から見て、ナミちゃんそうとう脈アリ、よ?」
ニヤニヤしながら小声でささやく母さん
いや、そんなこと言われても……。
だいたい、脈ありって、どこがだよ……。
考えてみれば、とてつもなく可愛い女の子と知り合ったってのに、ちっとも気分が盛り上がらない。
それよりも、同時進行している異常事態のほうに気がいってしまうのだ。
……もったいねーよな……夏だってのに。
家を出るとき覗いたポストに、俺宛のダイレクトメールが入っていた。
『あなたの人生を"セーブ"しませんか? 一寸先は闇。転ばぬ先の杖で、余裕ある人生を』――セーブカンパニー
謎のコピーが記してある。
なになに……
福岡市の全住人の中から、たったひとり、俺がモニターとして選ばれた?
セーブってのは、あれだよな? ゲームでお馴染みの……。
それが現実でできるならすごいが、はっきり言ってうさんくさいぜ……。
でも案内を見ると、申し込み期限は今日の正午までだった。
半信半疑だが、俺はそのセーブカンパニーとやらに行ってみることにした。
シンジローも犬のようについてきそうだったが、大学生にもなって、兄弟べったりで行動できるかってんだ。
こいつも、もう高校二年生なんだから、ちったあ自立させねえとな。
セーブカンパニーは、西鉄『高宮駅』の前の高宮通りにあるという。
ウチからそう遠くないな。
俺たちは、夏の日差しがあふれる高宮通りを歩き、『セーブカンパニー』へ向かった。
![風景 (22)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037803/picture_pc_6fdfcd14fb0b4c4445d83966de60d9fe.jpg?width=1200)
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037822/picture_pc_b35d88fb0e34d745f06eb68f0b8402ed.png)
「ここがセーブカンパニーかよ……?」
見た目はケータイショップにしか見えねーが……。
「とにかく入ってみるか」
何しろ、俺は、福岡市でただひとり選ばれたモニター様らしいからな。
でも、考えてみりゃ、そういうの、詐欺の常とう文句じゃないか?
ふと、ガラス越しに、カウンターに座った店員の女性の姿が見えた。
どれもタレントや芸能人レベルに美人揃い?
な、なんだ、ここは!? 天国かっ。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547736493-ThCwGxz10M.jpg)
「……ナミ。この書類によると、どうも、ここに入る資格があるのは、当選したモニター本人だけらしい」
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41037872/picture_pc_7741a8e1627734d90a6a65471fd4ac4e.jpg)
「え。そうなの?」
「わりいが、ちょっと待っててくれるか?」
「う、うん。まあ仕方ないか。暑いけど」
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13158424/picture_pc_1b9804174d3bd5a0b0fdf5f3ffa27f5d.jpg?width=1200)
恨めしそうに太陽を見上げるナミ。
まだ午前中だが、日差しは強烈で、すでに猛暑だ。今日も余裕で三十度越えるだろう。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547776028-mUTnrmcf3b.jpg)
「できるだけ早く済ませてくるぜ……無事を祈っていてくれ……!」
言い残して、俺はセーブカンパニーの自動ドアへ突入した!
ナミにはちょっと申し訳ないけど、美人とお話するのなら、女連れより男ひとりのほうがいいに決まってる。
ケイから受けた失恋の傷も癒えてない今、俺に必要なのは、謎のツンケン美少女の冷たい視線じゃねえ……
当たり前の美人のお姉さんからの、優しい応対なのだからっ。
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