![夜背景](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13151307/rectangle_large_type_2_e6f6fe03ddbaadfa0f7044651dbd32c0.jpeg?width=1200)
1-4 カタギリ家の夜
![](https://assets.st-note.com/img/1664546634326-mLvmY52rzF.jpg)
鴻ノ巣山から俺の家までは、そう遠くない。
しかし、気絶した女の子を背負ったこの状況……。
オマワリさんに見られたらパツイチでピーポーだぜ……。
誰にも会いませんように……。
スラッとしてるのに妙に重いな、ナミ。
柔らかくて気持ちいいけど。
そんなことを考えながら、夜の住宅地を小走りに、家へと向かった。
俺の家は、緑豊かな高台の住宅地にある。
一階は駐車場になっていて、二階と三階が自宅部分になっている。
言い忘れていたが、『片桐ハヤト』ってのが俺のフルネームだ。
俺はここで、母親と、アホな弟と三人で暮らしている。
父親は……居るには居るが、母親と大喧嘩して出て行った。
今頃どこかでくたばってるかもな。まあ俺はそれで全然構わないけど。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035520/picture_pc_f431403045f28be07f11c0a1a1e223d3.png)
「ただいまー……」
ダダダダ!
![pシンジロー](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035575/picture_pc_033211288719cc8bfbc69e8cb036e89e.jpg)
「兄貴、おかえりー!!」
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13234820/picture_pc_6b59867107edb0fde0ca2c1ca5e4afc9.jpg?width=1200)
いきなり現れたのは、ツンツン髪に、丸い目ん玉、ニキビ面の男。
見つからないようにコッソリ入ったのに、コイツはいつも目ざとく気づきやがる。
『兄貴』といま言った通り、コイツは……
![キャラ (13)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922109/picture_pc_301a61c788fc9393c50956c61e2f1a64.png)
「……げえ! ついにやりやがったか!」
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922119/picture_pc_6a594d24de6c29d721dbad63abe8c926.png)
「あん? なにをだよ」
「つぎからつぎに女連れこむだけじゃ飽きたらず、ついにラチしてくるとはー!」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546689361-MiH5MurzLV.jpg)
「……ふうん。ボク、ラチされてきたわけか」
俺の肩のあたりで冷たい声が響いた。
「ナ、ナミ! 起きてたのか…!?」
「次から次に、ねえ」
耳元でささやく声は完全に冷え切っている。
いつのまにか目を覚ましていたナミを、俺は背中からそっと降ろした。
柔らかくて気持ちいい反面、ナミは不思議なほど重く、実は腕も腰も限界近かった。
そのナミは、腕を組み、汚物でも見るような目で、俺たち兄弟を見ている。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546712041-irsvAP1jK1.jpg)
「あのなあ、このアホの言うこと、真に受けるな」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546727475-PWX6EAjJbc.jpg)
「あ、お、おれ…なんかマズイこと言った……?」
ニキビ面の男は怯えた顔。
黙っていれば年上の女にモテそうな、元気のいい顔の造りをしているのだが、浮かべる表情はどうにもヒクツだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546745879-rQGEwT2m5v.jpg)
「……別にどうでもいいけど。ところで、誰、これ?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546759578-PQ6uQuN9iA.jpg)
「は、はじめまして!」
ニキビ面の男は、鬼教官の前の新兵のように直立して気をつけする。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546767419-EsfaqjL8CP.jpg)
「こいつは『シンジロー』。俺のあとに作られた、母さんの失敗作だ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546775363-SdIrdsceH0.jpg)
「ええと、それって、つまり……弟?」
「まあ、そういう表現もあるな」
「ふうん……。どうでもいいけど。興味ないし」
「それに関しては俺も同意見だ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546791940-bp7zS9us9V.jpg)
「こ、今度の女の人はずいぶん怖い人っすねー」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546807091-WtNqlfIdwM.jpg)
「前回の女の人より怖くてゴメンねー(ギロリ)」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546848701-Lzrcjno66O.jpg)
「ヒッ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546854753-YyKpD45oXb.jpg)
「……シンジロー。少し黙ってろ……」頼むから。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546837442-geMPn0Wdf7.jpg)
「で。気絶したボクをラチってきて、むさ苦しい兄弟ふたりでどうする気?」
冷たい目のナミは、スッと重心を移動させ、戦闘態勢をとった。
格闘技経験者の俺にはそれがわかったぜ……
にしても、なんなんだこの子は。なんでこんなに好戦的なんだ……。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546901144-I3jtaxtEdM.jpg)
「ラチってねえよ。それにふたりじゃなくて……」
と言いかけたところで、奥から母さん……つまり俺とシンジローの母親が出てきた。
![母](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922149/picture_pc_755899a23ed2df79fdf17b5744a0d482.png)
「おかえりー。玄関でなに騒いでんのー? ……って、あらあら、お客さん?」
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34922202/picture_pc_36e53e79df438507e0e6480c3d5a3929.jpg)
「こんばんはぁ。お邪魔してますぅ」
コロッと上品な声になったナミが、小首を傾げて可愛らしく挨拶する。
な、なんだよ、この豹変ぶりはっ。
「なあに、ちょっとおー。可愛い子ねえ! あなた、ハヤトの……?」
「トモダチです」
真顔で即答するナミ。いつからだよ。……まあ、さらわれてきたとか大騒ぎされるよりはいいけどよ……。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035671/picture_pc_aaefa9bb7b524ffbc1e1ec52560f4160.png)
「ねえ、母さん。この子……ナミって言うんだけど、体調悪いのに家が遠くてさ。泊めてやって良いかな?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664546959977-XoJ5CdYlSs.jpg)
「え!? いや……ボクは……」
ナミが驚いた顔で俺を見るが無視だ。
![](https://assets.st-note.com/img/1664546993378-On2ReuXm87.png)
「もっち! 良いわよお!」
飛び跳ねるように喜ぶ母さん。
俺の母さんって、愛想が良すぎるというか、とにかく人が好きなところがある。来客は基本的にウェルカムなのだ。
だからか、俺の家は友達のたまり場になる事が多く、下手したら最大で『11人』くらい集まる。
「好きなだけ居ていいわよお。こんなに可愛い女の子とおしゃべり出来るなんて、母さん嬉しいわあ」
戸惑うナミの両手を引っ張り、ぐいぐいリビングに連れていく。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547027647-W7Hh6TKrcg.jpg)
「で、でも……」
![](https://assets.st-note.com/img/1664547039690-axtZjf9Ok0.jpg)
「ひと晩だけだ。とりあえずそれからはまた明日考えようぜ?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664547051236-mGw8pOmwwC.jpg)
「うっひょおおおおお。で? で? 三人で何して遊ぶんだ? 大富豪? UNO? スマブラ? くにおくんの大運動会?」
来客でテンションが上ったシンジローが、俺たちがいつも遊んでいる古くさいパーティゲームの名前を連呼した。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547075479-NxNHIk2XLU.jpg)
「ねえ。弟が何か暗号言ってるんだけど、解読出来ない」
![](https://assets.st-note.com/img/1664547085099-fZOdIxFF7Q.jpg)
「はいはい。任せとけ。ようし。シンジロー。風呂で潜水ごっこをしよう。二十分ほど潜ったまま待機して指示ヲマテ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664547095099-B57AJY0kDO.jpg)
「なっ。それ死ぬし! いきなり死刑宣告!? マジで俺、なにかした!?」
シンジローはショボンとしながら自分の部屋へと消えていった。
ちょっと可哀想だが、アイツが居ると何かと面倒だし、何を言い出すか危なっかしくてしょうがないからな……
主に女方面のネタで。(それで何度トラブルになったか)
それから母さんは、俺たちに晩飯を用意してくれた。俺の好きなハンバーグだった。
食事の間、母さんは、興味津々にナミの事を聞いてきた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547281547-D7AfdbKuyY.jpg)
「……………………」
そのたびに、黙ってうつむくナミをフォローし、俺は、あることないことテキトーにしゃべった。
結局、「海外からの留学生で、ホームステイ先がトラブル。行くところがなくなったところを、俺が助けてあげて……」
……という話になってしまった。
母さんにウソをつくのは気が引けたが……仕方ないよな……。
俺だってナミの事は何も知らない。
まさか、鴻巣山で気を失って、目を覚ましたら膝枕してくれていた、謎の美少女……だなんてホントのこと言うわけにもイカン。
食事のあと、風呂から上がったナミは、母さんのパジャマに着替えると、客用の部屋に敷いた布団で、あっという間に寝てしまった。
![風景 (41)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41035822/picture_pc_2ad1294a3dd99e18a8167138fa2540de.jpg?width=1200)
深夜。
俺は、そっと自分の部屋を出て、「立ち入り絶対禁止」と母さん直筆の張り紙が張られたドアに近付き、中を覗き込んでみた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547160916-klC6oaVVWm.jpg)
暗い部屋の中から、ナミの静かな寝息が聞こえてくる。
寝息までなんだか可愛らしく、普通の女の子とは違う気がした。
世には、こんな特別な女の子も居るんだな、と感心しちまう。
ナミ……おまえは何者なんだよ………。
一体、何が始まろうとしてるんだ………。
俺も自分の部屋に行き、ベッドに寝転がった。
![](https://assets.st-note.com/img/1664547250562-tSgqvsgIuJ.jpg)
暗い天井を見つめる。
悪意。
人の心に棲まう闇。
俺は、その言葉がひどく気になっていた。
そして、『アリバ』という不思議な響きも……。
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