3-5 疾風努闘のクリハラ
兄貴の喝で、アリバという不思議なチカラに目覚めたおれ。
兄貴から仰せつかった重大なミッションは、親友でもある悪意のボス格・シモカワを目覚めさせること。
だけど、その前にもひとり、おれには会わなければならない相手が居た。
その男の名は『クリハラ』
おれの幼馴染であり、自分のことを天才と言ってはばからないライバル的存在だ。
もっとも、本人は天才型というより、コツコツ頑張るまったくの努力型で、兄貴と同じ厳冬流格闘術の門下生でもある。
クリハラもひょっとしたらアリバに目覚めているかも……。
そうじゃなかったとしても、おれはきっとあいつが、悪意相手に孤軍奮闘している気がしてならなかった。
「ヨシオ! ちょいと寄り道するぞっ」
「特進クラスですな?」
俺たちは新校舎の四階にある特進クラスへと急いだ。
格闘技だけじゃなく勉強も必死で頑張るクリハラは、仲間内でただひとり、特別進級クラスへ進んだ。
本人は「勉強なんかしたこともないぜえええ」とか言ってるけど、血ヘド吐くくらい勉強してるのは公然の秘密だ。
おれたちが特進クラスに着くと、予想通りクリハラがたったひとりで戦い続けていた!
でもアリバには目覚めておらず、さすがの格闘技経験者も苦戦を強いられている!
「ハア……ハア……ハア……なんて強さだ! この天才の攻撃が通用しない!」
兄貴の話だと、クリハラはフィジカルの強さと、ひたすら努力して身に着けた基本の型には、光るモノがあるということだったけど……。
「ま、負けられませんねえ……!」
クリハラのジャブ! しかし、ダメージは与えていない!
「……なんでだよ……あんなに鍛えて、あんなに繰り返して、あんなに練習して、あんなに努力したのに……なんで通用しないんだよ……」
クリハラの気力は折れる寸前だ。おれは思わず叫んだ!
「クリハラ! あきらめるな! あきらめたらそこで負けだぞ!」
「し、シンジロー……!? おまえも無事だったのかっ!?」
「待ってろ! いま助けてやる!」
俺は、ナミさんに習った通り、必殺技をイメージした!
『弟は不器用そうだから、心に思い描くより、思いきりワザの名前叫んだほうがいいよ』
その教えの通り叫ぶ! おれのレベル2必殺技【熱血】!
攻撃力を上げる代わりに防御力が下がるらしいけど、今は気合で押しきる!
「レぇベぇルぅ2ぃ必ぃ殺ぅ技ぁ! ねえっけつうううううううぅぅぅ!!」
ボカーン! 目の奥で爆発のような赤い光が弾けた! 全身に熱いエネルギーが満ちた! これが熱血かーーーっ。
続いて、兄貴の【必殺パンチ】のオマージュ。おれのレベル1必殺技【熱血パンチ】だ!
「熱血パーーーーンチッ!! おりゃああああああ!」
不安定ながらも荒々しい右ストレート!
クリハラの攻撃をいくら食らっても平然としていた悪意の男子学生が、簡単にぶっ飛んで大人しくなった。
「クリハラ! 大丈夫か!?」
だが、クリハラは、自分が勝てなかった相手をおれが簡単に倒してしまったことに激しくショックを受けている。助けたことすら、クリハラのプライドをズタズタにしたらしい。
「う、うそだ……シンジローがこの天才より強いなんて……毎日20キロ走って、腕立て伏せ200回腹筋200回スクワット300回やって、二時間のシャドーボクシングも欠かさないで……なのに……なのにいいいいい」
でも、そんな絶望的な顔をするクリハラの中に、おれは自分と同じチカラを感じていた。アリバだ! ここは心を鬼にしてクリハラを追い詰め、目覚めさせよう!
「まいったなー。クリハラ。おれ、こんなに強くなっちまったぞ?」
「む、ムホ?」
「おまえとは色々なことで張り合ってるけど、格闘技はおまえのほうが上だった。でも、おれのほうが強くなってしまったなー」
「……き、聞き捨てならん言葉が聞こえたが?」
「おまえがいくら頑張っても勝てなかった相手を、おれは一発でKO! それがなによりの証拠だろ!?」
「……こ、この格闘技の天才が、ハヤトさんならともかく、シンジローに負けるだと……ば、バカなっ……」
「へっ! 現実見ろよ! 自称天才さんよお! 」
クリハラはついに涙ぐんでしまった。
「ぐ、ぐ、ぐ、ぐや゛じい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!」
もう一押しだ。兄貴の真似になるけど、おれ自身が喝を入れられた方法を使おう。
「クリハラ! おれが強くなったのは、努力でも才能でもないっ。アリバだ!」
「ありば?」
「おうよ! おまえがいくら努力したって、アリバに目覚めたおれの足元にも及ばないんだよ!」
「む、ムホ……ムホホ……そんな……」
「……けど、もしおまえもアリバに目覚めたら、どうだろうな? 元々、おまえのほうが格闘技は強かったんだから……」
「こ、こっちのほうが強くなる! この天才がそのアリバってチカラに目覚めれば……もはや無敵と言ってもさしつかえないぞ!」
「おまえも目覚められるかもな! おれだって目覚めたのはついさっきだからな!」
「ど、どうすればいい!? この天才に教えてくれ! 練習ならいくらでもするぞ!?」
「なあに。簡単なことよ」
そう言って……問答無用の熱血パンチ! ばきいっ!
「ウェロップシャアアアアア!!!」
ガタイのいいクリハラが、へんな叫びを上げながら壁まで飛んでいった。さすがアリバのチカラはすげえぜ。
「ち、ち、ちくしょおおおお!!! よくもやったなあああああ!!!」
クリハラが起き上がり、緑色のオーラをまといながら突っ込んでくる!
ゴガッ!
その一撃でおれは同じように壁まで飛んでいった!
「こ、このチカラは!」
「痛てててて……それよ! それがアリバよ! やっぱりおまえも持ってたな!」
「これがアリバか! いいですねえ。実にいいですねえ! 天才にも磨きがかかるってもんだなっ」
「へっ。言ってろ! 言っておくけど、兄貴のアリバはおれなんかよりもっともっと強いぞ!?」
「ハヤトさんが? 無敗の白帯が、さらに強くなったというのかっ?」
「オウヨッ。兄貴はアリバの戦士として、この福岡市を悪意という敵の手から守るために戦っているんだ。おれとヨシオも、メンバーに入れてもらった! おまえはどうする?」
「お、おまえがやるなら、この天才もやるぞ! ハヤトさんにも勝ちたいし、なによりこのアリバをもっと実戦で使ってみたい!」
「よっしゃ、その意気よお!」
おれたちはガッと腕を組んだ。
「おまえら……クサすぎ、まわりくどすぎ、そして恥ずかしすぎですな……」
こうして、新たにクリハラを加えたおれとヨシオは、シモカワの居る放送室へと急いだ!
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