![森家ファイト__ver1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13190592/rectangle_large_type_2_2b26410a518b9d9bea08f35780143195.jpeg?width=1200)
1-9 偽りのアリバの目覚め
![画像11](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34925430/picture_pc_8532dc4d6bc3a74e6c882eeac9bbeda0.jpg?width=1200)
俺たちはまず、食品売り場コーナーをまわってみた。
このあたりはどこのスーパーも変わらない。かごを下げたおばさんたちが、ゆうげの買い物を楽しんでいる。
騒ぎはまだ全体へは広がりきっていないようだ。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34925475/picture_pc_c6f7226f2c86d375874af20ce3467471.jpg)
「ハヤト。あれ」
ナミが指さしたほうには、見慣れない栄養ドリンクの試供品が並べられていた。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039035/picture_pc_9e15f599c165e1e37ef63ecbe945b9f6.png)
「ココロにツバサを。アシタにユメを。『レッツ・プル』……?」
へんなコピーが書いてある。新発売のエナジードリンクらしい。
「ちょうどいい。もらっておこう。これ、きっと役に立つよ」
全部で五本あった。
試供品を独り占めするのは気が引けるが、非常事態だ。仕方ないだろう。
マユの姿はない。
ナミの話によると、ナミには悪意を発見するレーダーのようなものが備わっているが、超強力な悪意であるマユは、自分の気配を消すことができるらしい。
あれ以来、マユの『脳内放送』もない。
俺たちはさらにアピロスの中を捜索する……。
![bk_1_18_野間アピロス紳士服](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039071/picture_pc_64c1c838af5c5ace1a01dceb91e3cfc9.png)
![bk_1_21_野間アピロスおもちゃ売り場](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039080/picture_pc_b5c507f49f8f730815e1b5588a8cded4.png)
![bk_1_14_野間アピロス2階中央](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039099/picture_pc_407584d1a6c0fa7a2139f0edd7050208.png)
アピロスは、専門店街とスーパーとの二ブロックに分かれている。
一階には出入口がいくつかあったが、そのすべてが防火シャッターで閉鎖されていた。
上は四階まで。最上階には『屋上遊園地』なんてもんがあって、大きくはないものの観覧車まである。
騒ぎは、下から少しずつ少しずつ上階へと伝播していっている感じだ。
大勢のひとが、不安げにうろうろし、小走りに駆けていく。
紳士服売り場に行ったとき、突然、マネキンが動き出した。
![pハヤト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039136/picture_pc_9cca98e6b081eed134cd0822cf4ad8b6.jpg)
「ナミ、危ねえ!」
マネキンが繰り出した腕から、とっさにナミの身体をかばう。
![pナミ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039142/picture_pc_fb23c69df31de6ceaefbf9e896a4f5d0.jpg)
「ちょ、ちょっと! どこ触って……!」
「ナミ……。悪意って物にも憑依すんのか……?」
「いや! これは……マユが操ってるんだよ!」
「やれやれ、かくれんぼの次は鬼ごっこか! ぶっ壊してやるぜ!」
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13161156/picture_pc_234e500d23b5057284846dc1d8887420.jpg?width=1200)
緩慢に動くマネキンに拳を叩き込む。
人間相手じゃないから、遠慮はいらねえ……!
さらに、ローキック。ミドルキックをお見舞いする。
マネキンは腰のあたりからへし折れて、動かなくなった。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549704506-Q9g9xO3qc3.jpg)
「なんだ。意外に手応えねえな」
(クスクスクス……)
突然、マユの笑い声が脳内に響いた。いきなりやられると、心臓に悪いぜ……。
![e_23_boss_23_リン (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039177/picture_pc_267ff29b8e0b2fe68398af4be47fb763.jpg)
(こんどはもっとくふうしなくっちゃ。がんばってね。お兄ちゃん)
![pハヤト (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039184/picture_pc_257eef0e1586fe1ea49c485039ffffa7.jpg)
「くそ。遊んでやがるな」
その後も、時々動き出すマネキンをぶっ壊しながら俺たちは進んだ。
『遊び』と称するマユがいかにも居そうな、ゲーセンや本屋、おもちゃ売り場なんかを調べるが、見つからない。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13235463/picture_pc_445cc0f8fb8b1c493f5baae6c28110dc.jpg?width=1200)
四階までをひと通り調べたあと、俺たちは一階へ戻った。
今や、アピロスは大混乱だった。
店内放送で、防災シャッターが制御不能になったことが告げられた途端、パニックが発生した。
『慌てないで落ち着いて行動してください』なんて言われたって、そりゃ無理だろ……。
客たちは我先にと一階へ殺到していた。出口は一階だけだから無理もない。
でも、上階に行くほどひと気がなくなって、捜索はしやすかった。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13190610/picture_pc_edf34a0df2d0637e9d67106bb8cdda9a.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1664549722230-uHdWsoBZ7I.jpg)
「あとは。屋上遊園地だな」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549732458-yV7kThJOJP.jpg)
「遊園地?」
「ああ。アピロスの屋上は遊園地になってるんだ。考えてみりゃ、そこが一番クサいよな」
「行こうよ」
しかし、エスカレータも階段も混乱した大勢の客で埋まってしまっていて、まるで身動きはとれなさそうだ。
「まいったな……上に行けねえ」
「他にルートはないの?」
「そうだ。エレベータを使おう」
エレベータも混雑していたが、幸い、立ち入り禁止のフロアにある従業員専用のやつは、誰も使っていなかった。
関係者以外立ち入り禁止のドアからズカズカ進む。
ナミは別に止めたりもしなかった。
ここで変に「勝手に入っちゃダメだよ!」とか言うような生真面目なタイプじゃなくてよかったぜ……。
ボタンを押す。
チン。
しばらくしてエレベーターが到着した。
ナミが乗り込み、自分も乗り込もうとした瞬間、(クスクス)とマユの不気味な笑い声が耳に響いた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549750804-3eclWafdwN.jpg)
「!? 待て!」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549757733-lBRWJojZQw.jpg)
「え」
ナミを抱きしめ、エレベータの外にジャンプした。
ブッという不気味な音がして、ワイヤーの切れたエレベーターは闇に吸い込まれるように、アッサリ落ちていった。
少し間を置き、すさまじい音と衝撃。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549771543-Fkg7a4Tnrk.jpg)
(あっれー。ざんねーん。もうちょっとだったのにー)
![](https://assets.st-note.com/img/1664549787528-ESPHFo1yWH.jpg)
「……………………!!」
床に倒れ、ナミと抱き合ったままの俺の脳裏に、無邪気なマユの声が響いた。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34925223/picture_pc_4c3fd83f189d12d7547b93af98565762.png)
「………………冗談じゃねえ……」
![メインキャラ (12)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34925236/picture_pc_79d93e6da0ecfec243c7693fd093dfbb.jpg)
「……ハヤト……?」
俺の腕の中でナミが顔を上げる。前髪がハラリと顔にかかっている。
「……乗ってたら……たぶん死んでた。……イタズラの域を、越えてやがる……」
ナミを離し、立ち上がって俺は天井をにらんだ。
あたかも、そこにマユが居るかのように!
![](https://assets.st-note.com/img/1664549803379-zGMvNPbmeq.jpg)
「もう……お尻ペンペンじゃあ、すまねえぜ! マユ!」
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13161167/picture_pc_a2e71561593384713253d015ed8d5a7a.jpg?width=1200)
![キャラ (10)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039264/picture_pc_a9b76652acfde1e9e792092710c5fd49.png)
(おこったの? こ、こわくなんかないよ!)
戸惑ったマユの声が響く。
今や、俺にもはっきりと感じる。マユは上だ! 屋上だ!
がしゃがしゃん!
突然、通路の防火シャッターが落ちてきた。
(お兄ちゃんはもうそこから出してあげない!)
がしゃがしゃん!
俺の前後が重たいシャッターで閉じられる!
![pハヤト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039285/picture_pc_c23a3fe649a1b46223a56011cf380f59.jpg)
「どけ!」
拳を放った。
ばがんっ。シャッターがぶっ飛んだ。
![pナミ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039296/picture_pc_0317f27184df2f6f77e197bcc765dc64.jpg)
「え……!?」
俺の目の前に、次々と防火シャッターが降りてくる。
「邪魔だ!」
俺はそのシャッターをぶん殴って破壊する。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13161190/picture_pc_b308eda5dbad675ddf038c8feadb9773.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1664549839362-8E1Hj38zly.jpg)
「……うそ……」
ナミが何か言ってるが、俺の耳には入らない。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549850667-BLsRZiLJ0q.jpg)
「……許せねえ」
身体の中に、マグマのように熱い何かが漲っていた。
拳が、全身が、熱い。
「……マユは本当に優しい子なんだ」
「……………………」
「なのに、マユに、誰かを殺させようとしやがった。こんなことさせて、一番傷つくのはマユなんだ!」
「…………ハヤト……」
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039323/picture_pc_80d80f3e07f1e7740c9623c08a125f67.png)
「これが悪意のせいだっていうんなら、俺は悪意を許さねえ……!」
唖然とした顔のナミを横目でうながし、非常階段へと走る。
「マユのところへ行くぞ!」
螺旋状の階段を駆け上がっていると、逃げ遅れたらしい客の青年と、大柄な中年のガードマンが、いきなり立ちふさがった。
様子がおかしい。目が赤い。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34925167/picture_pc_dfadcc3b12a175bcac606d848c6fe3d6.jpg)
「フシャルルルルルルルウウウウ」
ドス黒い吐息。悪意か!
そのままの勢いで、ガードマンを殴りつけた。
信じられないほど身体が軽い。頭の中でイメージした通りに身体が動く!
俺のパンチで、悪意ガードマンは簡単にぶっ飛んでいった。
![メインキャラ (12)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039354/picture_pc_d3d7ba2471ac534f44db830558948756.jpg)
「やっぱりだ! ハヤトに……」
はあはあ言いながら追いついてきたナミが何かつぶやいた。
客の男がわけのわからない喚き声をあげて襲い掛かってくる。
ガツン!
まともにパンチを食らったが、たいしたダメージは受けていない。
反撃のパンチを放つと、客は、マンガみたいにぶっ飛び、壁に激突して動かなくなった。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549892428-90PWtSpjoI.jpg)
「……アリバだ! アリバが宿ってる!」
![e_23_boss_23_リン (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039367/picture_pc_8617691fdba08f285342dedab4c7e05f.jpg)
(へえ。すごいチカラだね)
せせら笑うようなマユの声。
(でも、そんなのじゃ、マユはたおせないもん)
![](https://assets.st-note.com/img/1664549929370-RhPCdibqy4.jpg)
「倒す? ……お兄ちゃんはマユを倒すんじゃねえ」
(……じゃあどうするの?)
「救うんだ!」
(…………)
![](https://assets.st-note.com/img/1664549942550-XbFYYjgdWU.jpg)
「俺はお前を絶対に助ける! 待ってろよ、マユ!」
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13235457/picture_pc_1cdfb2e4c2fdd8b301192dc50e7368f8.jpg?width=1200)
![キャラ (10)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34925275/picture_pc_d2d1096a0242a6140d7149b4ae875efe.png)
(…………まってる)
ぷつん。脳内放送は切られた。
たぶん、これが最後の脳内放送だと直感した。
「行くぞ! ナミ!」
屋上へ。
マユの待つ、屋上遊園地へ!
![pハヤト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41039414/picture_pc_d36f2bfce5339b29f6039f454707699f.jpg)
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