心理学についての考察

何度も書いていることだけれど、わたしは、わたしの書いたものに対して、「そうだ、その通りだ!」とうなずいてくれる人に向けて、書いている。多くの人に読んでもらいたいとは思っていない。しかし、多くの人に読んでもらえたら、それはそれで嬉しいことも事実である。

この「多くの人に読んでもらいたい」という気持ち、まあ、わたしはそれほどは持っていないのだけれど、こういう気持ちのことを、承認欲求(=自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求)と言うらしい。結構この言葉使われているようである。今こころみに、note内で、「承認欲求」で検索をかけてみたら、3,000件近くヒットした。人気のワードらしい。

さて、もしも、わたしが多くの人に読んでもらいたいという気持ちがあったとして、その気持ちを指して、「それは承認欲求だね」なんて言う人がいたとしたら、わたしはその人を深く軽蔑することだろう。わたしは、ただ多くの人に読んでもらったら嬉しいと思っただけである。なぜ、それが、「承認欲求」などという言葉に変換されるのか。話は簡単である。そうやってラベリングすることで、他人の気持ちを分かった気になりたいのである。あまり人の心をバカにしたものではない。そんな、心理学上のワードによって、簡単に分かるものではない奥深さが、人の心にはある。

心理学が大流行している。アドラー心理学を下敷きにしたという「嫌われる勇気」という本がベストセラーになった。このnoteとも何か関連があるらしいが、詳しいことは知らない。まあ、ともかくも、わたしも読んだことがある。なかなか面白い本だったが、それは、人の心理を説明するのにそういう風に考える人もいるのかと知って、それが興味深かったということであって、あの本に書かれていることが事実だと思ったわけでは決してない。あれを事実だと思っている人……いますか? いないとは思うけど、念のため、書いておきます。

たとえば、あの本では、「トラウマは、存在しない」と書かれてある。なるほど、それじゃあ、「幼少期に父親に虐待されたことで、成人した今になっても年上の男性が怖い」という女性がいるこの事実をどう考えるのか。それは、その女性が、「男性が怖いままでいる方が今の自分にとって都合がいいから、幼少時に父親に虐待された事実を利用しているのだ」と説明される。いやはや……もしもアドラーという人が本当にこんなことを言っていたとしたら、大した人ではなかろうと思う。

まあ、それはいいけれど、それじゃあ、次の疑問として、その女性はどうして今のままでいることを選んでいるのか、どうして都合がいいのか、ということになるだろう。どうして、人は今のままでいることを選ぶのか。これに関しては、そのままでいることの方が楽だから、という答えが与えられている。ちょっと待ってもらいたい。その女性は現に苦しんでいるのである。苦しんだままでいることが楽とは一体どういうことなのだろうか。本によると、その苦しみ自体を楽しんでいるということになっている。その苦しみを選んでいるのだと。人はライフスタイルをそのつどそのつど選んでいるのだ。変わらないという選択をしているのだと。

待ってほしい。どうしてそのままでいることの方が、変わらない方が楽なのだろうか。いや、変わる方がエネルギーがいることであって、変わらない方がエネルギーがいらないでしょ、なんてことは一応、言おうと思えば言える。しかし、それは、通常の場合だろう。この場合、女性は苦しんでいるわけである。その苦しみから抜け出したい、変われるなら変わりたいと思っている。だとしたら、彼女にとっては、変わる方がエネルギーが少ないとも言えないだろうか。百歩譲って、変わらない方がエネルギーが少ないとする。しかし、そもそも、そのエネルギーというのは、どうやって測るのだろうか。心のエネルギーなんてどうやって測定するのだ。

まあ、それもそれとしよう。さて、そのような状況を変えるためには、勇気が必要とされる。現状を変える勇気が必要だと。アドラーの心理学は勇気の心理学。……アホらしい。人が自分の現在の状況を変えたいとしたら、勇気を持たなくてはならないことは、別に心理学にわざわざ注意されなくても、当然のことである。

心理学に頼って、自分の人生をどうにかしようなんていうのは、まあ、人の人生というのは好き好きだから、勝手にすればいいとは思うけれど、あまり健全ではないと思う。心理学を参考にするのはいい。しかし、「嫌われる勇気」なりなんなりを金科玉条にして、人生を好転させようとするのは、いったい誰の人生を生きているのかということになる。心理学が先にあるのではなく、心が先にあるのである。それをしっかりと認めることが、現実を認めるというそのことなのではないか。現実を誤認すれば、現実を変えることなどできない道理だと思うけれど、いかがでしょうか。

#エッセイ

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