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科捜研法医しか見えない人のための研究室の選び方

一般に、研究室の選び方は重要です。

とはいえ、科捜研の採用は研究室の名前で選ばれるわけではありませんし、科捜研で必要な内容を研究室でやってなきゃいけないわけでもありません。

と、ここまでを前提としてもなお、科捜研法医を目指すにあたって1ミリでも近い分野の研究室を、と希望する人がいます。

先に書いた「科捜研化学しか見えない人のための研究室の選び方」の法医版です。

ここでは「科捜研法医でやるような内容を先取りしたり、業務に自然に入っていけるような研究内容や研究室の選び方」を考えてみたいと思います。

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はじめに

科捜研法医の主業務と言えばまずはヒトDNA型鑑定です。
警察のヒトDNA型鑑定は、全国統一して定められた方法で、共通の試薬と分析装置を用いて行われます。

したがって、まず必要なのは正確な実験操作と試薬の取り扱いでしょう。
あとはPCRや配列決定の知識があれば申し分ありません。

とは言っても、これらはバイオ分野の実験系ラボならいくらでもやることになります。

しいて言えば、細かい手技まで指導してくれる助教や先輩がいるかどうかは(見えにくい部分ですが)重要かもしれません。

正しいピペット操作など、あまりに基本的すぎる事項は後になればなるほど指摘されたり指導されたりしなくなりがち。最初のうちに「正しい」「基本の」実験操作をマスターしておくことが理想です。

というわけで、バイオ系の実験系ラボなら基本的な部分はOKということになります。

とすると、あとは+αの部分によって違いがでてくることになります。
ということで、実験操作以外の部分で各分野の特徴を見ていきましょう。

※筆者の専門分野ではないため、荒い部分がありますがご了承ください

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まず先に大きな分類から。

PCRやDNA配列それ自体を目的とする研究

DNA配列や遺伝子そのものをターゲットにする研究です。

例えば、
特定の疾患を持つ人のDNA配列を解析して特徴的なSNPを探索する
特定の配列の出現頻度と地域性の関係
定量PCRを用いたとある細菌の検査法の開発
特定の環境においた植物のmRNAの発現解析
etc...

これらの研究はPCRによるDNA増幅や得られるDNA配列それ自体を目的としたものです。
そのため、行う実験操作はPCRとシーケンシングまでが中心となり、その後は統計解析などドライな部分も多い分野です。
手技としてはPCRとDNAに特化するタイプですね。

PCRをツールとして研究の一部に用いる

こちらはその他の多くのバイオ系の分野が当てはまります。

例えば、
ノックアウトマウスを作成して特定のタンパク質の機能を見るためにPCRでノックアウトを確認
組み換えタンパク質の発現のためにPCRで組み換えDNA導入を確認
他の種由来の配列や変異を導入して機能性の組み換え植物を作成する
etc...

こちらはタンパク質や生体機能の解明などの主な目的が別にあり、そのためのツールとしてDNAのテクニックを用います。
そのため、PCRとシーケンシングまで以外にも広い範囲の実験操作が必要となります。
DNAに特化せず、幅広く生化学などの実験をやりたいならこちらが良いでしょう。

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また、扱う生物の種類でも分類されます。

動物系バイオ

動物そのものや動物の細胞を扱う系です。

血液、精液などを含む生体試料と動物細胞を取り扱うため、ヒトDNA型鑑定業務との距離は一番近いでしょう。

医学系や薬学系のヒトに関連した研究が含まれるため、全体では大きい勢力だと思いますが、ヒト以外の動物の場合は大学や学部によって限られる部分があります。

微生物系バイオ

生物の機能の基礎的な部分に着目する研究であったり、人間にとって有用な微生物であったり、逆に危険な微生物であったり。
こちらも多く研究されていると思います。

細菌など微生物そのものをターゲットとしていることもあれば、酵母に動物や植物のDNAを組み込んで動物や植物のタンパク質を発現させるなど、他の生物の研究をするためのツールとして微生物の研究に取り組む場合もあります。

なお、科警研では生物第五研究室がテロ対策のために細菌やウイルスの検出について研究していますが、都道府県科捜研レベルでは難しそうです。

植物系バイオ

植物や植物の培養細胞を扱う系です。

遺伝子組み換え作物が有名ですが、その他にもタンパクの機能や代謝など生物としての研究も盛んです。
いろいろ研究材料として取り扱いやすい部分もあり、様々な研究が行われています。

なお、科警研では植物DNAは化学第四研究室の担当分野となっており、法医分野の担当ではないので、そこは留意してください。

DNAに関係ない研究室だっていい

ここまでDNAやPCRに関連したところという視点から見てきましたが、科捜研の法医に入るのにはDNAに関係ない研究室でも全く問題ありません。

DNA型鑑定に必要な内容は入ってから研修で教えられます。

むしろ他分野の知識がある人がいるとよい場合も多くあるでしょう。

酵素反応など生化学はもちろん、動物の知識のある獣医や、
骨など生物の解剖学的な側面に詳しい人、
ヒトの細胞を見れる臨床検査技師、
「分子生物学は化学だ」って言う化学の人など、
全然アリです。

共通するポイント

分子生物学と生化学を中心にウェットな実験をある程度経験していれば、分野はさほど問題ではありません。(最悪ウェットな実験の経験がなくても、器用な人ならすぐできるようになります)

ただし、科捜研法医の業務では必然的に血液、唾液、精液などの生体試料を取り扱うので、こういったものが苦手な人は慣れておいたほうがいいかもしれません。


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