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【創作小説1/5】出来の悪い子供は、生きてるだけで罪なのだ。

※この小説はフィクションであり、実際の人物・地名・団体とは一切関係がありません。この作品はこの世に存在する誰かをモデルとしたものではなく、完全なるフィクションです。当作品をご覧になり気分を害された場合でも、当方は一切責任を負いません。閲覧は自己責任でお願いいたします。

※本編は最後まで無料で閲覧できます。あとがきは投げ銭用に有料公開とさせていただきます。


「生まれてこなければ、よかった」

 手の届く範囲にあった、ありとあらゆる創作物を頭にねじ込んで、そこで、ようやくたどり着いた答えが、今の言葉だった。

インターネットの濁流にのまれながら、ほうと嘆息した。ずっと胸につかえていたものがようやく消えてくれた感覚がした。少しは息も吸いやすくなった。それなのに、あいかわらず世界はぼやけたままで、ちっとも美しくなんか見えやしなかった。

部屋の置時計が、17時を告げる。アルバイトの時間まであと1時間だ。色褪せた蒲団の中から、青虫のような姿勢で這い出る。昨夜食べたコンビニ弁当の匂いと、飲みかけの缶チューハイの匂い…私の部屋のでは何時ものことだ。

「……こんなことなら、気づくんじゃ、なかった」

顔を洗いに、風呂場に向かう。お風呂の横に洗面台がある物件なのだ。ちなみに、トイレは別だ。これだけはどれほどのおんぼろアパートに住もうとも譲れない条件だった。風呂場に向かうためのわずかな段差でさえ足を上げるのが億劫だ。よいしょ、と小声でつぶやきながら足を上げる。

蛇口からでる冷たい水を顔に当てると、少しだけ意識が覚醒してきた。ここでも、ああ~だの、うう~だの、うめき声をあげてしまう。きっと自分の中にある感情を閉じ込めた何かから漏れ出ているのだ。しょうがない。逆に考えれば、これまで私がいろんなことを自分の中にため込んできたという証拠だ。褒められるべきだ。…褒められる?いったい、誰から?

「……ッ!」

真っ先に頭の中に浮かんだ顔をかき消すように、盛大に水をかける。勢いあまって服まで濡らしたけれど、そんなことはどうだっていい。脳裏に浮かんだ、両親の笑顔が落胆に書き換わる前に、早く。

「しょうがないじゃん!死ぬ方法なんて、ないんだから!」

こんなことなら、生まれたくなかった。生きたくなかった。顔を覆って蹲る。少なくともこんなはずじゃなかった。

出来の悪い子供は、生きてるだけで罪なのだ。

最寄りの駅から、3つ進んだ先の、裏路地にあるカラオケボックスが私の職場だ。店内はあちこち塗装が剥げていて、なんなら天井に近い壁にはたばこのヤニ汚れがある。裏口なんてものはなく、そっと店の入り口から入る。

「らっしゃせー、何名さ……谷口さんか」

「…どうも、お疲れ様です」

カウンターに出てきたのは、安田さんだった。自分と歳のそう変わらない女の人だ。バイト歴は私より少し長い。今日も明るい茶色の髪をくるくるに巻いて、ラメがちりばめられた顔をしている。

「ねぇ、谷口さん、バイトの山田君やめたらしいですよ」

「はぁ、そうですか」

「ウチほど暇で楽な仕事ないですけどねぇ~あはは」

安田さんの言う通り、この店はそう客足があるわけではない。田舎の小さなカラオケボックスに若い客が珍しいくらいで、もっぱらお年寄りの集まりに利用されるばかりである。

「すぐ着替えてきますので、また、あとで」

「は~い」

安田さんは誰かと話したかっただけだろう。話を切ると、すぐ興味をなくしたようでカウンター脇に置いてあるスマホを見始めた。私は、すぐに通路の先のスタッフルームへと入っていった。



あとがき

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