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ホタテを踏みしめて考える―森美術館「私たちのエコロジー」を歩いて

現代美術を企画展示している、六本木ヒルズの森美術館で「私たちのエコロジー」という展覧会が開催されています。
「環境危機に現代アートはどう向き合うのか?」をテーマにした参加型の展示を歩きながら考え、一人でフィールドワークをしてきました。

森美術館エントランス

ホタテを踏みしめることにどんな意味があるのか?

展示室いっぱいに敷き詰められたホタテの貝殻。自由に歩き回って良い

例えば、《マッスル・メモリー(5トン)》という作品では、北海道から運ばれた5トンのホタテの貝殻が敷き詰められており、私たちはその上を歩きながら鑑賞します。
バリン、バリンと響き渡る、貝殻が割れる音。これまではゴミとして大量廃棄されていた貝殻も、割って粉砕すればリサイクルできることに気付かされる企画です。貝殻を袋に入れてハンマーで叩き割れば自然肥料として使うことができるのです。実際、この展示で参加者が踏んで細かく割れた貝殻は、建材として使われるという説明がありました。

廃材アートが多いのがこの展覧会の特徴
石灰岩と産業廃棄物を組み合わせた《fruiting body》

環境問題・市民運動の歴史を紐解く

環境年表の一コマ

環境問題に関する事故や市民運動の年表も目を引きます。ちょうど私が生まれ育った頃の70年代後半~80年代にかけて、どのような出来事があったのか注目してみました。
この年表で初めて、1979年にアメリカのスリーマイル島で原発事故があったことを知りました。
この事故では、商用原子炉として世界初のメルトダウンが起こり、周辺住民は放射線の被ばくにより甲状腺がんや白血病などの発症の可能性が高まったほか、放射性物質の大気中への放出により、放射性物質が環境中に放出されたことに是非が問われたそうです。
このように、人体や環境に多大な影響を及ぼす核燃料を使う原子力発電の課題がいまだ解決されないまま、世界各国で事故が起こり、まだ代替エネルギーも十分に開発されないまま40年も経ってしまっていることに驚きました。

アーティストならではの、社会への挑戦

「小麦畑–対立」

そんな現実に、アーティストはどのように挑んできたのかというのが今回の展覧会。
アグネス・ディーンズはマンハッタン中心部に広大な麦畑を作りました。ウォール街の反対側に出現した「小麦畑–対立」という作品。マネーゲームに駆り立てられている人に食料生産・なりわいの場に視線を向けてもらう。そしてマンハッタンの水や空気を小麦が育つ環境にするという実験的な取り組みでした。

糸と結び目によるコミュニケーションを再現した《キープ・ギロク》
都内で採れた人工大理石と、青梅市で制作された藍染が利用されている《ファイヤー!!!!!!!》
楽器のような陶器のオブジェ。そっと耳を傾けても、覗き込んでも。
「消滅」をテーマにしたコンセプチュアルな作品の数々
大量生産される真珠の痛みを表現。恨み節が聞こえてくる
ボタニカルアートも多数。身近な草花に目を向けたくなる
装飾のない展示室に組まれた足場。見上げると、木漏れ陽が鑑賞できる

環境問題に、よりクリエイティブなアクションを

会場風景

私たち世代は、建設的に議論したい、よりクリエイティブなアクションをしたい、個人や小さな動きから始めて互いにつながりたいという気持ちが強いものです。
今回の展示を見て、核の問題であったり、公害、大量生産・大量消費など、40年前から解決されていない課題に自分たちなりにアイデアを生みだして自由な発想で取り組んでいきたいと思いました。


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