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半径3kmにあるミャンマー。日本に夢の続きはあるのか?

福祉現場を知る目的で、地域の通所介護(デイサービス)施設の見学に行く機会がありました。
そこで出会ったのが、ミャンマー出身で技能実習生として日本に来ている介護スタッフでした。

思いがけない交流から見えてきた、ミャンマーの「今」に対する気づきを書いてみたいと思います。

地域の高齢者福祉施設(イメージ)

日本で介護スタッフになるまでの道のり

彼女は日本に来てから数年経っているそうで、日本語にも外国人訛りがあまりなく、ホワイトボードに漢字で案内を書くことも、すらすらできていました。
高齢者相手の仕事なので、童謡や昭和歌謡など「昔の日本語」にも精通している必要があるのですが、歌声タイムにも率先して声を出しているのには驚きでした。
日本語の学習歴を聞くと、来日前にミャンマーで1年間勉強してきたのだそう。

外国人が日本で介護の仕事に就くには、日本語能力試験N4以上の日本語力と、介護技能評価試験、介護日本語評価試験というCBT(コンピュータ受験)形式の試験に合格しなければなりません。

試験勉強したの?と聞いたら、大変だったと微笑んでくれました。

デイサービスのプログラムには書道もあります

ミャンマーは今、日本ブーム

新型コロナウイルスによる入国制限が解除された影響もありますが、今はそれ以上に、ミャンマーの若者による日本移住熱が加速していることをニュースで知りました。

国際交流基金ヤンゴン日本文化センターによると、2023年7月に実施された日本語能力試験のミャンマーの応募者数は10万人を超えたそうです。
過去に1カ国で10万人超の応募者がいたのは中国以外になく、ミャンマーは史上2番目に10万人を超えた国という躍進ぶり。

中でも人気を集めているのが、介護職。
ミャンマーからの人材送り出し機関ミャンマー・ユニティでは、同国の介護職希望者は2020年11月からの2年間で6倍と急増し、全ての国の年平均を大きく上回っていると言います。

背景にある、クーデター。希望の就職を断念する人も

これほど日本移住希望者が増えている背景には、ミャンマーで起きているクーデターがあります。

ちょうど、デイサービスのフィールドワーク期間中に、ミャンマー情勢について学ぶオンラインセミナーを聴講する機会がありました。

『ミャンマー講座2023 ミャンマー危機はなぜ終わらないのか』

By 特定非営利活動法人パルシック

このセミナーでは、京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏さんによる、ミャンマー軍政の歴史と現在の紛争の状況についてお話いただきました。

まず、膠着しているような現在の紛争の背景には、圧倒的な兵力を持ちながら士気が低下している国軍側、粘り強いものの局地的・散発的な戦闘になっており現状を打破できない抵抗勢力という構図があると言います。
戦闘地の地図も見せていただき、やはり最大都市ヤンゴン周辺に集中して戦闘地域があることも分かりました。

私がお話を聞けた介護スタッフさんにも、「クーデターが起こっているけど実家大丈夫ですか?」と聞いたところ、「実家は田舎なので無事。戦闘に遭遇したことはない」と話してくれました。
ミャンマー国内でも温度差があるようです。

そして、セミナーで聞いた今後の動向として、タイなど隣接する国が民主化の支持を表明せず静観しているので、民主化は進みそうにない。選挙があっても厳しい軍の監視下であることは変わらないだろう。国家が崩壊することはないが、経済は相当な低成長になると分析されていました。

実際、ミャンマーでは大卒者でも就職できない状況が続いているそう。
コロナ禍で閉鎖した大学は、学生運動が民主化を先導するかもしれないという理由で再開されず、大学を卒業できない事態にもなっていると。
本当は別の学問を専攻していたけれど、やむを得ず進路転換をして介護職を目指す人も多いという現状があるそうです。

かつては、技能実習生は実習期間が終了すると帰国するしかなく、どうしても出稼ぎ感覚になっていました。
しかし現在では、特定技能の在留資格を得て日本で住み続けることができます。

就職難のミャンマーで、日本に移住して介護職に就くことは新たな夢の選択肢になるのでしょうか。
今後、施設数も入居者数も増え続けることが見込まれる日本の高齢者施設は移住者として地域の一員になった外国人スタッフが入り交じる、多文化共生の職場になっていくのだとうと感じました。


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