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楽しみの中の怖さを見つけたとき、人は無敵モードに入るのかもしれない

この時期になると、一年の振り返りをしつつ、来年の展望について考える。考えることが好きな私にとって、この時間はとても大切にしているもので、この作業を終える頃には、まだ見ぬ未来へのドキドキとワクワクで胸がいっぱいになる。今年も例外に漏れることなく、いまから新年が待ち遠しい気持ちだが、今回の「楽しみ」は少し度合いというか、質というか。何かが違う。その何かについて考えると、その正体が「怖さ」だということに気付いた。

今シーズンが特段よかったかと言うと、別にそれほどのものではないが、やるべきことを、やれるタイミングでやってきて、様々な変化もあった一年だった。まず初めは、クラブとしての大きな変化、クラブMVVが一新されたこと。「世田谷をもっと楽しく」というビジョンを掲げ、手探りながらも大きな一歩を踏み出したと思っている。いつかは絶対できると信じつつ、そのいつかはもう少し先と考えていたので、この変化に一番驚いているのは私なのかもしれない。

もう一つの変化は私自身の中にある。リーグ中断期のオフを使って九十九里の友人を訪れた際、「自分は選手に戻らないといけない」というスイッチが急に入った。いま思い返すと、様々なシーンで「本当に現役選手である、今、やらなければならないのか?」という問い掛けを受けてきたと思うが、それまでの私は自信を持って「現役中の今だからこそ」と答えていた。しかし、この時は「ちゃんと選手をやらないといけない」そんな気持ちに駆られた。クラブが動き出したことで、自分自身に矢印を向ける余裕ができたからかもしれない。

それまでも別に手を抜いてきたというわけではないし、自分なりに課題に向き合ってきたつもりではあるが、いま冷静に振り返ると現状維持以上のことはできていなかった。そして、現状維持のその先には衰退しかない。出場時間が減ることは別になんの不思議でもなかった。

スイッチが入ったその瞬間から、海外で闘っていたとき、尖っていたときの自分でも納得できるだけのレベルを基準に、生活のすべてを切り替えていった。抱え続けたきた怪我と向き合う、身体・脳のパフォーマンスの再現性、主にこれらをテーマに、食事・ケア・トレーニングなど、様々なことを見直していった。西が丘で行われた愛媛レディース戦でのゴールは、この積み重ねがなければ存在しなかったと思う。

これまでの自分とは違う感覚が、あの日はあった。アップ時の調子は特段よいものではなく、どちらかというとあまり良くはなかった。それでも、いつも通りを引き出すルーティンは分かっていたので、試合に入る頃にはかなり調子を上げられていた。ピッチに入ってからも、酸素が足りないと深呼吸をしてみたり、流れを読むための思考もクリアだった。ゴールが決まったシーンだけを切り抜くと、得点そのものは、ゆいの好守備からのパスに、ゆみのが諦めずに相手DFに身体を寄せ続けていなければ生まれていなかったと思う。それでも、自分自身を、あの場面のあの場所に持って行けたことは、これまでと比べての変化であるように感じた。

続く伊賀戦では、自分のやるべきプレーと実際のプレーにギャップが生じてしまい、結果その後の評価には繋がらなかった。チーム内での自分の立ち位置を考えると一番避けなければならないエラーだったが、逆に言えば、この時の課題感が皇后杯、東洋大戦でのパフォーマンスに繋がった。

東洋大戦での目標は、チームが勝つためのプランに沿って、いまの自分ができるベストを出し切ることだった。相手チームの映像は何パターンも確認し、うちが勝つと確信し、そのためには前線の機動力が絶対的に必要だった。イメージで言えば、ワールドカップでの前田大然選手。前半で潰れてもいいから、とにかく走って相手にプレッシャーをかけ続け、チームに勢いをつける。

自分の中のイメージはとてもクリアで、実際の内容もよかったと思う。6-0という大量得点の流れでゴールに絡めなかったことに悔しさは残る。一方で、試合でのタスクと今の自分のキャパの両方を考えると、ゴールはプラスアルファ的要素だったので問題ではなかった。

そうやって、結果が出るときも、そうでないときも、それぞれのなぜを追求し、予想範囲内とできたのが今年の下半期だったから、来年に向けた「楽しみ」も大きい。だが、よくよく考えると、その「楽しみ」の中に隠れた「怖さ」に気付く。やってきたからこそ楽しみに思える自分と、やってきたからこそ、あとは本当に自分次第と委ねられる怖さ。いいメンタルをつくる条件として、リラックスの中に程よい緊張感が必要であるが、今がまさにその瞬間かもしれない。ゲームの無敵モードみたいな。

まだ試したいことを含め、不確定要素はまだあるし、未来のなにも決まってないが、楽しみな気持ちは増す一方で、いまは、人生がめちゃくちゃ楽しい。周りあっての自分は忘れず、自分の中のものさしも大事に。来年はちょっとだけ利己的に、誰かの記憶に残るパフォーマンスを追求したい。

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