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祝!紀伊國屋じんぶん大賞2020第9位!「舞姫の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコ」の著者・山下泰平が選ぶ「明治本」20冊

「紀伊國屋じんぶん大賞2020」におきまして、山下泰平・著『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』が第9位に選ばれました。

記念として、ジュンク堂書店福岡店などで行われた、同書刊行記念フェア《NO明治、NO令和》にて、著者の山下泰平さんが選書した近代文学や明治関連書籍20冊を、簡にして要を得た推薦コメント付きで公開します。(編集部)

※グレー背景部文が山下泰平さんの推薦コメントです。(こういう風になっている箇所です)

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①森鷗外『舞姫』

内容的に叩かれがちな主人公、しかしまだまだ全てが未熟な明治時代に20代後半の若者が書いた小説だと考えるとこんなものかなと思えないでもない。


②夏目漱石『坊っちゃん』

1週間で書き上げたと伝えられるバチバチのエンタメ小説、そのわりに月齢と日時の整合性が取れているという漱石の狂気も感じられる一品。


樋口一葉『たけくらべ』

綺麗な文章とストーリー、でも文語だからちょっと難しいかもしれない。辞書をひきながら読む価値があるかも。


④幸田露伴『五重塔』

のっそり渋い、台風の描写最高、講談や落語で人気の左甚五郎の物語にそっくりなものがある


⑤国木田独歩『武蔵野』

現在の武蔵野とは全く異なる風景を独歩が散歩をしまくる。描写は良いがいかんせん今とは全然違うため、想像で補いながら読む必要がある。


⑥泉鏡花『高野聖』

綺麗な文章、不思議なことが起きる小説。尾崎紅葉が大好きな男で、グイグイ読ませるのは紅葉の影響を受けているからかも。


⑦尾崎紅葉『金色夜叉』

当時メチャクチャ人気があっただけに、メチャクチャ面白いのだが読みにくい。でもメチャ面白い。読むと人気が出たのが分かる。


⑧島崎藤村『破戒』

正直なところスキャンダルやら色々あって作品が残ったんじゃないのかなと思うところはあるけど、読んでおいてもいい作品。ただし暗い。


⑨江戸川乱歩『二銭銅貨』

若い頃の乱歩は文章も荒れてなくて普通に素晴らしい。


⑩芥川龍之介『歯車』『河童』など

龍之介が命を削って書き上げた歯車を読み、葛西善蔵が奴もようやく小説を書いたなとつぶやいたといわれるが、お前ら小説に命削りすぎだろと思わせて余りある作品群。


⑪夢野久作『押絵の奇蹟』

久作が書く圧倒的能力を持つスーパー女子が活躍する小説は、『ドグラマグラ』の3倍くらい面白い。同時期に『押絵と旅する男』を書いた乱歩の自信を喪失させたほどの名作。


⑫葛西善蔵 なんでも

調子が良く筆が進むと書くのを止めてしまう男、それが葛西善蔵。小説も短編ばかり、内容もなんだか分からない。それでも凄みとおかしさを兼ね備えている作品ばかりである。


⑬武者小路実篤 なんでも

下手な文章であったとしても思ったことを能天気にそのまま書くというスタイルで芥川を怯えさせた男。タイミングが合うと良い作品になることもある。


⑭太宰治『惜別』 (新潮文庫) 

実は太宰の小説はかなり面白い。そして上手い。「右大臣実朝」は、人間失格してないでもっと書いてよと思わせて余りある傑作。検閲大好きな GHQもこの作品は修正なしでokを出したほど。

⑮勝小吉『夢酔独言』

勝海舟の親父のエッセイ。刀を振り回し気合いで海舟の病気を治す江戸人だが、明治につながるギリギリ近代人の顔を持つ男。


⑯福沢諭吉、富田正文『新訂 福翁自伝』 

福沢諭吉は超合理的な「バンカラ」だった。若き日の諭吉の狂った行動に注目。


⑰中江兆民『三酔人経綸問答』

できれば原文で読んで欲しい。内容や意味なんて気にせずに、リズムや文字の愉快な並びを眺めるだけで楽しめる。


⑱水木しげる『猫楠 南方熊楠の生涯』

水木先生が描く南方熊楠の人生、南方熊楠って誰だよって人は読んだら分かります。

⑲関川夏央・谷口ジロー『『坊っちゃん』の時代 』&⑳伊藤整『日本文壇史』

明治が舞台のめちゃくちゃ良い漫画、文章が好きな人は『日本文壇史』をお勧めですが残念ながら絶版。