見出し画像

第19回「大宮公園 三浦売店」家庭的なもてなしに心温まる、池のほとりの天国酒場|パリッコ

☆NEWS!
本連載が単行本になりました。連載時には掲載できなかった写真を多数追加収録、読むだけでほろ酔い、夢見心地の旅気分が味わえる、書籍ならではの充実の一冊です! 
2020年9月25日(金)発売。四六判並製、184ページ、オールカラー。定価:本体1600円+税。全国書店様にてお求めください!

 この連載では何度も書いてきたことだが、大きな公園というのは天国酒場の宝庫だ。

 僕はどこか知らない街に出かけていくとき、その日に寄れる範囲のなかに大きな公園がないかをチェックする。あれば情報を検索する。もちろん、園内に酒が飲める売店や茶屋がないかどうかを調べるため。

 以前別件の取材で大宮の街を訪れるにあたり、「大宮公園」について調べてみたところ、あまりのことに大興奮してしまった。なんと園内に「押田売店」「おぐま売店」「三浦売店」「須之内売店」「岡田売店」「白井売店」と、6つもの売店が点在している。そう、大宮公園は、世にも貴重な、天国酒場のハシゴが可能な公園なのだ。なかでも僕が大好きで、必ず寄るのが「三浦売店」。

 園内に、小さな動物園やレトロな味わいがたまらない子供遊園など、いくつもの見どころが点在していて、ただ散歩をするだけでも楽しい公園だ。西側には大きな池「大宮公園舟遊池」があり、そのほとりという絶好のロケーションに建つのが三浦売店。

画像1

◆池のほとりにぽつんと建つ、その佇まいがいい

 いたってシンプルな四角い店内に、白いテーブルが並ぶ。こういう店だから、超満員ということはあまりない。たいてい地元の常連が1、2組、女将さんと世間話をしながら飲んでいる。このいたってのどかな空間で、名物の焼きそばをつまみに飲むビールや缶チューハイがたまらないんだよな。

画像2

◆テレビの前に陣取る左の常連さん。「日常」という言葉が思い浮かぶ

 窓際の特等席が空いていればそこに座る。池ギリギリに建つ三浦売店の窓に広がる景色は、もはや絵画だ。

画像3

◆静かな店内に控えめなTVの音声だけが響く

 瓶ビールを頼むと、お通しとともにやってきた。お通しは女将さんが毎日手作りしているので、行くたびに内容が違う。この日は豚肉とゴボウの煮物で、その家庭的な味にとことん癒される。

 メニュー構成は、「焼きそば」「おでん」「もつ煮」「トコロテン」「缶づめ」「冷奴」「フランクフルト」「みそおでん」と必要最低限。けど焼きそばは必ず食べたいし、お通しもあるから、「あともう一品何を頼もうか?」と、割と毎回悩む。この日はサバの水煮缶を選んだ。きちんと皿に移して持ってきてくれるひと手間が嬉しい。

 

画像4

◆天国酒場あるある。酒の写真が神々しくなりがち

 お通しとサバ缶でちびちびとビールをやっつけたら、焼きそばとチューハイを追加注文。天国酒場で出会うチューハイはいつだって神々しく、酒飲みとして初心に帰らざるをえない。

画像5

◆いよいよメインの品が到着

 さて、名物の焼きそばがやってきた。とはいえ、他の店と比べてどんな特徴があるということはない。シンプルなソース味の、キャベツと青のりと紅ショウガたっぷりの1皿。三浦売店のどの料理にも共通する、優しくて家庭的な味わいだ。だからこそこの空間に最高にマッチするし、この店ではこれが最高の酒のつまみなのだ。

画像6

◆女将さんが飲ませてくれたのは……

 この店でぜひ味わっておきたいメニューのひとつに、自家製の「梅酒」がある。市販のものとは一線を画す、スッキリとしながらも深みのある味わいで、心からうまい。壁際の棚にそれらしき瓶が並んでいたので、女将さんに「それが梅酒ですか?」と聞いてみたところ、そうではなくて、個人的に漬けている「キンカンのウイスキー漬け」だそう。売り物ではなく、これが大好きな娘さん夫婦のために毎年作ってあげているんだそう。そんな話をしていたら、「少し飲んでみる?」とおすそわけをいただいてしまった。まだまだ日は浅いそうだが、ウイスキーのクセや角はすっかりなくなり、「回復薬」とでも表現したいような、ありがた~い味。

 どこまでも温かい三浦売店と女将さんだからこそ作り出せる、この居心地。やっぱりいい店だな。そして娘さん、お言葉に甘えて大切なお酒をちょっぴりいただいてしまい、まことに面目ありません……。


大宮公園 三浦売店
住所 埼玉県さいたま市大宮区高鼻町4  大宮公園内