廃都札幌探訪 ~大通公園~

 廃都札幌の中心部にあった場所。かつての市民の憩いの場、大通公園。今、その場所には巨大な樹木が立ち並び、森のようになっている。

 長さ千五百メートル以上、幅百メートル程度、上空からみればほぼ長方形に縁どられたその森の両脇には、朽ち果てる、というよりは、新たな主である樹木草本にその身を明け渡した種々の建築物群が、崩れ、倒れ、傾きながらも蒼然と立ち並び、地盤沈下で崩落したのであろう数々の大穴(元々噴水が設置されていたそうだ)からは水の流れが見えている。豊平川から創成川へと大水が押し寄せ、それが大通の地下街へと流れ込み、長い年月をかけゆっくりと浸食していったのだ。詳しく調査をした者はいないが、地下河川は往時に札幌の地下を走っていた地下鉄三線――東西線、南北線、東豊線を通り、その端へと続いているはずだ。(南北線は恐らく、平岸前後で地上に流出している)

 森の“ように”というのは、ところどころ、森を分断するように引かれた線があるからだ。もちろん、それはかつての道路。札幌の中心部は道路が碁盤の目となっており、画面上の地図の通り、東西南北にまっすぐ道が続いている。大通公園のあたりはほとんど緑化しているが、人の執念というべきか怨念というべきか、いまだに侵食を拒み、在りし日の姿を留めようとしているのだ。ただ、それすらももはや森の一部、森の風景になっていることは否定のしようがない。このわずかな空白が樹木の下に光を通し、風通しを良くして、森を今もってより成長させているのだから。

 最東端には、何故か今もって崩れない鉄塔がある。周囲の建築物よりも高いそれは、札幌テレビ塔。テレビ――現代では廃れて久しいその媒体のための、電波送信塔である。不思議なことに完成後十年ほどでその機能の大部分は別の場所に移されたそうだが、その後もこの鉄塔は札幌のランドマークとしてずっと機能し続けていたようだ。大通公園で憩う多くの市民や観光客の姿を、悠然と眺めていたに違いない。だが、赤色に屹立していたテレビ塔も、今では大部分が蔓性植物に覆われ、眺めるものもまた緑ばかりである。儚いと思うのは、筆者だけではあるまい。

 広域保護区域Ⅰ型である廃都札幌は現在、関係者・研究者以外の立ち入りは許可されていない。が、環境省が数年に一度、一般人も定員に含めた渡航観察研究会を開催しているので、興味がある方はそちらに応募してみるのも良いだろう。


文責:柏木


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