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帰省したくない。

もうすぐ連休。帰省ラッシュの季節。
だが、私は帰省したくない。

夫や子供たちに、いつ私の裏切りがバレるのだろうとヒヤヒヤさせられるからだ。

私の”恋人”は義理の兄。姉の婿にあたる。
このときばかりは彼に会いたくない。

姉夫婦は、美男美女のカップルで、いわゆるモテる人たち。

学校でも会社でも合コンでも一番人気の、高収入な彼を手に入れるために、ただでさえ美人の姉は美しさに磨きをかけ、料理を習い、あれこれ献身的に尽くしてきた。

その甲斐あって、彼の本妻の座を射止めたのだ。

だが、彼女に妹、居てなかったらよかったのにね。

私は、姉とは違って、ごくごく平凡な容姿の持ち主。夫とは、学生の頃に知り合い、結婚した。

夫は、私以外の異性と付き合ったことすらない。
私も、あのことが起こるまでは、夫しか知らなかった。

そう、義兄の正体は、浮気男、いわゆる遊び人と言われる存在だったのだ。

全てが自然だったから、嫌だと抵抗する気持ちが不思議とわいてこなかった。

気が付いたら、手を腰に回されて耳元で”あいちゃん”とやさしく囁かれ、たまにはバーで呑もうよと誘われ。

まさか、義理の兄が私にも欲情して手を出すなんて想像すらしていなかった。

身も心も酔わされた私は、過ちをおかしてしまった。

それから、定期的に会っては、そういう仲だ。
一度でも何度でも同じでしょ?と、あの甘いマスクと甘い声で言われると、いけないなんて断れない。断る気力すら失われてしまうのだ。

さいわいなのか、バレていないときは、相手が義理の兄だから、正々堂々と相手を説明すれば、夫も送り出してくれた。

しかし、今は、ちょっときびしい。
バレているかも、しれない。
姉が何か言ったのかもしれない。

スマホに、W不倫、対面、四人……と打ち込んでみた。

似たような状況の、乗り切りかたを知りたくて。

私が、悪かったのだ。
いくらはじめての夢のような、マンガのなかみたいな、そんな台詞やシチュエーションが連続して押し寄せても。
私は、私しか知らない夫を裏切るのは、いけないことだったんだ。

いざ、実家の前に、姉夫婦の前に対面する。

相手が相手だから、これは避けられない。

茶菓子を前に、子供たちすら正座して誰も茶に手を出さない中で、夫から切り出された一言。

「お義兄さん、別れて、下さい。」

そうだよね、って、え?私を責めるでも、義兄を責めるでもなくて?
ちょっと思っていたニュアンスと違う一言が夫から飛び出して、びっくりする私。

「お義姉さん……もう、僕は黙っていられません。僕は、ずっとずっとお義姉さんが好きでした。でも、学校で一番のアイドルのあなたが、こんなしがないモテない不細工な僕に振り向いてもらえるはずがないと、よくみてみたらあなたに似ている妹と付き合い、結婚しました!」

えーーーーうそーーーーー!!!

ちょ、だんなぁーーー!!

ちょ、オットーーー!

産まれたばかりの赤ちゃんが、オギャーとなく。
パジャマ姿の姉は、一緒にオロオロと泣いて

「そうね、ちょうど離婚しようと話し合っていたところなの。私、好きになって、結婚するひと、間違えたみたい。」

夫の告白に返事をした。

子供が出来たとたん、家に寄り付きもしない男は、たとえ高収入なイケメンでもダメなんだ、と彼女は続けた。

妊娠中でも、顔をあわせれば、義兄は優しかったらしいのだが、里帰り出産して、全く赤ちゃんの顔すら見ない夫に姉の中ですっかり冷めてしまったようで。

離婚届を2通分、お願いされて書いた。

こうして、はれて私の夫は、かつての義兄、現役の浮気男になった。

そして、姉は、ちゃっかり私の元夫と再婚した。

………やっぱり、美人って、ズルくない?

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