名探偵コナン 1巻~19巻(シェリー編) 感想

名探偵コナン 連載30周年おめでとうございます。
黒鉄の魚影を観た後、何となく初期の話を観たくなり、単行本を1巻から読み返していたのですが、シェリー登場まで読み終えたので、雑多に感想などまとめていこうと思います。

記事タイトルには『シェリー編』と書いてしまっていますが、個人的に「ここで区切りで良いだろう」と判断して分けている次第です。

ベルモット登場までが区切りという考えもあるとは思うのですが、初めにシェリーの存在が示唆されたのが、単行本2巻の宮野明美登場回。
宮野志保のシルエットが描かれ「組織の中でも有数の頭脳」とジンの口から語られた後、その存在が実際に現れるのは16巻先の18巻からでした。

アニメ初期だと放送が打ち切りになる可能性を考慮して、黒の組織が関わる回は別の形にアレンジされて「組織とは無関係で終わる事件」で処理されていたのですが、
いよいよアニメでシェリーを登場させなければいけなくなった時に宮野明美を出しておかなければならなかったため、シェリー登場回の直前に宮野明美登場回がアニオリで制作されていました。

上記のことから、アニメ版では宮野明美の事件があった直後にシェリーが登場したため、
「どうしてお姉ちゃんを…助けてくれなかったの?」
「ま、まさか…あの10億円強奪犯の広田雅美って…」
からの、
『震える様な彼女の涙声が…忘れかけていた苦く悲しい事件をオレの脳裏に蘇らせてくれた…』
のモノローグの衝撃が、少し薄らいでしまっているのでは……と感じていました。アニメを視聴している側からすれば、このブランクは1週間しかありませんので。

そのため、単行本2巻で登場した宮野明美と、それによって示された黒の組織の強大さ、組織の中でも有数の頭脳と言われる宮野明美の妹の存在…これらの伏線が16巻分の間隔を経て、満を持して回収される18巻・19巻までが、区切りとしてちょうど良いのかなと、個人的には思っています。

では、改めて1巻から読んでみた感想ですが、コナンのフォーマット自体は割と初期の時点で完成されていて、そこから大きくブレることもなくずっと続いてきたんだなという印象を覚えました。

1巻の事件では、自作自演の誘拐だったつもりが本当の誘拐事件に巻き込まれたり、他殺かと思われた殺人が実際は自殺だったということで幕を閉じたりなど、トリッキーで攻めている印象を受けますが、

1巻の時点で、蝶ネクタイ型変声機を用いた小五郎を影武者に仕立てたうえでの推理が披露され、2巻では帝丹小学校のメンバーと共に廃墟の館へ忍び込む冒険活劇テイストのお話が作られ、そこから徐々に腕時計型麻酔銃やDBバッジなどのアイテムが登場し、『眠りの小五郎』や『少年探偵団』という名称と共にジャンル化していったという印象でした。

トリック面では電話のリダイヤルや、カセットテープのリバースなど、時代を感じる機能がトリックにも多く利用されており、ここら辺を読むと、やはり時空がおかしなことになるとはいえ、現実に合わせた時代を作中へ反映させないとトリックの幅が狭まってしまうよな……とも思ったりします。

犯人の動機に関しては、昔タッグを組んで2人で考えていた小説だったのに、名前が売れていた友人に作品を横取りされたり(何気にこの回、6巻にしてコナン初の倒叙ミステリ)
長きに渡って続いてきた特撮シリーズを終わらせ、次の作品で金儲けをしたいと考えたプロデューサーに作品をバカにされ、主演のスーツアクターを務めていた後の犯人が「一番作品を終わらせたがっている」という嘘を周囲に吹聴されたりと、クリエイター同士の禍根によって引き起こされた事件などが印象深かったです。

米花町で起こる事件、旅行先で起こる事件、探偵団による暗号解読や人捜しなどを交互に展開しつつ、コナンの正体を知ることになる工藤夫妻や服部平次の登場、阿笠博士と連携した変声機による口パク推理の確立、怪盗キッドとのコラボなど、後に定番化する話のフォーマットが広がっていくのは読んでいて面白かったです。

とりあえず自分用に、本筋に関わりそうな話を下記にまとめます。
本筋と言っても、レギュラーや準レギュラーキャラの登場とか、ラブコメ周りの進展とかも含めると多くなってしまうので、主に組織関連だけで。
あんまり詳細書きすぎると著作権とか怖いので大雑把に。

・1巻 平成のホームズ
高校生探偵・工藤新一、黒ずくめの男たち・ジンとウォッカに接触。
怪しげな取引現場を目撃し、口封じのために「組織が新開発した」とされる毒薬を飲まされるが、死亡することはなく体が幼児化した。
正体を隠し、自らを江戸川コナンと名乗り、組織の手がかりを掴むために毛利探偵事務所へ身を寄せ、元の体を取り戻すべく行動を開始した。
「ボクの名前は、江戸川コナンだ!!!」

・2巻 悪魔のような女
宮野明美登場。
ジンの口から、組織の中でも有数の頭脳とされる明美の妹の存在が示唆される。
黒ずくめの男たちが、謎に包まれた大きな組織であり、カラスのような黒い服を好んで着ているという事実をコナンが知る。
「もう奴らに利用されるのは…ごめんだから……頼んだわよ…小さな探偵…さん…」

・4巻 はちあわせた二人組
コナン、新幹線の中でジン、ウォッカと再会。
2人のコードネームを知り、金(きん)に関する情報を提供する代わりに4億円を取引で得ていたことを知る。
「ジンとウォッカ…奴らのコードネーム…オレはこの名前を二度と忘れない…奴らを追い詰めるまでは、絶対に!!!」

・10巻 東の名探偵現る!?
西の高校生探偵・服部平次が持ってきた中国酒・白乾児(パイカル)によって、コナンが一時的に工藤新一の体へ戻る。
後に耐性ができることがわかり、飲んでも元には戻れなくなった。
「せっかく元の体に戻れたのに…また子供に…コナンに戻っちまうのかよォ!!!」

・12巻 突然の遭遇
コナン、ゲーム会社の新作発表会にて、組織の一員であるテキーラと接触。
組織が、全世界の有能なコンピュータープログラマーのリストを大金で購入しようとしていた事実を知る。
「放せ!!! オレはボウヤなんかじゃねぇ!! オレは…オレは!!!」

・18巻 コードネーム・シェリー
灰原哀登場。
新一が飲まされた薬の名称が『APTX(アポトキシン)4869』であったことが、開発者である宮野志保から語られる。
幼児化した姿で組織から脱走し、阿笠博士の家へ身を寄せつつ、灰原哀と名前を変えてコナンの前へ現れた彼女は、10億円強奪犯・宮野明美の妹であった。

また、組織の情報が記されていたフロッピーディスクには仕掛けが施されており、組織のコンピューター以外で立ち上げるとウイルスが発生するようにプログラムされていた。
そのウイルスの名は、コナンもよく知る名であり、かつての事件でその存在が示唆されていた――闇の男爵(ナイトバロン)
「あなたとは長い付き合いになりそーね…江戸川君…」

とりあえず、こんなところで。
コンピューターウイルス・ナイトバロンとか、「もしも阿笠博士が犯人だったらどうする?」とか、
初期は「この人物が黒幕だった」という展開になっても自然と持っていけるような伏線を幾つかに分けて散りばめていたような印象です。
長期連載によって、おそらくレギュラーキャラを黒幕に据えることも難しくなり、これらの要素も意味深なだけで終わってしまいそうな雰囲気がありますが、どうなんでしょう?

後はラブコメ周りですが、14巻におけるマジシャンの変死を巡る事件で、蘭がコナンの正体を疑いますが(1度目ではなく、ここで2度目)、
この事件以降、蘭がコナンの正体は新一だと確信していたというのが、読者の間の通説としてはあるかと思います。

確かに改めて読み返してみると、かなりそれを示しているかのようなシーンが散見されるのですが、これに関しては後に訪れる「命がけの復活」が区切りになるかと思われるので、その時に回したいと思います。

宮野明美によって組織の強大さが示唆された後、組織の手がかりを掴むために数々の難事件に挑み続けたコナン。
そして、コナンと同じ境遇に陥った灰原哀というキャラを登場させることにより、組織や毒薬に関する話の本筋が大きく進展。
しかしまた、彼女と宮野明美の関係を知ったコナンは、忘れかけていた苦く悲しい事件について思い出す……

基本的には、高校生から小学生になってしまい、正体を誰にも知られてはいけないという制約の中、世界から逸脱したかのような存在であるコナンが、謎を解き明かすために奔走する物語でしたが、
博士や服部を始めとした、彼の正体を知る人間との連携が描かれていく中で話の幅も広がり、ここで運命共同体とも言える灰原が登場したことは、コナンの物語におけるひとつ目の転換点になっていたのだと思います。

青山先生曰く、灰原を通して自分の言葉を作中で表現することが多いようなので、作品全体のテーマや、彼女が物語へ与える影響なんかにも注目しつつ、以降のベルモット編も読んでいこうと思います。





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