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080ぼくのなつやすみ 30日の有給日記①

6月1日(月)くもり 古着屋さんへ

11時ごろに起きて15秒。
ぼーっと天井を見て、現業が感動のフィナーレを迎えていたことを思い出す。

普段なら手間がかかるので朝メシを作らない僕が、ほうれん草を炒めつつベーコンエッグを作る。おいしいご飯を食べてごろごろしていたらふっと2時間記憶が飛んだ

古着屋さんに行く。
僕は世界で7番目に暑がりなので、日本の夏はアロハシャツじゃないとフリーズしてしまう。

おしゃれのセンスに自信がないので、試着した3つの候補の写真を妹に送り付って、意見を仰ぐことにした。

年ごろの女子大生のセンスは頼れる。
そう感じている最中、ノリで今着てきたお気に入りの服の写真も送ったら「それはやめた方が良いと思う」と言われ、思いのほか余計に傷ついた。

晩御飯は妹と母の「肉が食べたい」の鶴の一声で近所のお値打ちの焼肉屋へ。普段だと20時制限に追われて慌てて食べていたけど、今回はゆっくりと肉を焼く時間があった。

時間の余裕は幸せに直結するみたい。

6月2日(火)晴れ 前職場に表敬訪問 家電営業マン 母の高価なオムライス

①前職場に表敬訪問■■

前の部署にあいさつをするために、スーツを身に着けて新宿へ。
有給を使っていることに後ろめたい気持ちを感じるけれど、
僕から「あいさつさせてください」と言って会う約束を取りつけてしまったんだから当然仕方ない。

呼び出された小田急百貨店のレストラン街に行くと、
肝心の上司が大大トラブルで来れなくなったとのこと。
キャンセルはできないので、
とっても苦手な先輩仲良しの後輩ちゃん(チェイサー係)を交えた計3人で、お高い天ぷらのコースを経費でいただいた。

苦手な先輩との会話は当たりさわりないままだった。
新しい話題が出ては消えていく。質問を深堀りされないことって結構さみしいんだなーと改めて感じつつ、しゃべりながら次の話題を探す。

料理人さんが目の前のカウンターで天ぷらを一つずつ揚げてくれる。
僕も天ぷらを機械的に口に運ぶ。
時勢柄表現として良くないけれど、味はあんまり覚えていない。


会社の事務所に戻って、かつての先輩同僚の席に近寄って言葉を交わす。
トラブル帰りの上司にも指導のお礼を伝えられた。
支社長、もう49なんですね。

母ほどのお歳の方々は本当に寂しがってくれる傾向がある。
普段から連絡を取っていたわけではないから若干クエスチョンな部分はあるけれど、会えなくなった人もどこかで元気で働いていてほしい気持ちはよくわかる。
でも、そろそろ「コロナが落ち着いたら飲もうね」注意報警報に切り替わりそう。

②家電営業マン■■

新居に向けて家電を見回る。相見積もりにかけないと安くならないのは損保で学んだので、ビックカメラ、ヨドバシ、LABI、ビックロを周回する。

ぼーっと冷蔵庫を見ていると、店員さんが勝手に冷蔵庫を丁寧に説明してきた。
それだけならまだいいのだが、その後まるで自然を装ってauひかりの営業トークに切り替え、あげくの果てには僕の住所を聞き出そうとしてくるではないか。

なんと盗人猛々しい。
計3回、目から”れいとうビーム”を打ったけれどワザがうまく決まらなかったので、言葉とお辞儀で丁重にお断りを入れた。なまじ営業をかじっていた身としては即、喝を入れたいスタイルである。

客をカモとして扱うヤツはたいてい疑わしい目をしている。不意に取引先の社長が言っていた「ツラ構えを見りゃわかる」との言葉を思い出し、これまで出会った友人たちのツラ構えを頭に思い浮かべながら店を出た。

買う気なくしちゃった。

③母の高価なオムライス■■

母親に連絡すると今日はオムライスとのこと。
実家。。。。。と心を休めていると、写真が送られてきた。
オムライスのうえにケチャップで「¥100万」と描かれている。

社会人の僕に母は厳しく優しい。すかさず「分割払いも対応可」と通知が鳴った。
今日も我が家はにぎやかだ。

6月3日(木)晴れ 健康診断 17年目の大先輩 メイド喫茶・最強の客引き

①健康診断■■

朝から健康診断だから、10時50分までに現地にいなきゃいけない。
どこか懐かしいお茶の水に降り立ち、血を抜かれた。

もし「世の中で一番 自分が機械に近づける場所」がいくつかあるとしたら、健康診断会場はそのトップに君臨するのではなかろうか。
会場で「はい」と返事をするだけで僕が機械的に流れていく。
生きているカラダを調べる場所なのに皮肉なものだ。

考えたことは実践してみたい。
ベルトコンベアを流れる機械として数分過ごしていたが、途中で革命精神が芽生え始めてきた。
そして思いは高まり、とうとう機械の代表として「お姉さん注射全然痛くなかったです!」と言葉を発する。

それ流れから外れてやったぞ、文明に抗ったぞと思っていると、
看護師さんは一拍も置かずに
「ほんとですかありがとうございますー」となめらかな返事をくれた。

看護師さんたちはあまりに慣れすぎている。
当然、機械が言葉を発することも想定の範囲内というわけだ。

②17年目の大先輩■■

「私ほんとはブライダルとか旅行の企画がやりたかったのに、気づいたら保険会社に入ってたんです。」

昨年産休から復帰した17年目の大先輩は、僕にも敬語を使ってくれる。
前職のお仕事ペアの女性で1年間一緒に仕事をしていた。

「今は家庭もあるから自分の好き嫌いだけで仕事を選ぶわけにはいかないけど」と前置きをしながら、
学生時代に友達の誕生日プレゼントでラジオ番組を作ったこと、世界を旅するバックパッカーをしていたことなどを話してくれた。
1年間仕事で話していたのに、プライベートはこんなに知らない。

「やりたいことを仕事にしようとして動き出せるのはすごいと思います。」

今では課に欠かせない立場の方だから、僕が抜けると人がどれくらい足りないのかは誰よりも正確に把握しているだろう。
僕も、書籍を作りたいこと、シェアハウスに引っ越すこと、Ⅿ-1に出たことなどを話した。

「私の旦那さんに発想とか考え方が似てるんです」
「本当に応援しています」

ランチにしては長い2時間弱を過ごした後、近くの有名なレーズンサンドをはなむけに頂いた。旦那さんとの食卓でも、よく僕の話をしているという。

決して稼いだ社員ではないけど、「誰かは見てくれている」と、
損保キャリア3年間の答え合わせができた気がした。

③メイド喫茶・最強の客引き■■

秋葉原にも家電を見に行くと、メイドさんが沿道で列を作って通りかかる人たちに声掛けをしている。
日本の文化をしみじみと感じていると、「メイド喫茶でーす」「立ち寄っていかれませんか~?」と客引きの声がする。

正直メイドさんはめっっっちゃ見たい。
けどごめん、目を合わせないようにしよう。

そう意思を固めてそそくさと歩く。
よしっ、と思っていると

「ご通行中のご主人さま~♡♡」

と声が聞こえた。

ついうっかり、ふふっと笑いがこぼれて、あやうく心を奪われそうになる。

僕はたまたま通りすがっただけだった。
だから、まさか僕がご主人さまだったなんて。

「ご帰宅はいつごろですか~♡」と続けているから、

心の中で「ずいぶん家を空けたね」と返しつつ、
僕は帰途の電車に乗り、読書中のご主人さまになりかわった。


つづく


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