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後悔は波に溶けて

 波音が聞こえる。ずいぶん遠くまで来たみたいだ。

 アスファルトで固められた街から電車でどれぐらいかかっただろうか。そういえばどうやってここまで来たのだろうか。ここに至るまでの記憶があいまいで、ぼんやりとしている。気付いた時には無人駅に降り立っていて、導かれるように改札を出て少し歩いてみると、目の前には大きな海とどこまでも続く水平線が広がっていた。偶然たどり着いたにしてはあまりにも出来すぎている気がする。

 あまり使われてなさそうな階段を下りると砂浜に出られるらしい。周りに集落や人の気配はない。何故こんな場所に駅があったのだろう?いわゆる秘境駅っていうやつなのかな。それとも誰も知らないような場所に奇跡的にたどり着いてしまったのか。こんな綺麗な場所、観光スポットや海水浴場として有名になっていてもおかしくないのに。

 砂浜を少し歩いてみる。革靴にどんどん砂が入っていく。なぜこんな場所で革靴なんか履いているんだろう。というか今まで気付いていなかったけれど、なんで自分はこんな場所に似つかわしくないようなスーツを着ているのだろう?いや、スーツというかこれは……。

 服には線香の匂いが染みついていた。その匂いで夏のことを思い出す。そういえばお盆の時期には、海の見える場所にお供えをしてご先祖様を迎えていたっけな。そういえばちょうどこんな景色だったっけ。

 あれ、なんで自分はここに?

 

 違う。

 帰りたかったんだ。あんな場所じゃなくて。あんな何も聞こえない場所じゃなくって。波音が、潮騒が、あの頃の音が聞こえる場所に。全てが始まったこの場所に。

 また始まりたかったんだ。



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