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4.至極色の夜の記憶と備忘録

「悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~」に纏わるいくつかの事柄#4

この日の宮本さんは演奏中、些細な苛立ちは全くなく、メンバーとの最小限のコンタクト以外、気に触る何かの理由で後ろを振り向かなかった。「俺の道」や「悪魔メフィスト」の咆哮はあっても、顔を歪ませたり演奏陣に対し首を振ることも、嫌悪を顕に感情を投げつけることもなく、ただ真っ直ぐに放出していた。

自身はカメラを意識することなく、目線が一度合ったかどうか。近年の野音や武道館でさえ過敏に避ける仕草からも気になるだろうに、目の前の観客を意識することだけに注力していたのだと思う。ライブ中、ゾーンに入ってしまうと観客どころか演奏陣も置いていくほどのそれを感じるけれど、それもほとんどなかった。一瞬も気がかりを顕にしない、その場の誰も置き去りにしない、それがこの日の会場に対しての向き合い方に思えた。

MCは他会場に比べて多かったと思うけれど、フロアとの距離が近いにも関わらず過剰な声かけは無かった。誰かが堰を切ってしまえばその空気は一変してしまったはず。宮本さんが相好を崩したのも丹下さんとギター交換のやりとりと、何かのタイミングの1.2度あったくらいで、隙なく気を緩めず、かといって殺気立つわけではない、野音の張りつめた感じとも違う、激情は自分自身に向けていたような。

ちょうど石森さんの前のカメラが定位置でメインの姿を捉えていてこんなに躍動している石森さんを見たことないくらい、そして石森さんだけじゃなくメンバー全員フルスロットル、カメラワークが秀逸で何度となくメンバーソロをフォーカスしてくれた、それぞれのアップや全身ショットも多く、もちろん宮本さんを捉えるほうが圧倒的に多いのだけれど、演奏途中、宮本さんが見切れてもメンバーを満遍なくフォーカスしてくれていて、申し訳ないことにサポートのSUNNYさんとミキオさんはほとんど映らず、
エレカシ4人に集中していた。

何より4人全員が同じ画角に収まりフォーメーションのように息の合った演奏が幾度となく映され、絶妙なカメラの位置と細かなカメラワーク。狭いキャパの会場だからカメラが移動できる余裕はなく、固定カメラがフロア側に恐らく3台、ステージ奥に1台で、できることを計算しつくしたようにも、宮本さんの顔と足元のアップはそれしか動きようのない苦肉の策だったのかも知れない、それがとても功を奏していた。
クオリティは確かに近年のそれに全く及ばないけれど、ここまでメンバーをフォーカスしてくれた映像はほとんど記憶にない。

残すところあと数本のロングツアーによる完成度とテンションだったのか、この日のエレファントカシマシの演奏と、4人の呼吸が何度もピタっと合う瞬間がこの映像に残されている。ロードツアーの結晶のような紛れもない4人のエレファントカシマシがそこにいた。

けれど、このシーズンのライブはこの日だけでなく全てが同じポテンシャルだったのだと、rockin'on山崎さんがツアー最終の東京ドームシティホール終わりに掲載してくれていたそれで思い出した。自分もいくつかの公演を観ていて、観たものが全てと思いつつ記憶は確実に薄れている。結局、残された記録には敵わないし嘘もない。目に見えない裏方の方々の熱量さえもそこに正しく存在している。



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