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ディズニーランド珍道中 イラチとセッカチとイヤイヤ期と

わたしがディズニーランドに行ったのは、かれこれ15年ほど前になる。
残された写真が遠い記憶をよみがえらせる。
小麦肌で、後ろにのけぞって小顔効果をねらう貪欲ささえ懐かしい。

そんなわたしも結婚し、イヤイヤ期真っ盛りの3歳の娘がいる。

娘は仮面ライダーのファン。
かわいいより、かっこいいが今の気分らしい。

ミッキーに執着はないけれど、
CMに出てくるあの楽しげな世界観だけで、
「ここに行きたいんー!」と、
ドスの効いた声で、ことあるごとに叫んでいた。

一方、その娘の父、つまりはわたしの夫はかなりのイラチである。
叫ぶ愛娘を目の当たりにしても、
まず、ディズニーに行こうなどという選択肢がそもそもない。
イラチは自分がイラつく場所を心得ているのだ。

「ディズニーランドやったら俺も行くで。」

全てを一変したのは
お義父さんのこの一言だった。

お義母さんが他界してから、お義父さんとは定期的に旅行に行くようになった。

娘の3歳の誕生日は三連休の中日。
2泊3日でみんなで旅行にいくことだけは先に決めていた。

お義父さんは見た目のまんまで物静かで無口な人。
これまでも自ら行きたい場所を提案してきたことは一度もない。
毎度聞いても、
「どこでもいいよ。」
としか返ってこなかった。

ただ、なんとなく、
ずっと宿で滞在というよりはいろんなところを歩いて回りたいようだし、
かといってアートや建築にはあまり興味はなさそうで美術館めぐりはあんまりのようだ。
面白いともつまらないとも口にしないので、
帰宅後に送られてくる
「ありがとうたのしかったわ」
のメールが来るまで、わたしはいつも気が気でなかった。

当の息子(夫)に聞いても
「おやっさんはどこでも楽しいやろ」
ときたもんだ。

…この親子ったらっ!もう!

そんなこともあったりで、この一言で私は後先考えず決めてしまった。

「いきましょう!」

言うまでもなく、お義父さんはイラチの夫の父である。
言葉は悪いが、歳を重ねてイラチをこじらせている。
カッチカチのセッカチなのである。

例の法則でいえば、
セッカチのお義父さんも、
ラーメン屋の行列どころでは済まされない場所にわざわざいくはずもない。

娘(孫)への愛を感じざるを得ない。

万事うまく行くとはもちろんおもっていなかった。
イラチにセッカチ、イヤイヤ期に、15年前のオワコンガイドときたもんだ。
だけど、なんとかなるさがわたしのイキザマ。

出発3日前

事前にチケットを買えばいいんでしょ。
はいはい、わかってますよと言わんばかりに
会社近くのファミマのファミポートでタッチパネルを軽快に操作していた。

売り切れ

んなあほな。
3日前に売り切れる?!
入場券が?
え!
どゆうこと?

あんなだだっ広い敷地のなかに、
たった4人が入るチケットが売り切れているのである。
事前準備万端のデキるママ気取りだった私は
ファミポートの前でしばらく突っ立っていた。

日にち指定という種のチケットが売り切れだった。

土日祝は入場規制とやらがかかるらしい。
だから行く日が決まっていたらみんなこのチケットを買う。
遥々関西からこのメンツを引き連れておいて、
夢の国目前で中に入れませんでした。なんて、
考えただけでゾッとする。

半ば脚がガクガクしながらも恐怖のオープンチケットとやらを手に入れて、
何とか出発当日を迎えることができた。

※私達のように初心者の方がいるかもしれないのでお伝えしておくが、
オープンチケットとは事前に購入できているだけで、入場制限が入れば入れない。
対策としては制限がかかる前、つまり朝とにかく早めにいくしかないのである。

当日

・3日間の旅の工程は?
・誕生日当日はシーであるべき?ランドであるべき?(シチュエーションとか、セレブレティ感とか、きっとこれだけで番組が組めるんだろうよ)
・夢の国のコース取り。(なんかあるんでしょコツが)
・並ばず入れるファストパスシステムの理解と段取り。(知ってるものが得をするという苦手なやつ)
・誕生日特典の調査。(娘にはとかく一番たのしんでもらいたい)
・並ばずお腹を満たせそうなレストランの手配。 (空腹時のイラチはえげつない)

それからそれから。。。

せっかくの休暇というのに、
仕事並みのタスクの多さに、
当日まで全てを処理しきれないでいた。

こんなもの当日にはある程度決まっているもんである。
ナレーションの幻聴まで聞こえてくる。

空港からすでにこの旅ははじまっていた。

搭乗までの時間、優雅にカフェでモーニングを楽しもうと思っていたのだけれど、
ギリギリをとかく嫌う夫とお義父さんに促され、
搭乗口を目視できる小さい売店の冷たいサンドイッチをかじりながら、
ディズニーアプリとやらをインストールしてみた。

□アプリ自体がチケットになる
□ファストパスが取れる
□アトラクションの待ち時間がわかる
□現在地のわかるマップが見やすい
□ショーの予約ができる(ん?ショー?)

チェックボックスにレ点をいれる要領で
どんどんか気が晴れていくのがわかる。

神器を手に入れた私は、意気揚々と搭乗!

さて、、

珍道中というのは旅の途中のドタバタ話と心得ている。
もうこれ以上話す必要があるのだろうか。

もう今は自宅で思い出を振り返っているのけれど、鮮明に思い出すとその時の疲労感までご親切についてくる。
くたびれてしまう思い出の数々。

#お義父さんの風邪薬
#ミッキーに会うため2時間待ち
#コーヒー難民
#夫の鈍器
#バカでかいお土産
#バスくれどくれど乗車率120 %

何をかくそう極め付けは娘の
#音ダメ暗闇ダメ問題
であろう。

「お家に帰りたいんーーーー!」

どうかこの声があの宙を舞う人魚の耳に届いていませんように。

あのもじもじしたお魚たちよ、
はやくほんの少しの勇気を振りしぼって
立ち向かってくれ!
そうしないとショーが終わらない。

あーダメダメ、君は目が怖いからこっち来ないで。

ショーには必ず起承転結がある。
苦難はつきもので、そのシーンは重低音で暗いことが常である。
あんなかわいくてやんちゃくれのキャラクターの愛嬌よりも恐怖がまさる。
この事実が何より恐ろしい。

誰もが目をキラキラとさせてうっとりみとれている。
そんな世界に涙目で耳を伏せた子供と、
楽しんでいるかわからない大人と、
今にもスマホをいじりそうな大人と、
気が気でない大人。

魔法にかけられた人々に囲まれ、
この4人だけが魔法にかかっていないんだと知らしめられた。


「パパはスマホ見てた。
おじいちゃんは何もしてなかった。
ママは色々してた。」

娘が保育所の先生に言った旅の感想が、
今回の旅をもっともミニマルに表現できていてなんだか無性に笑えた。

いまでもあのアプリは削除せずに残っていて、
ふとミッキーに会う待ち時間を遠い関西の地で調べてふふふと笑ってしまう。

娘が最後にディズニーランドの出口あたりで撮ってくれた写真。
なんだかこれはこれで楽しかったと
そう思わせてくれる。

また行きましょう!