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マグロ相対売買を隠ぺい、取引データを「その他鮮魚」に偽装~静岡市中央卸売市場の卸売・三共水産

 データを偽って報告するなんて、公共インフラの一つでもある「中央卸売市場」に事務所を構えて商売する卸売会社がやることではありません。静岡市中央卸売市場の水産荷受け、三共水産は青森県大間のマグロを「その他鮮魚」だと偽って、マグロの相対取引が禁じされていた2019年当時から市場外の仲卸業者に販売していたことがわかりました。そのようにしてまでしてマグロを売ろうとした理由は一体何なのでしょうか?

訂正で大間マグロ取引120トン判明

 三共水産がマグロを「その他鮮魚」と偽って報告した数量は2019年から発覚直前の2021年8月分までで合計120トンにのぼっていたことが静岡市への取材で判明しました。静岡市はデータの偽装や訂正の事実を発表していませんが、5月24日に卸売市場の取引データを訂正版に更新しました。

 統計上隠されていたマグロはいずれも青森県産。三共水産によると、すべて大間からの出荷です。漁協以外の民間出荷業者2社が地元漁業者から販売を委託されたマグロを静岡市場に送ったものとみられます。

 しかし、静岡市場にはそれだけ大量の大間産マグロを購入する仲卸業者はいません。そこで三共水産は、大阪市中央卸売市場のマグロ専門仲卸業者に相対で販売することにしたようです。

 ここで二つ問題が生じます。一つは条例違反です。静岡市場でマグロを相対取引で扱ってよいことになったのは2020年6月からで、それより前は市の卸売市場業務条例でセリ又は入札による販売が義務付けられていました。三共水産はセリ売りを逃れるためマグロを「ブリ」や「その他鮮魚」と偽装して特定の仲卸業者に売ってきたわけです。

「その他鮮魚」とごまかし、規制逃れ

 三共水産は静岡市の条例改正で相対取引が解禁された後も、マグロを取引データ上「その他鮮魚」とする偽装を続けていました。同社の法令順守意識は極めて低いと言わざるを得ません。

 この件について、市場開設者の静岡市は「個別具体事項に関してはお答えできません」という立場をとり続けています。しかし、一般論としては「市場内業者が行う取引において非違行為があった場合には、静岡市中央卸売市場業務条例等に基づき行政指導を行い、再発防止を講じていきます」といいます。

 虚偽の取引データを市に報告した当事者である三共水産は「業務検査を受け、検査指導書に基づき改善計画書を提出しました」と静岡市による検査と指導を受けたことを認めています。今回のデータの訂正もそうした行政指導の一環なのです。

 それにしても卸売市場で売買される生鮮食料品の価格や数量は物価の動きを知る指標ともなる重要な情報で、市場開設者はそれを集計、公表する責任を負っています。

 品目を偽り、数量や価格を改ざんするような卸売会社の行為が許されていいはずはありませんし、監督者である国や市場開設者の静岡市が卸売会社の背信行為を確認し、市場統計を訂正したにも関わらず公表しないことも解せません。

 そもそも市場取引を監督する立場の市役所職員たちが市場内の卸売会社が大間産のマグロを大量に扱っている事実に気付かなかったのもお粗末としか言いようがありません。虚偽の報告にいつ気が付いたか尋ねてみても、静岡市は「個別具体事項となるためお答えできません」と逃げていきます。

データ偽装に隠れた「違法マグロ」の流通

 もう一つは、「その他鮮魚」に偽装したマグロがヤミ漁獲品である可能性が高いことです。

 水産庁と青森県は昨年9月以降、もう200日以上も青森県大間町の漁業者らによる漁獲未報告の調査を続けています。

 これまでに幾度か関係先への立ち入り調査や事情聴取が行われていますが、昨年8月と9月に大間から出荷されたマグロおよそ60トンのうち40トン近くが未報告マグロだったことをつかんでいるもようです。

 昨年9月時点で、水産庁が静岡への大間マグロ大量出荷に疑念を抱いて調査を青森県に要請していましたから、静岡の三共水産も9月分については「その他鮮魚」と偽装することなく青森県産クロマグロとして28トン報告しています。

 しかし、漁業法で義務付けられた県への漁獲報告をしていたかどうかはまた別の問題です。9月分についても漁獲枠外で獲った違法マグロが大量にあったもようです。

 今回の訂正で明らかになった青森県産マグロは120トンです。そこからある程度調査が終わった8月分を除いてもなお90トンほどのマグロの漁獲報告は未確認のままとみられます。出荷業者や販売先は同じであるとみられ、漁業者によるマグロ漁獲報告もなされていない可能性が大きいとみておくべきでしょう。

脱税、産地偽装・不正競争の温床

 筆者は静岡市から入手した市場取引データの「正誤表」を監督官庁である水産庁と青森県にも送付し、大間産マグロの漁獲未報告は2020年以前に遡って調査する必要があるのではないかと問いかけてみました。昨年9月から続く調査は2021年分に絞って行われているように見えるからです。

 しかし、これは2021年に偶然起きた間違いではありません。大間では以前から漁獲量を正確に報告しない漁業者が一部にいて漁獲上限が導入されたあと、彼らは毎年、漁獲量をごまかさざるを得なくなっているようです。

 そうした背景を考えれば、静岡市場へのマグロ出荷とその取引データの偽装は、ヤミ漁獲常習者やその漁獲物を扱う出荷業者の利害と一致することがおぼろげながら浮かんできます。決して偶然ではなく、意図を持って仕組まれた市場取引データの偽装だと私は思います。

 いうまでもなく、ヤミ漁獲とは密漁そのものです。資源管理型漁業の定着の妨げになる重大な不正であり、脱税や産地偽装、不正競争の温床にもなります。筆者のもとにはたくさんの証言や資料が集まってきますが、報告徴収や立ち入り検査など役所のような強大な権限をもたないメディアによる事実確認作業には限界があります。監督官庁には調査を放棄しないでいただいたいと切に願っています。

(お読みいただきありがとうございます。「サポート」していただいた場合、その資金は情報公開請求と開示文書の受け取りに使わせていただくことにしています。ここから先の有料部分は静岡市から入手した市中央卸売市場訂の取引データ「正誤表」で、あくまで補足的な情報です)

マグロを最初はブリとして報告していたようです。
「その他鮮魚」扱いでマグロ取引を隠していました
統計上隠蔽されていたマグロ取引120トン

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