ファクト・チェック④大西健丞さん、その話、本当ですか?


︎ 大変厳しい状況が続いております

 NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)の代表理事大西健丞氏が支援者ら寄付を要請した手紙の中で言及している「大変厳しい状況」はいったいどうして生まれたのでしょう?

▶私はかつて愛護センターで見た、殺されていく檻の中の犬の表情が忘れられませんでした。自分たちがやらなければ、日本の動物殺処分の状況は10年20年、お題目を唱えるだけで何も変わらないと奮い立ち、未知の領域に足を踏み入れたのです。それから、火中の栗を拾えば火傷をするようなことが続き、心が折れそうになったことも多くありました。しかし、犬たちの顔をみるたび踏みとどまってきました

 心が折れそう、ですか。動物好き、犬好きの人たちの情に訴えようとする文章が続きます。

 しかし、厳しい状況の原因はピースワンコ事業にあるのでしょうか?

 PWJの決算資料から事業部門別の収支をみると、創設時からの事業である人道支援・復興開発支援や、ふるさと納税の寄付を募っているピースワンコ(保護犬)事業は黒字になっているのです。

■赤字生む「地域創生」事業

 2016年度に「殺処分ゼロ」の実現を掲げて、殺処分対象の犬の全頭引き取りを初めて以降、犬の収容頭数が激増し、スタッフの増員、犬舎の増設など費用も膨らみました。同時にふるさと納税など寄付金収入も増え続けていて、収支差をみると、2016年度から3年分合計すると、保護犬(ピースワンコ)部門は計6億6千万円超にのぼっています。

 もともと経費ばかりがかかる社会制度の設計や管理部門は赤字です。事業を行って大きな赤字を生んでいるのは、広島県神石高原町や愛媛県上島町などで展開している「地域創生」にかかわる事業なのです。同じ3年分で計4億7千万円弱の赤字です。

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 事業報告書の説明によると、地域創生部門の目的は「農業・観光をはじめとする産業の育成と復興、地域医療、福祉体制の改善などを通じ、過疎化、高齢化などの課題の解決に貢献し、まちづくりを推進し、地域社会の活力を高めること」だそうです。

 なぜ、地域創生部門が赤字を生み、PWJの借入金を膨らませていくのでしょうか?

 1つの例として、かつて大西氏が実妹や化粧品販売員らの助けを借りて会社を作り、愛媛県上島町の離島、豊島(とよしま)に作った高級宿泊施設「ヴィラ風の音」を取り上げてみましょう。

 この事業は大西ファミリーとその支援者が金儲けを目的に始めたリゾート事業のはずでした。しかし、2007年に開業したものの営業不振が続いたため、会社は2012年に観光事業から撤退し、大西氏も取締役を退きました。

 その後は、出資者として大西兄妹を支援してきた化粧品販売員らが会社を化粧品専業の会社として再建しました。つまり大西兄妹の事業の尻ぬぐいをしたのです。

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 2億2千万円かけて建設された「ヴィラ風の音」は、3千万円台でしか処分できず大きな損失を生みました。IT系のお金持ちが関係する会社が買い取り、プライベートな別荘として利用されていました。

■NPO資金で高級ヴィラ買い戻し

 ところが、です。大西氏は自らの結婚披露パーティにも利用したという「ヴィラ風の音」によほど強い思い入れがあるのか、2015年にPWJのお金を使って買い戻したのです。

 大西氏は、2014年にPWJの観光部門として新しくNPO瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF、広島県神石高原町、大西健丞理事長)を設立しました。ピースワンコ事業と同じように「ふるさと納税」の寄付を募って、神石高原町や愛媛県上島町で観光や芸術による地域おこしを展開しようと考えたのです。

 SAPFは「ヴィラ風の音」を買い戻すため、2015年にPWJから6千万円を借りました。隣接地に出来たドイツ人現代芸術家ゲルハルト・リヒターのガラス作品を展示する美術館の見学とセットにして、高額寄付者向けの「ゲストハウス」として営業するためです。

 しかし、利用者は少なく、ふるさと納税で「ヴィラ風の音」を再生する目論見はあえなく失敗。SAPFは2018年にゲストハウスを売却し、PWJの借入金も1千万円に減らしました。いまは、ふるさと納税向けのゲストハウスとして利用を停止しています。

 2018年度(2019年3月)決算をみると、SAPFの正味財産はマイナス4510万円、つまり債務超過になっていました。資金不足で神石高原町で計画していた現代アート作品の展示計画も休止しています。

 寄付集めのためには様々なメディアの取材を受けたり、宣伝したりするPWJも、こうした案件についての問い合わせには沈黙を保ち、年に1回、事業報告書の中で簡単に言及するだけです。

 PWJが出没する日本の山村、漁村には「ふるさと納税」が、すぅーっと消えてなくなるような穴があるようです。「PWJの穴」と呼ぶことにしましょう。

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