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暴走する「社会正義」に一定の歯止めが必要 ②リンチを放置してはならない

 ◆千葉のドーベルマン連れ去り事件、裁判官は「動機が独善的」と断罪

 最近の動物虐待をめぐる事件にも鯨肉を盗み出したグリーンピースのような間違った英雄主義のニオイを感じています。

 昨年5月には、千葉県木更津市では、動物愛護活動家が飼い主をだましてドーベルマン2匹を盗み出し、逮捕・起訴された事件がありました。

 飼い主のもとから逃げ出したドーベルマンの捜索活動に加わった際、飼育環境に問題があると思った活動家たちは、発見されたドーベルマンが飼い主のもとに戻った後、そこから救い出す計画を立てました。それが飼い主不在時に忍び込み、犬を盗み出すことだったのです。

 懲役1年(執行猶予3年)の判決を言い渡した際、裁判官は「飼育方法に不適切な部分があったとはいえ、保健所の指導に従い改善を見せていた。盗んでまで自身たちの望む飼育環境を実現しようとする動機は独善的というほかない」と断じたと伝えられています。

 2年ほど前、北関東のあるブリーダーが動物愛護活動家から恫喝されて、身ぐるみはがれるような思いをしたという話も耳にしました。ある日突然、活動家が乗り込んできて、「お前のところは法律違反をしているからつぶす。自分たちは愛護センターよりも警察よりもえらいんだ」とすごまれ、犬の引き渡しと廃業を迫られたというのです。

 同じ頃、九州で複数のペット販売店を持つ業者は、動物愛護活動家からの情報をもとにしたとみられる動物虐待記事を雑誌に書かれ撤退を余儀なくされました。場所を借りていたホームセンター運営会社にも告発文が送りつけられていたようです。

 警察も捜査に乗り出しましたが、それからおよそ2年がたついま(8月20日時点)になっても何の処分もなされていません。告発状に針小棒大に書かれたであろう虐待の事実が確認できないのでしょう。その間も業者は風評被害に悩まされ、仕事を再開できません。シロクロあいまいなまま放置する旧態依然の警察のやり方は改められるべきです。

◆数値規制は愛護活動家によるリンチ(私刑)を認める制度ではない


 動物愛護管理法に基づき犬猫適正飼養のための施設や員数などの要件を細かく定めた数値規制が始まったのは2021年6月です。ペット業者、譲渡団体を問わず動物取扱業者にとっては戸惑いを隠せないほど重い負担がのしかかる厳しい規制であったとしても、明確な基準が示されたことで保健所や動物愛護センターは現場で指導しやすくなりました。

 ただ、それはあくまで行政が法に基づいて調査、指導することを前提にしたものです。民間人による業者への私刑(リンチ)を奨励するための制度ではありません。

 北関東や九州のケースに共通するのは、愛護活動家たちが行政による実態調査や指導、警察の捜査の結果を待たずに飼い主やペット業者に直接アプローチしていたことです。

 私が調べた限り、いずれの場合も穏やかな話し合いではなかったようです。あらかじめ狙いを定めた業者のもとに従業員などとしてスパイを送り込み、証拠として使える材料を探したり、証拠をでっちあげたりもするようです。そして自分たちの見立てによる罪状を並べ、警察との連携を示唆して、罵詈雑言を浴びせかけて、犬猫の引き渡し・所有権の放棄や廃業を迫るという構図です。

 業者側は行政の指導も受け、新しい規制に対応しようと施設の改善や拡張を準備していたようです。それがある日を境に行政からではなく、突然現れた動物愛護活動家から廃業を迫られたのです。なんとも理不尽な出来事です。

 2025年頃とされる次の動物愛護管理法の改正のポイントの一つとして、動物の一時緊急保護規定を設けるべきだとする意見が行政機関や専門家から出ています。動物取扱業者に限らず、個人の飼い主であっても多頭飼育崩壊の事例が多発しており、犬や猫を虐待している人たちの手から引き離し、保護していくことことは必要なことでしょう。

 ◆強引な廃業要求の規制必要、弁護士介在する仕組みも検討を


 同時に、行政や司法の介入や関与抜きに、民間人が強引な手法を用いて犬猫を連れ去る行動を制限するルールを作ることも考えてはどうでしょうか。北関東のケースでも九州のケースでも、犬猫の引き渡しを求めた愛護活動家の言い分と、行政や警察の受け止め方は決して同じものではないようです。

 ドーベルマン窃盗事件で裁判所が戒めた「独善」に陥ることがないよう、愛護団体であっても民間人、私人による強引な廃業要求などは規制することが必要だと考えます。ペット業界も、愛護活動家からの恫喝、強引な面会や廃業の要求には、弁護士を窓口として対応するような仕組みも整えていった方がよいのかもしれません。

 動物虐待事件を捜査した警察からの依頼で預かった犬たちを、その必要がなくなったあとも元の飼い主に返さないで隠しているグループもいます。犬へのしつけが体罰か虐待かで繰り返し警察の取り調べを受けた神奈川県藤沢市の動物愛護団体レスキュードアニマルネットワークを告発している関係者たちです。私の知り合いも複数、この告発に関わりましたが、保護した犬を同団体に返すか返さないかをめぐって仲間割れも起きました。

 そうした事例を見聞きすると、緊急保護を制度化するとしても、よほどたくさんの事例を分析、検証して落としどころを考えなければ、もめごとはなくならないような気がします。一般の飼い主や獣医師たちも理解できるようなわかりやすく公平なルールができることを望みます。


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