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「適正飼養」数値規制案にペット業界激震、行き場失う繁殖犬が大量発生という予測も~小泉環境相のさばきに注目

1、犬猫オークション業者を訪ねる

 29日朝、東京駅から上野東京ライン高崎行きに乗って埼玉県本庄市の神保原駅下車、上原ケンネル社長の上原勝三さんに会いに行きました。3年ぶりです。

 現地には国会の超党派動物愛護議連のメンバーでもある立憲民主党所属の堀越啓仁代議士もいて、一緒に上原さんの話を聞かせてもらいました。

 テーマは「行き場を失う繁殖業者(ブリーダー)の犬たち」についてです。

 上原さんは本庄市で犬猫のオークション事業を手がけていて、首都圏中心に各地の繁殖業者の実情に通じています。犬の血統書を発行する団体として知られる一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の理事も務めています。

 彼は犬猫のオークション事業を営んでいるだけにここ数年間のペットショップや悪質なブリーダーに対する風当たりの強さを肌で感じています。上場する犬猫の遺伝子検査を義務付けるなど近代化に取り組んできたということです。

2、環境省の数値基準案

 環境省は7月10日の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」で、犬猫の適正飼養管理基準案を示しました。悪質業者に自治体がレッドカードを出しやすくなるように、現行の定性的な基準からできるだけ具体的な数値や状況を示す基準に変更するものです。いわゆる数値規制です。

 世話をする従業員の数と飼育頭数の関係では、犬が1人当たり繁殖犬15頭、販売犬20頭まで、猫は同繁殖猫25頭、販売猫30頭までとする内容になっています。

 (運動スペースを別に設ける場合の)ケージの大きさは、タテが体長の2倍、ヨコが体長の1.5倍、高さが体高の2倍とするなど飼養施設の大きさや広さ(面積)や、繁殖の方法や回数、健康管理などについても具体的な数値基準を示しています。

 小泉進次郎環境相が動物愛護議連の案を踏まえて事務局に作成を指示したもので、秋に中央環境審議会動物愛護部会での審議やパブリックコメントを実施し、2021年6月施行の予定です。

3、所得減少で廃業続出か

 動物愛護関係者の間では好意的な反応が出ている半面、ブリーダーやペットショップにとって経営的な打撃は大きいとみられています。

 上原さんが懸念するのは、「廃業や規模縮小に追い込まれるブリーダーが続出し、行き場を失う犬(または猫)が大量発生してしまうのではないか」という点です。

 以前なら経済的にも時間的にもゆとりがあって、趣味で犬猫の繁殖をする人も多かったそうですが、最近は繁殖を生業とする業者がほとんどで、規制強化はそのまま採算性の悪化、業者の淘汰に結びつきます。

 ブリーダーや販売店、ペットフード業界などの関係者が組織した犬猫適性飼養推進協議会は現在、今回の制度変更が経営にどのような影響を及ぼすか調査にとりかかっているところといいます。

 夫婦2人で繁殖業を営む場合、飼養頭数60頭なら営業利益が442万円、100頭なら757万円出ますが、新しい規制で頭数が2人で30頭に制限されれば、所得は263万円となり、アンケート調査の中間報告の段階では30%以上が廃業する意向を示しているといいます。

4、事業縮小で犬が放り出される?

 影響調査にあたっては、犬の場合、繁殖用に飼われているメスと種犬を合計29万8千頭と推定し、事業規模の縮小が20%にとどまっても5万9千頭、60%に及べば17.8万頭もの犬を削減しなければならないと試算しています。

 経営的に行き詰れば、業者も犬を飼い続けることができなくなります。もしそのような事態が生じたら、どのように管理すればよいのでしょう?

 「小泉進次郎環境大臣にも申し上げたが、いきなり実施すると行き場のない犬が大量に発生してしまう」

 上原さんは「退場が望ましいような業者もいるでしょう。しかし、大半の業者はルールを守ってやってきた。長い年月をかけて制度を整えてきた英国などと比べて、日本ではせいぜいこの20年ほどの歴史。激変緩和も考えて欲しい」という立場です。

 環境省の統計によると、全国の動物愛護センターなどでの犬猫の引き取り頭数は約9万頭(2018年度)、うち犬は3万5千頭でした。

 業界の試算や懸念を「規制に抵抗している」と決めつけるのは簡単ですが、規制改革を進める場合は、副作用にも十分注意を払っておくことも大切です。

 飼育頭数制限に賛成する堀越議員も「行き場を失うような犬猫が生まれないよういすることに最大限の注意を払いたい」というお立場のようでしたが、動物愛護議連の中ではまだ十分に議論がなされていないようです。

5、農協・漁協なら減収補てん求める?

 上原さんはまったく考えていなかったようですが、私は廃業や減収に対する補償措置などが議論されても不思議ではない話題だと思いました。

 農家や漁師なら当然のこととしてそうした要望を農協や漁協を通じて出しているはずですが、動物愛護行政には産業政策や業界対策という視点はなかったのかもしれません。

 ブリーダーが経済的に飼い続けることができなくなる犬を引き取って、終生飼養するためのシェルターを作る事業者も必要になるかも知れません。

 そのための費用を業界だけに任せるのか、それとも消費者にも負担を求めるのかという議論があってもいいと思います。

 今すぐではないにしても、ゆくゆくはペット税の創設も避けては通れないのではないでしょうか。

 動物愛護行政の責任者である小泉進次郎環境大臣は、元・自民党農林部会長でアメとムチを使い分けて、戦後最大級の農政改革プランをまとめ上げた実績があります。死活問題だと訴えるペット業界とどのように調整を進めていくのでしょう。注目しています。

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