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まぼろしの優良ペット業者認定制度①2020年夏、環境省は飼養頭数の上限弾力運用案を突然撤回した

 「優良な事業者には一部緩和規定を適用する」

繁殖犬15頭を20頭に

 筆者が情報公開制度を利用して入手した犬猫飼養頭数規制に関する環境省の内部資料には、そんな案も書き込まれていました。幻の上限値の緩和案です。

 今年6月から施行された環境省令による頭数規制は、繁殖犬は1人あたり15頭、繁殖猫は同じく25頭を上限にしています。優良事業者に認定されれば、繁殖犬20頭、繁殖猫30頭に緩和するという案です。

 優良事業者として認定する対象の例としては「一体型(平飼い)の事業者」が挙げられています。一体型とは寝たり休んだりする場所であるケージと運動スペースが一体になったかたちの飼養施設を指します。

運動スペース併設なら環境良好

 ケージ・運動スペース分離型の場合は、一定時間おきにケージから運動スペースに動物を出したり、入れたりする手間がかかりますが、自由に行き来できる一体型なら作業効率が高いという観点から頭数を多めに飼ってもよいという案でした。

 逆に問題が多い業者には命令・登録取り消し等の厳格化で対応する、という考え方とセットになっていました。

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 こうしたアプローチは、員数規定の「上限値の強化と緩和」と呼ばれ、環境省が数値規制案を練るために設置した「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」(座長、武内ゆかり東京大学教授)が2020年8月12日にまとめた報告の中で打ち出した考え方です。

検討会の案、審議会に諮らず

 報告書から抜粋します。

 「個別の施設・設備及び管理体制等によって飼養状況が異なるため、個体の管理状態等に応じて、環境省令で定める基準等の範囲内で、都道府県等が飼養頭数の上限値を減少又は増加させる規定を検討する」

 専門家の意見を聞きながら報告の内容自体は環境省がまとめています。言い換えれば、専門家らも異議を唱えなかった環境省の原案といってよいでしょう。

 しかし、2カ月後、環境省の方針はあっさり変わってしまいます。

「検討した結果を率直に申し上げますと、どちらについても規定をしないということでございます」

 2020年10月7日に開かれた中央環境審議会動物愛護部会で、環境省の長田啓動物愛護管理室長は上限値の弾力的な取り扱いを断念したことを明らかにしました。上限値の強化、緩和に関する規定をこの日提示した答申案に書き込まず、撤回したのです。

 長田室長は理由をこう説明しました。

 「まず、課題のある事業者の上限値強化でございますが、環境省令の中で具体的な数字を定めて、その数字を遵守している事業者に対して他の不適切な事項がある場合に、その数字をさらに縮めてそれを遵守させるというのが、他の事例等でもなかなかそういう制度はないということ。あるいは他の基準を満たさなければ当然、その他の基準を満たさないことによって、勧告や命令を速やかに出していくというのが、今回の基本的な考え方であるということ。こういったことを考えますと、課題のある事業者の上限値強化というのは法制的にも無理があるというふうに考えております」

 「また、優良な事業者の上限値緩和につきましても、どういった客観的な基準で上限値を緩和するのかと、これも自治体に委ねられるということになれば、自治体ごとに判断が分かれて、地域間の公平性が損なわれるというような課題も生じる可能性がある、あるいは自治体がこの判断をするために相当な負担が伴うということも考えますと、基本的にはこの15頭、20頭というもの、25頭、30頭というものは維持しつつ、先ほどご説明しました経過措置を適用をする形で、基準に対応していただくということを基本的な考え方としております」

 法制的に無理があるとか、地域間の公平性が損なわれるとか、環境省が打ち出した方針をあっさり取り下げてしまうとは、いったい、どんな資料や事例をもとに議論を積み重ねたのでしょう。

 私は上限値に関する議論を記録した行政文書の開示を請求しまいたが、最初に開示されたのは以下のように肝心の部分を黒く塗りつぶした文書でした。

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 黒塗りも遺憾ですが、わずか2枚の短いメモです。長田室長が説明したような様々な状況を整理して議論した様子はこの文書からはうかがえません。選択肢を掲げただけで、どんな議論が行われたのかまったくわかりません。検討にあたって参考にした事例やデータはないのでしょうか?

 私はいやらしい部分的な黒塗り(不開示)を不服として審査請求しました。次回はその内容を詳しくご紹介します。

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