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「隠れたマグロ漁獲」は「不良債権」にも似て大間漁協の経営を揺るがす問題に

大間漁協は2024年度の県からのクロマグロ漁獲枠配分をおよそ30トン減らされる。昨年2月、漁獲したことを青森県に報告しないままクロマグロを出荷、販売した容疑で仲買業者2人が逮捕された事件で、容疑となった2021年度の未報告数量は青森県が立ち入り調査で把握していた大間など3漁協分約60トンよりもさらに30トン多いことが判明したからだ。大間漁協所属の漁業者の違反分とみられる。

 2020年以前の漁獲にも未報告の疑いがある。筆者が大間産の未報告マグロを大量に扱っていた静岡市中央卸売市場から入手したデータから考えてみると、2021年を上回る量の未報告が今後見つかっても不思議ではない。「青森県は特定の月だけのデータを抽出して調査しているようだ。悉皆調査をすると膨大な未報告数量になるからだろう」という地元の漁業者もいた。

 それほど、大間ではオモテの統計に出てこないクロマグロの漁獲が多かった。漁協に販売を委託する手数料がもったいない、納税を少なくしたい、早く借金を返したい等々、漁獲を隠す漁業者の思いは様々だ。

 水産庁と青森県は過去に一度、その実態にメスを入れようと試みたことがある。2017年秋のことだ。

 筆者が当時の東京・築地市場で売買された大間産クロマグロの流通量と、大間の漁業者が青森県に報告したクロマグロの漁獲量を比較したところ、流通量が多い傾向にあることが分かった。

 その理由を水産庁と青森県、そして大間漁協にそれぞれ取材したところ、青森県が窓口になって筆者に回答してきた。青森県は大間漁協に未報告がないか調査を依頼したところ、大間漁協は口頭で漁業者に未報告があれば申し出るように求めたが、申し出がなかったので報告漏れはない、青森県としてもそれを信じるほかない、という結末であった。

青森県から受け取った当時の回答
水産庁から青森県への調査指示

 当時、流通業者に実態の聞き取り調査をしようとしていた私に、大間の業者とみられる男性から電話がかかってきて、「お前はいま何をやろうとしているか、わかっているんだろうな」とすごまれた。

 大間の漁業者、そして築地の卸業者らの口は堅く、ヤミ漁獲のマグロが出回っている証拠を押さえることはついにできなかった。

 あの時、立ち入り調査や報告徴収の権限を持つ水産庁や青森県が大間漁協や出荷業者、漁業者に対してしっかりした調査を進めてくれていれば、大間のヤミ漁獲の実態は2018年からの漁獲可能量(TAC)制度導入より早く明るみに出て、税金の追徴など何らかの処分を受ける漁業者が出たかもしれないものの、漁獲枠自体は実力相応の大きさを確保できたのではないか。

 2021年のヤミ漁獲の数量からも想像できるが、漁の悪い時でもおそらく年間数十トン、豊漁の年であれば、100トンを優に超える実績があっただろうことは容易に想像できる。

 それは単なる私の印象にとどまらず、大間の多くの漁業者が抱く実感でもあることが過去2年余りの大間の漁獲未報告問題の取材で確認できた。隠された漁獲量はオモテに出た漁獲量に匹敵するほど大きかったとみる漁業者もいるくらい、大間では一部の漁業者が大手を振って脇売り、ヤミ売りに邁進していたのである。

 ヤミ売りして荒稼ぎした漁業者は、漁協に手数料をおさめもしないし、漁獲を県に報告することもない。だからTACのもとで県、漁協を通じて配分される漁獲枠を本来もらうことなど本来ならできる立場にないはずだが、組合員として枠の配分を要求する。

「まじめにやってきた漁師の枠がヤミで稼いだ連中に持っていかれてしまうことがあっていいのか」

 過去のヤミ漁獲(未報告漁獲)が判明するたび、大間漁協に対するクロマグロ漁獲枠の配分が減らされ、漁師に再配分される数量も小さくなる。漁獲未報告問題は1990年代に銀行の体力を吸い取っていった不良債権問題と同じように漁協や漁業者全体をむしばんでいく。

 わずかな数量なら全体で吸収することも可能かもしれない。しかし、もし、仮にオモテの数量に匹敵するほどのヤミ漁獲があるとするなら、もはやこれは違反を見逃してきた行政が責任をもって問題解決に関わるほかないのではないか。

 隠され続けていたクロマグロ漁獲の実態を解明し、それをどうすればオモテの漁獲枠の増枠に結び付けることができるか。行政による強力なサポートなしには、地元の漁業者はこうした問題を解決できないだろう。

 大間漁協は役員改選期を迎え、3月19日まで理事、監事の立候補を受け付けている。ヤミ売りで漁協に落ちる手数料が少なかったため、漁協の経営も非常に厳しい。難局に対処するには、漁業者たちも好き嫌いを封印して、能力ある人をリーダーとして漁協の役員として担ぎださなければならない。


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