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まぼろしの優良ペット業者認定制度③杉本彩代表の公益法人は公明党重鎮の国会事務所から環境省にFAXで要望を送った


超党派動物愛護議連案が基礎

 数値規制導入にあたって動物愛護団体、ペット業界はそれぞれの立場から環境省に要望や意見を持ち込んでいました。国会議員によるものも含めてどのような申し入れがあったのか、2020年11月、環境省に情報公開を請求したところ、2021年1月、全部で38の文書が公開されました。

 主な要望を文書番号順に紹介します。

 文書1は、超党派の国会議員による犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟(尾辻秀久会長)が2020年4月3日付で作成した「第一種動物取扱業者における犬猫の飼養管理基準に関する要望書」でした。

 小泉進次郎環境相(当時)が環境省案をまとめる際の基礎として取り扱った文書です。欧州諸国の規制や学者の意見を参考に、ケージの大きさ、繁殖回数制限、飼養可能頭数など広範囲に数値的な基準を示しています。繁殖犬は従業員1人あたり15頭、販売用は同20頭までという員数規定の案もこの文書に盛り込まれていました。

ホビーブリーダー消え、集約がアダに?

 文書3は、ペット業界による犬猫適正飼養推進協議会(石山恒会長)が、動物愛護議連案への反論として環境省に提出したものです。従業員1人あたり15頭までという案について「ホビーブリーダー(ドイツでは雌犬3頭以下を保有)が87%を占める欧州の基準を参考にしたのであれば、国内の現状とは乖離し、適合できる事業者は40%程度と推計されます」と指摘しています。

 日本では動物取扱業への規制導入によって、個人的な趣味として犬猫の繁殖を行っていたブリーダーが続々廃業して、専業ブリーダー中心に子犬、子猫がペット市場に供給される皮肉な構図が生まれています。事業として大規模に繁殖を行う業者にとっては、1人で15頭までという制限は厳しすぎ、集約化がアダになってしまったわけです。

 ただ、犬猫適正飼養推進協議会は、この時点で代替案を示していませんでした。犬猫ともに「1人あたり30頭まで」とする案の検討を環境省に申し入れたのは、9月2日のことでした。文書の番号は17となっていました。環境省の適正飼養検討会は8月12日に報告書をまとめ、規制原案を公表していましたから、ペット業界の提案は遅きに失したと言ってよいでしょう。

「ペット業界から提案なかった」と環境省

 「犬猫適正飼養推進協議会さんからは、基準の具体化に対する懸念についてはご説明がございましたけれども、対案としての具体的なご提案をいただくことができなかったということは残念だったというふうにも思っております」

 環境省の長田啓動物愛護管理室長は2020年10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会でそのように説明しています。

 筆者が注目したのは、文書7の2020年6月4日付の公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(杉本彩代表理事)の「適正な指導監視につながる具体的な数値基準を」という要望書です。

 杉本さんは、超党派動物愛護議連のプロジェクトチーム会合にも朝日新聞のペット記者太田匡彦らとともにアドバイザーとして毎回出席する熱心な活動家ですが、飼養可能頭数については議連案よりも厳しい従業員1人あたり10頭を提案していたのです。

公明党支援をバックに環境相説き伏せる

 Eva幹部たちは当日、4月4日から6月3日まで2カ月間実施したネット署名5万2195筆を携えて小泉進次郎環境相に面会し、直接要望を伝えました。

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 前日の3日午後1時過ぎに、公明党元代表の重鎮、太田昭宏代議士(当時)の国会事務所からFAXで要望書を送付したうえで、当日も中野洋昌、鰐淵洋子という2人の公明党所属議員を帯同するなど用意周到ぶりが際立っていました。

「環境省は、業界の意見ばかり聞いていると言われるが、それでは環境省は何の為にあるのかということになってしまう。そうではなく広く活動している方々の意見を聞き、適正な数値規制を定めていきたい」

 Evaのサイトに掲げられている面談リポートによると、小泉環境相はそのように語ったということです。公明党の協力なしに自民党は政権運営ができませんから、公明党がこれだけEvaの要望を後押しすれば、環境相も真剣に対応せざるを得ないでしょう。

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遅すぎたペット業界の要望

 対するペット業界は、中部地区の業者中心に新設された全国ブリーダー協会が「(頭数制限案について)ブリーダーの実態について広く調査し、また広くヒアリングしたという事実はありません」として調査の実施を求めましたが、環境省は業界を納得させるだけのデータを持たないまま突き進みました(文書25)

 10月27日付で九州ケネル事業協同組合にいたっては「規模や地域の環境等の実情に合わせた基準とし、それを激変緩和措置も備えた上で段階的に適用する等の弾力的な運用を行うよう強く要望する」という抽象的な内容です。省令案を具体的に議論している時期にこうした要望を出すのは遅すぎたようです。(文書27)

 超党派の議員連盟や与党重鎮、大臣ら政治家の力を使う動物愛護団体と比べて、ペット業界は環境省の動物愛護管理室長と意見交換する程度だったようで、政策形成過程での影響力の違いは歴然としています。

  次回は、上限値の強化・緩和という弾力運用が消えた経緯を振り返ります。シェア・拡散を歓迎します。内容に共感された場合はサポートもよろしくお願いします(情報公開請求の費用などに充当しています)

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