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FRB利下げに救われた農中、CLO「含み損4千億円」、JAバンク合理化迫る

 2年ぶりに農林中央金庫の決算発表記者会見に出席してきました。先週、5月27日です。米国市場でのCLO(Collateralized Loan Obligation、ローン担保証券)に対する最大の機関投資家である農中の決算が気にかかったからです。

 会場は有楽町駅に近い農林中金本店の会議室。新型コロナ対策として、3人用のテーブルに1人ずつ。質疑応答も含めて1時間と区切り、終了後の名刺交換、挨拶も省略するというかたちでした。

 会見の招集範囲は日銀と農林水産省の記者クラブに所属する記者たちで、農水省内にいくつかある業界紙による農業や水産の専門記者会所属記者たちも大勢参加しています。

 筆者(元日本経済新聞編集委員)のような組織を離れたフリーランスのジャーナリスト(日本記者クラブ個人会員)も参加は可能ですが、農中広報から「質問は控えてください」と条件を付けられました。

 特別な法律に基づいて運営されている金融機関なのに残念な対応ですが、質問は終了後でも可能です。ここは争わず、理事長らによる決算説明を傍聴することを優先しました。


1.経常益はほぼ横ばい、自己資本比率は上昇

 農中の2020年度末の総資産は105兆5千億円で、そのうち市場運用資産残高は62兆2千億円あります。新型コロナの感染拡大による経済の落ち込みで、価格暴落リスクが懸念されるCLOもピーク時8兆円を保有していて、「大きな損失をもたらしているのではないか」とする見方もありました。

 しかし、結果だけをみると、拍子抜けするような内容でした。大きな業績悪化は見られなかったのです。

 2019年度(2020年3月期)の経常利益は1229億円(2018年度1245億円)でほぼ横ばい。純利益は920億円(同1035億円)で、若干減り方が大きいとはいえ、自己資本は上昇しました。普通出資等Tier1比率は19.49%(同16.59%)、総自己資本比率は23.02%(同19.65%)です。

 ドル金利低下のおかげといっていいでしょう。詳しくは後で紹介しますが、米中貿易摩擦などによる経済の変調を受けて米連邦準備理事会(FRB)が予防的利下げを実施したため国際投資のもとになるドルの資金調達コストが下がり、利益の落ち込みを回避できたのです。

 2020年に入ってからの新型コロナ危機に対しても、空前の大規模な金融緩和を実施したことで、ドル資金の調達に支障をきたさずに済みました。そして、信用度の低い企業向けローンを裏付け資産とするCLO価格も農中など邦銀が主に保有するAAA格の商品も危惧されたほどには価格が下がらず、決算への悪影響はほとんどなかったのです、

2.「1兆9千億円増資」の苦い経験

 2008年のリーマン証券破綻に端を発する金融危機では、サブプライムローンなど住宅向け融資を裏付けとする住宅ローン担保証券(RMBS)の価格の暴落で農林中金は大きな損失を被り、翌2009年春、1兆9千億円もの大型増資に追い込まれました。

「住専以上の態勢を整えて、農中を支援する」

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