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上限「15頭」が一人歩きする環境省犬猫数値規制⑧立ち入り調査で「問題なし」の業者7割~環境省アンケート調査から

1、現場での「指導」の状況を明らかに
 
 

「地方自治体による動物愛護管理法の施行状況調査について」という環境省によるアンケート調査結果が2018年1月25日開催の中央環境審議会動物愛護部会に提出されています。

 保健所・動物愛護センターを運営している全国の都道府県・政令指定都市・中核市115自治体を対象に2016年度(2016年4月1日から2017年3月31日まで)の実績を問うたものです。

 動物愛護管理法に基づいて立ち入り調査を実施した第一種動物取扱業者の施設数2万5053のうち指導を行った施設数4899で、割合は19.5%でした。犬猫販売業に限定すれば、8683施設に対し2536施設で、割合は29.2%と高めですが、7割は「問題なし」と認められてきたわけです。

 立ち入り検査は新規登録時か登録更新時のほかは苦情があれば行うというところが多いようで、定期的に実施しているのは39自治体で全体の3分の1程度のようです。

2、新規制は「問題なし」業者にも影響

 7月に環境省の数値規制案、特に従業員1人あたりの飼養頭数制限の上限値(繁殖犬の場合は15頭まで)が公表されて以来、「問題なし」とされてきた業者も多くは規制の影響を受けることが明らかとなり、ペット業界には激震が走っています。

 同時に、動物愛護関係者の一部からはビジネスとして繁殖業を営むこと自体を攻撃する声も出ていて、知り合いのブリーダーからは「職業差別みたいな攻撃を受けて悔しい」という嘆き声も聞きました。アンケート調査の結果をみれば、問題はあるものの大半が悪質とみなされる業者ではないこともまた明らかなのではないかと私は思いました。

 環境省は毎年「動物愛護管理行政事務提要」を作成し、公表していますが、ここでは立ち入り調査件数や法律に基づく勧告、措置命令、業務停止命令、登録取り消しの件数しか触れられておらず、2018年度実績の場合、勧告27件、措置命令1件にとどまっています。

 2016年度に実施したアンケート調査は、現場で一般的に行われる指導の実態がつかめるという点で貴重です。2016年度からさらに状況は変わっている可能性がありますので、環境省はせめて2019年度の実績について改めて調査して公表してはどうでしょう?

 2021年6月から導入する数値規制が悪質ブリーダーにレッドカードを出しやすくすることが目的であるなら、こうした現場での調査、指導の実態と数値規制により「要改善」と指摘を受ける業者が必ずしも一致しない可能性があることにも考慮する必要があるでしょう。

3、指導後の状況「未確認」多数

 アンケート調査によると、指導した結果、改善された施設数は957、一部改善された施設は382、改善されなかった施設97でした。犬猫販売業に限定したデータはありません。

 指導後の状況は「未確認」というところが2517施設あり、この調査から断定的なことは言うのは難しいのですが、指導すればかなりの確率で改善され、指導に従わない施設はかなり少ないという可能性はあります。

 犬猫等健康安全計画の遵守状況も遵守施設9418に対し、遵守されていない施設数130でした。繁殖や販売から引退した犬猫の取り扱い方針も書き込む重要な計画です。

遵守されていない施設の改善状況も未確認が51ありますが、改善された施設14、一部改善された施設35、改善されなかった施設23でした。

 犬猫の個体の帳簿の記載と保存、報告状況では必要な事項がすべて記載され保存されていた施設数6084、記載内容に不備があった施設数1464、帳簿を備えず、記載せず、あるいは虚偽の記載をしたりした施設数は427でした。

4、「複数回」の指導後に勧告、そして命令へ

 動物販売業者定期報告届出書を提出する必要があった犬猫等の販売業者数1万6046に対し届け出受理数は1万3378しかありませんでした。未提出者への対応として、勧告・命令を実施した自治体はゼロ、督促など指導を行った自治体は86ありました。施設がなかったり、連絡が取れなかったりして指導できないという自治体は11、動物取扱責任者研修会の際に説明するという自治体も1つありました。

 動物愛護管理法では、都道府県などは第一種動物取扱業者に対し、勧告、措置命令、さらに業務停止、登録取り消しを命令することも可能です。たいていの場合は、複数回指導して改善されない場合は勧告を行い、それでも改善されない場合に措置命令を発し、次に業務停止や登録取り消しを行うという手順を決めています。しかし、アンケート調査では、「具体的な手順・条件等について定めていない」とする自治体が27ありました。

5、自治体の監視体制の確立も必要

 報告徴収や立ち入り検査を拒否の有無も調べたところ、第一種動物取扱業者で6件、第二種動物取扱業者で1件ありました。拒否された場合、警察と連携して立ち入る場合もあるようですが、このアンケートでは、自治体が検査しようと思えば、拒否されることはあまりないという結果になっています。

 今回の数値規制の導入は、ペット業界に激震が走っていますが、実は現場で動物取扱業者を監視する各地の動物愛護センターも仕事量が激増する不安を感じて、必要な人員の確保など支援策の検討を環境省に要望しているところもあるようです。

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