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ピースウィンズ・ジャパン「現代アートセンター計画」への疑念広がる~愛媛県上島町②CCA北九州「関与せず」と説明


1、個人として夢を語り合う

 「大西氏とは昔からの仲良しで、私もいずれリタイアするときが来るから、豊島のような場所に施設ができるならこれまで個人で集めた所蔵品などを無償で提供してもいいという話は何年か前からしているのは確かです」

 CCA北九州ディレクターの中村信夫氏から筆者に電話がかかってきたのは2020年6月のことでした。以前にもnoteでこの時のコメントを紹介したことがあります。

 その時期、愛媛県上島町議会で、現代アートセンター建設用地を認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)に払い下げる議案が可決されました。

 PWJは上島町に提出した豊島現代アートセンター建設計画書の中で、CCA北九州を「事業パートナー」であると説明していました。

 私が「どんな美術品や資料を提供する予定なのでしょうか」という質問をCCA北九州やそのスポンサーである北九州市役所に送ったところ、中村氏が回答してくれたのでした。

2、本当に事業パートナーなのか?

 中村氏の説明は、PWJによる上島町への説明とかなりの食い違いがありました。

 1点目は、PWJが町有財産の払い下げを受けるにあたって役場に提出した建設計画についてです。

 中村氏は私が問い合わせをするまで、豊島現代アートセンター建設計画の内容やそれが町役場に提出された事実を知りませんでした。

 2点目はCCA北九州が「事業パートナー」という点です。

 CCA北九州はスタッフを雇ったり、資料を購入したりする費用を含めて北九州市からの財政援助を受けて運営されています。中村氏は豊島を訪れたりして、大西健丞氏と「実現できたらいいね」と夢を語り合ったことはあるものの、それは個人所有の美術資料を提供するなど限られた範囲のものを想定していました。

 ディレクターである中村信夫氏個人の名前ならともかく、「CCA北九州」という団体が「事業パートナー」であるとするPWJの説明は「虚偽」もしくは「誇大広告」である可能性があるのです。

3、北九州市から累計14億円の補助

 CCA北九州は、鉄冷えに沈んでいた北九州を現代アートで活性化する目的で誕生した任意団体です。現代アートの専門家である中村氏の存在あってこそ人が集まる常設の学習・研究機関ですが、同時に創設当時の北九州市長末吉興一氏(市長在任期間1987~2007)の理解と協力なしには生まれることはなかった事業でもあります。

 その概要をCCA北九州のホームページから紹介しましょう。

 ・非営利の公的学習・研究機関として北九州市の助成により1997年5月に開設されました。

 ・現代美術の分野で主導的な活動をおこなう世界の研究機関・美術館やアートスクールをはじめ、アーティストやキュレーター、美術批評家等とも緊密に連携して、センター活動のさまざまな局面で協力・共同プロジェクトを実施しています。

・現代美術に関する充実したライブラリー・コレクションを構築しつつ、双方向に築くグローバルなネットワークから得られる情報・資料とともに、ひろく活用していくことも重点的に図られます

 北九州市役所からは別表(写真)のように多い時期には年間1億円以上の予算が与えられていました。市長交代後、金額は減少気味とはいえ、いまも年間4千万円前後、北九州市による資金援助が続いています。

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 2019年度までの公費援助累計額は14億円余りにのぼるそうです。

4、建設資金、企業からの寄付を想定

 予算が減り、それに応じて講師らの招へい、セミナー・展覧会の開催頻度も減っています。それでも、事務局スタッフらの人件費、ライブラリーの資料購入などを主として公費でまかなっている状況は変わりありません。決して、中村氏個人の所有物ではないのです。

 PWJが上島町に提出した豊島現代アートセンターの計画書によれば、PWJは町から土地・建物を取得した旧・豊島コミュニティセンターを改築し、2023年春に豊島現代アートセンターとしてオープンさせる予定です。建設費は2億円程度と想定し、「企業経営者等からの調達による自己資金でまかなう」と説明していました。

 芸術の素人集団であるPWJは、「豊島現代アートセンター」をどののように運営するのでしょう?計画では次のように説明しています。

・ライブラリー 現代美術センターCCA北九州が所蔵・管理している作品集、アーティスト関連書籍、1980年代以降の主要展覧会のカタログなどを開架展示し、来館者の閲覧に供する

・ギャラリー アート作品の展示スペースを設け、将来的には島を訪れる富裕層に作品を販売するギャラリーとしても機能させる。また、小規模な国際会議や現代アート関連のセミナーなどの開催スペースとしても活用する

・創作スペース CCA北九州との連携により、世界の中堅・若手アーティストを招聘し、島に長期間滞在しながら作品を制作する場を提供。作品の販売を仲介する。

 ほとんどCCA北九州頼みといっていい内容です。

 個人で「夢」を語り合ったつもりが、こんな事業計画になって出回って、町有財産の払い下げの要望にも利用されていたことを中村氏ですら知らなかったのですから、CCA北九州のスポンサーである北九州市役所は何も知りませんでした。

5、事務局は「個人の協力」と説明

 私が問い合わせをしたことで、北九市役所から説明を求められたのか、電話の向こう側で話す中村氏は困惑した様子でした。

 いまもCCA北九州に聞くと、事務局の幹部は「CCA北九州は関与していません。中村個人による協力だと聞いています」と説明します。上島町役場の人たちも確認してみるといいでしょう。

 PWJはどうして、CCA北九州の運営責任者である中村氏個人に協力してもらう予定だと素直に説明しなかったのでしょう。

 北九州市役所やCCA北九州の幹部が説明するように、CCA北九州は豊島現代アートセンター建設計画への参加を了解していないのなら、PWJが町役場に提出した計画の内容や事業パートナーという説明は「ウソ」だといってもいいくらいだと私は思います。

 企業経営者らお金持ちから建設資金の寄付を募るため、豊島現代アートセンター計画に「箔をつけたい」と思ったのでしょうか?読者の皆さんはどのようにお考えでしょう。

 非営利組織をいくつも立ち上げているNPO連続起業家・大西健丞氏率いるPWJの活動に危惧を覚えるのは、このような事実と異なる説明、あやふやな事業計画にしばしば遭遇するからです。

 彼らの説明にはファクトチェックが欠かせないと私は思います。

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