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上限「15頭」が一人歩きする環境省犬猫数値規制⑨義務で縛る~これまでの無策の代償、ペット業者に押し付け


 再び、情報公開制度を利用して環境省から入手した行政文書の紹介です。今回紹介する行政文書は「飼養管理基準案」です。超党派の犬猫殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟(尾辻秀久会長)からの要望を受けて、環境省案、つまり環境省を事務局とする専門家の会議「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」の報告とりまとめに向けて、議連案の内容を検証した資料です。

 いくつか事例を紹介します。

寝床(犬)の構造

議連案「寝床及び休息場所は室内にあり、活動場所と分かれていること」(連絡会)

環境省コメント「活動場所と寝床が一体になった飼養形態(Evaから優良事例として紹介があった柴犬ブリーダー等、広いスペースでの平飼いのような形態)は認めないということか」「模式図ではケージ内に活動場所と寝床があるように見えるが、どのような状態を想定しているのか確認したい」

連絡会とは、動物との共生を考える連絡会のことで、青木貢一獣医師が代表者です。公益財団法人日本動物愛護協会、公益社団法人日本動物福祉協会、学校法人ヤマザキ学園などのエキスパートの集団です。

Evaとは、女優・杉本彩さんが理事長を務める公益財団法人動物環境・福祉協会のことです。

環境省案には「広いスペースでの平飼い」向けに運動スペース一体型の基準もしっかり盛り込まれています。

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1人あたり販売犬等20頭

議連案「犬を販売若しくは保管する者は、20頭までの犬ごとに職員1人を配置しなければならない」(出典:英国ガイドライン、連絡会)

環境省コメント「イギリスのガイダンス(犬の保管業)では、参考数値として職員1人に対しおよそ25頭を定めているに過ぎない。販売業については参考数値もなし」

 英国のガイダンスでは参考数値にとどまると指摘したものの、環境省案は議連案をそのまま踏襲しています。留意点として、施設により飼養状況が異なることを考慮し、「環境省令で定める基準等の範囲内で、都道府県等が飼養頭数の上限値を減少又は増加させる規定を検討する」あるいは「課題のある事業者の上限値強化と優良な事業者の上限値緩和を検討する」としていましたが、10月7日に公表した省令案では上限値の強化・緩和の採用を見送りました。

雌犬の出産

議連案「雌犬の出産は1歳以上6歳まで、年1回までとすること」(英国動物福祉規則ほか)

環境省コメント「6歳とする妥当性はあるか。英国動物福祉規則では出産が合計6回までと規定されており、年齢上限6歳ではない(環境省の誤訳)イギリスのガイダンスでも、優良基準(良い格付けを得るための基準)で8歳以上の雌の交配禁止となっている。

環境省案では「交配は6歳まで(満7歳未満)とする」「ただし、満7歳時点で生涯出産回数が6回未満の場合は、7歳まで(満8歳未満)とする」となっています。


運動時間

議連案「健康であり運動が可能な成犬は犬種に応じて少なくとも1日に2回、リードに繋いで散歩を最低20分以上行うこと、ケージ内に運動場が設けられている場合は、覚醒時間の50%以上、自由に運動場に出られる状態にしておくこと」(英国ガイドライン、フランス・アテレ、スウェーデン犬猫庁)

環境省コメント 「運動場」の定義は何か(「活動場所」と同等か)。イギリスのガイダンスでは1日1度の散歩又は安全な広場での運動の機会となっており、20分以上の散歩は優良基準(良い格付けを得るための基準)となっている。フランス・アテレには散歩に関する記述なし。「寝床及び休息場所は室内にあり、活動場所と分かれていること」という項目があるが、この規定との関係を確認したい

環境省案では、運動スペースが寝床・休息所と別になっている運動スペース分離型について、「1日3時間以上運動スペースに出し、運動させることを義務付ける」となっています。分離型の場合は運動スペースを交代使用することも想定されています。

英国では「参考」、日本では「義務」

 超党派の動物愛護議連が英国はじめおもに欧州諸国のルールを参考にしてまとめた規制案を検証しながら、環境省が専門家の意見も聞きながらまとめたものが環境省案ですが、これらはすべて遵守すべき基準となります。

 参考にした外国の事例が「参考数値」という場合も含めて、環境省令の数値は遵守すべき基準、違反すれば処分を受ける可能性のある義務的な規制です。

 地方自治体は条例で数値の基準を設けることもできたのですが、これまで導入した事例はありません。わずかに岡山県動物愛護センターが「1人あたり小型犬30頭(大型犬はそれより少なく)」という文書化されていない目安を10年ほど前から採用していることが知られているくらいです。

岡山県の30頭はあくまで目安

 その岡山県の例も絶対的な基準としては運用せず、他の飼養環境も勘案して総合判断して動物取扱業者の指導にあたっています。最近では広島県神石高原町のNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、大西健丞代表理事)が県境を越えておよそ700頭の保護犬を運び込んだ岡山県高梁市の西山シェルターを立ち入り検査した際、1人あたりの飼養頭数が多すぎるとして是正を指導したことが明らかになっています。

 気がかりなのは、そうしたトライアルもなしに果たして、これだけ広範囲な数値規制を導入して混乱が生じないかという点です。

 環境省は十分な準備期間(経過措置)を設けると明言していますが、いまのところ具体案は示されていません。英国などの例でも「参考数値」にとどまると指摘されている頭数制限も日本では守るべき義務となります。

 数値すべてを義務とするというこの厳しさの背景には、これまで指導基準を数値でわかりやすく示さず、悪質業者に退場を迫ることができなかった後ろめたさもあるのかもしれません。

経過措置3年以上必要という声も

 岡山県のような工夫がせめて、首都圏や中部、近畿圏の都府県、政令市で行われていたら数値規制の導入でこれほどペット業界が動揺し、地方自治体も慌てることはなかったでしょう。

 超党派動物愛護議連のアドバイザーを務める女優の浅田美代子さんや朝日新聞Sippoの専門記者太田匡彦氏らは、経過措置を認める場合は、数値規制に対応して施設を広くするために「移転先の土地を買う」とか「設備投資をする」とか「人を増やす」とか一筆入れたペット業者に限るべきだと、YouTube番組など勝ち誇ったように叫んでいます。

 国や地方自治体にもやろうと思えばできることがいくらでもあったのですが、動物取扱業者を一方的にたたいているのです。

 ブリーダーなど販売業者の側からそうした愛護活動家の振る舞いに対する反発の声は日増しに大きくなっていて、愛護団体と提携して引退犬猫や販売に不向きな犬猫を引き渡してきたペット販売業者も自前で譲渡するネットワークを広げ始めています。

 悪質な動物取扱業者の手元から犬猫を引きはがすという名目で「ちゃっかり自分の好みのペットを手に入れた愛護活動家もいた」という声も聞きました。愛護団体もペット業界も互いの対立をあおるような振る舞いを自制して、冷静に議論をすべき時のような気がします。

環境省は「念書」をとるか?

 関西のある自治体の動物愛護センター幹部は「動物取扱責任者の資格要件も今年6月から厳しくなったが、3年間の経過措置が設けられている。新しい数値規制も最低3年以上の経過措置が必要だと思う」と語っています。

 環境省は、果たして、太田記者や浅田さんがいうような「念書」をペット業界に求めるのでしょうか?要注目です。

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