準備期間、予防策の論議にペット業界実態分析が不可欠~データ収集怠る環境省

1、無駄なFAX意見書分析 

 環境省への情報公開請求の2つ目は以下のような内容です。

10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会において、数値規制案について見直し、慎重審議等を要望した繁殖業者等のFAX書面等に記載された経営データを分析したところ、半数以上が規制の要件を満たせると答弁した担当室長の発言を裏付けるデータの集計、分析を行った記録一式(要望文書そのものは別途開示申請を検討する)

 14日、環境省動物愛護管理室の長田啓室長らにお会いした際、実際に集計、分析した資料を見せていただきました。その資料の写しは、プライバシー保護のための「黒塗り」などの処理をされて11月中旬くらいに開示されることでしょう。

 環境省「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会が示した頭数に関する規制案は、①犬は1人当たり繁殖犬15頭、販売犬等20頭までとする②猫は1人当たり繁殖猫25頭、販売猫等30頭までとする、という内容でした。

 その内容が厳しすぎるといって、ペット業界は環境省にFAXを送って見直しを要望しました。そこには飼養頭数など経営状況に関するデータも書き込まれていたので、環境省はそれを集計したのです。

 意見を寄せた犬のブリーダーは156業者で、スタッフ1人あたり15頭という上限内に現時点でおさまっている業者は51%ありました。猫のブリーダー86業者にいたっては1人25頭という上限におさまる業者がほとんどで、それを超過する業者はわずか6%弱だったようです。

 資料をもとに、動物愛護部会の質疑で長田室長は「半分くらいは基準を満たしている」と説明しました。それはいまでも規制をクリアできる業者が半数以上いるのだから決して厳しい規制ではないと言いたげでした。

2、犬は65%が基準におさまらず

 しかし、このデータの読み方は、特に犬のブリーダーの場合、およそ半数の業者が人を増やすか、犬を減らすかの対応を迫られているという点に重きを置いて理解すべきなのではないでしょうか?環境省は集計結果の利用法を間違っていると思います。

 この点に関しては、犬猫適正飼養推進協議会(石山恒会長)が今年8月に犬猫のブリーダー1113社から回収したアンケート調査結果をまとめています。基準(繁殖犬15頭、繁殖猫25頭)を超過するブリーダーの割合は犬で65%、猫で32%に及ぶ内容でした。(表参照)

 協議会の調査結果に比べれば、環境省のFAX分析のほうが要件を満たせる業者の割合が多いと長田室長は主張したかったのかもしれません。

 しかし、サンプル数の少ないFAXをわざわざ集計して、分析資料を作る時間があるくらいなら、全国の都道府県が動物取扱業者から年に1回報告を求めている頭数を集計すればいいはずです。

 本来あるべきデータの収集、分析方法をとらず、都合の良いデータをその場しのぎに仕立て上げるのは時間の浪費ともいうべき空しい作業です。

 犬猫適正飼養推進協議会は、数値規制の目的が「悪質な業者」を排除するため、事業者に対して自治体がレッドカードを出しやすくすることにあるとするなら「目的に対し過剰ではないか」と主張しています。

3、自治体から報告求め分析を

 10月7日の審議会で、全国ペット協議会の脇田亮治専務理事はそうした過剰規制にならないよう、せめて業者の3分の1くらいを対象とする実態調査を行うよう審議会で要望しました。

 脇田委員は調査に「5年」かけてもいいくらいという立場で、いくら何でもそれは時間稼ぎといわれても仕方がないと私は思います。しかし、動物の命を扱う事業への様々な影響を考えると、脇田氏が言う通り業者の飼養実態をできる限り詳細につかんでおくことは重要だと思います。

 都道府県などは年1回、動物取扱業者から飼養頭数の報告を受けています。環境省と自治体、ペット業界が協力すれば、おそらく1カ月もあれば実態をつかむことは可能なはずです。結果がまとまり次第、環境省は公表したらいいと思います。

 パブリックコメントの結果を待つためでしょうか、そもそも次の審議会を12月まで開かないというのも理解できません。時間があるのだからデータを整え、パブリックコメントの募集と並行して、専門家同士の議論を積み重ねていく必要もあるのではないでしょうか?

4、利害関係者との対話が不十分

 私は2010年頃から本格化した日本周辺の天然のクロマグロ漁獲規制の導入プロセスをずっと観察し、報道した経験があります。

 漁獲上限を設定するにあたり、クロマグロ漁業の承認制の導入から漁獲報告の義務化、魚種別、地域別の漁獲枠の配分、自主規制から法的規制への転換と徐々に整えていく手法は大いに参考になるはずです。

 そしてまた、水産庁はことあるごとに全国の主要な漁業基地に行って、自治体の水産担当者や漁業者との意見交換、対話を積み重ねていました。内容について誤解がないよう周知するだけではなく、現場でしかわからない事情も十分に吸収する必要があるからです。

 漁業は経済行為で、それに対する規制は漁業者の減収に直結しますから、水産庁は公正・公平な漁獲枠配分に腐心しました。大型巻き網漁船の業界からは補償を求める意見が出たこともあります。

 財源上の問題からそうした補償はとりませんでしたが、収入保険制度を充実させることで漁業者たちを納得させました。

 沿岸の釣り漁業者からは、乱獲の主犯とされる大型巻き網漁船に対する枠配分が「合理的な根拠もなく大きすぎる」という批判がいまもくすぶっているくらいです。資源管理制度の公平な設計、運営は、細心の注意を払ってもなお改良の連続なのです。

 犬猫の繁殖、販売はビジネスという側面があります。そしてその規模は、実を言うと日本沿岸で取れるクロマグロの漁獲高など比べものにならないほど大きいのです。規制の実施方法は、動物愛護、動物福祉という点から変革を求められているとはいえ、業者の経営への打撃を一切考慮せずに円滑に導入できるわけがありません。

5、「適切な準備期間」と「予防策」

 犬猫の流通規制は動物愛護という視点から行われるため、それを生業として扱っている繁殖業者、ペット販売店への考慮はあまりなされていないようです。それは、数値規制の原案を作成した動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会の最終回、今年8月12日の会合に出席した小泉進次郎環境相の発言にもはっきり表れています。

「従業員の員数に係る基準案については、1頭当たりの世話に必要となる時間を基に、繁殖犬については1人15頭などの基準をお示しした。事業者側からは、この基準に反対するような声も上がっているようだが、厳しい規制が嫌がられるかどうかといったことを判断のベースにするのではなく、あくまで動物のより良い状態の確保はどうあるべきかという視点に立つという考え方に変わりはない。後退することのないよう、しっかりと取り組んでいく」
 

 だからとって、飼養する犬猫の頭数を減らしたり、従業員を増やしたりするのにどのくらいの時間、コストがかかりそうか、業界の現状を示すデータを持たずして議論するのは危険極まりないことです。

 また、「罰則を伴う基準をも付けることで、急激な経営方法の変革を迫られて事業者が破綻廃業により飼育放棄や不適正飼養に至る可能性を考慮し、国は適切な準備期間を設けるとともに、事業者や自治体は必要な予防策や対応策を講じなければならない」とする同検討会の武内ゆかり座長提言の趣旨をくみ取った議論も必要でしょう。

 動物の命にも影響するルール作りです。準備期間や予防策について何ら具体的なアイデアを議論しないまま審議会を2カ月も空白にするのは、審議会の怠慢ではないでしょうか?

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